2012/10/16号◆癌研究ハイライト「放射線療法に化学療法を追加することでまれな脳腫瘍患者の生存率が改善」「HIVは米国男性における肛門癌発症率に関連」「HIV治療薬がHER2陽性乳癌細胞の成長を阻止」「運動や行動療法が乳癌治療による更年期障害を軽減」

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NCI Cancer Bulletin2012年10月16日号(Volume 9 / Number 20)

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◇◆◇ 癌研究ハイライト ◇◆◇

・放射線療法に化学療法を追加することでまれな脳腫瘍患者の生存率が改善
・HIVは米国男性における肛門癌発症率に関連
・HIV治療薬がHER2陽性乳癌細胞の成長を阻止
・運動や行動療法が乳癌治療による更年期障害を軽減
・(囲み記事)その他のジャーナル記事 リンチ症候群の検査方法を比較した研究

放射線療法に化学療法を追加することでまれな脳腫瘍患者の一部の生存率が改善

2つの臨床試験の長期追跡調査の結果から、退形成性乏突起膠腫(中枢神経系腫瘍に占める割合は10%以下)を有する患者の一部において、放射線療法のみを受けるより、化学療法との併用治療を受けた方が実質的に長く生存することが確認された。

1990年代半ばに始まった両試験において、腫瘍細胞の1番および19番染色体の一部に欠失がある患者では、放射線療法のみを受けたグループよりも、化学療法との併用を受けたグループの方が実質的に長く生存した。退形成性乏突起膠腫と診断された患者の約半数にこの染色体の同時欠失がみられる。腫瘍細胞にこの同時欠失がない患者では、併用治療による生存期間の改善はみられなかった。

患者にとって重要性が高いため、NCIおよび米国腫瘍放射線治療グループ(RTOG)は、学会で発表するより早く、臨床試験RTOG9402の結果を1月に公表した。この試験ともう1つの試験から得られた知見は6月の米国臨床腫瘍学会の年次総会で発表され、10月15日付のJournal of Clinical Oncology誌電子版に公開された。

「これらの試験は、1番染色体単腕(1p)と19番染色体長腕(19q)の同時欠失を持つ退形成性乏突起膠腫の患者に対する新しい標準治療を確立する。もはや放射線療法のみがこの患者グループへの適切な治療ではない」と、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのDr. Mark Gilbert氏は付随論説で述べた。

NCIが助成したRTOG試験において、PCV療法として知られるプロカルバジン(Matulane)+ lomustine(CeeNu)+ビンクリスチン(Vincasar)による高用量の化学療法を受けた後に放射線療法を受けた、染色体欠失を持つ腫瘍を有する患者グループの生存期間中央値は14.7年であった。これに対し、同様に染色体欠失を持つが、放射線療法のみを受けたグループの生存期間中央値は7.3年であった。

染色体欠失のない腫瘍を有する患者グループでは、併用療法であったか、放射線療法のみであったかに関わらず、生存期間中央値は3年以下であった。

もう1つの試験EORTC 26951では、患者は放射線療法のみ、あるいは放射線療法の後に標準投与量のPCV療法を受けた。染色体の同時欠失のあるグループで併用療法を受けた患者における全生存期間中央値は未だ算出できていないが、生存期間が改善されるはっきりした傾向が示されている。

しかしこの患者グループに対する望ましい治療法については不明確な部分も残っていると、RTOG試験の責任医師であるカルガリー大学のDr. Gregory Cairncross氏らは注意喚起した。例えば、多くの腫瘍医は退形成性乏突起膠腫の治療に(PCV療法ではなく)テモゾロミド(テモダール)を選択するようである。テモゾロミドは膠芽腫患者における生存期間を改善することが既に知られていて、副作用が少なく、PCV療法よりも投薬管理が容易だという理由からである。

1月、CODELと呼ばれる臨床試験への参加登録が中断された。この試験は1p19q欠失を有する患者のみを対象としており、放射線療法単独群か、テモゾロミドによる化学療法との併用療法群に無作為に割り付けるものである。染色体欠失を有する患者については化学療法と放射線療法による併用治療を強く支持するエビデンスがあるのにもかかわらず、放射線療法のみの患者群を設けるのは非倫理的であるためと、試験責任者は中断の理由を説明した。

NCI癌治療・診断部門のDr. Bhupinder Mann氏によれば、試験デザインの変更を年末までには完了すべく作業中である。

臨床試験RTOG 9402は米国国立衛生研究所(NIH)から助成金を受けた(U10 CA21661, U10 CA32115, U10 CA25224, CA17145, CA21115, CA32102, U10 CA37422)。

参考記事:「遺伝子異常により稀な脳腫瘍の治療効果を予測

HIVは米国男性における肛門癌発症率に関連

米国の男性における肛門癌発症率がここ数十年間増加しているが、同期間に発生したHIVの蔓延がその要因の一部である可能性が新たな研究により示唆されている。本研究結果は10月4日付Journal of the National Cancer Institute誌で発表され、男性の肛門癌発症率上昇を理解するための枠組みを示しており、さらにこの病気を予防するための取組みを決めるのに役立つであろう。

NCI癌疫学・遺伝学部門のDr. Meredith S. Shiels氏らの推定によると、2001~2005年の間、男性の肛門癌症例の28%以上にHIV感染との関連がある一方、女性の肛門癌症例ではわずか1.2%であった。

米国では肛門癌はまれであるものの、その発症率は1940年以来増加している。1980~2005年の間に、一般集団の男性における肛門癌の割合は毎年3.4%ずつ増加した。著者らは、この増加の半分以上はHIVに感染した男性で発症した肛門癌症例によるものであると述べた。

男性と性交渉を行った男性はHIV感染と肛門癌の両方のリスクが高い。肛門組織および肛門の前癌病変へのヒト・パピローマウイルス(HPV)感染は肛門癌のリスクを増加させるが、この患者集団ではよく見られる。しかし、HIV感染者での肛門癌発症率が一般集団での発症率にどの程度影響しているのかは不明であった。

この疑問を探索するため、著者らはHIV/AIDS Cancer Match Studyからのデータを用い、米国の17の州および大都市近郊でHIVに感染している肛門癌患者の数に着目した。

「HIV感染症例は、米国男性の肛門癌発症率の動向に大きな影響を及ぼしている」とShiels氏は述べ、女性での発症率も増加しているが原因は不明なままであるとも指摘した。「HIVに感染した男性における肛門癌リスクを低減するための取組みは、一般集団レベルでの肛門癌発症率にかなり大きな影響を及ぼすであろう」と医師は結論付けた。

本研究はNCI Intramural Research Programから一部支援を受けた。

さらなる詳細は「コスタリカのHPVワクチン研究で癌予防への理解深まる」を参照のこと。

HIV治療薬がHER2陽性乳癌細胞の成長を阻止

HIV患者の治療に用いられる薬剤のネルフィナビルが、HER2陽性乳癌細胞の成長を阻止するとみられる。ジョンズホプキンス大学医学部のDr. Joong Sup Shim氏らは実験室レベルで、HIV感染患者を安全に治療するために用いられる用量のネルフィナビルが、薬剤耐性HER2陽性乳癌細胞の成長を阻止したことを示した。本研究結果は10月5日付Journal of the National Cancer Institute誌に掲載された。

HER2陽性乳癌の治療薬として承認されている薬剤はいくつかあるが、これらの薬剤に対し腫瘍が耐性を生じることもあり、新たな治療が求められている。

研究者らは遺伝的性状の異なる7種類の乳癌細胞株に、ジョンズホプキンス薬物ライブラリーに目録が作られている抗癌剤やその他の病気の治療薬を投与した。(癌を引き起こすといわれている突然変異を有するかを判断するために、細胞のタンパク質をコードする遺伝子の配列を決定した)。

ネルフィナビルが、HER2陰性細胞と比較して、選択的にHER2陽性乳癌細胞の成長を阻止することが発見されると、研究者らはこの薬剤がHER2陽性細胞においてどのように機能するのかを探り、ネルフィナビルが熱ショックタンパク質(HSP)90と呼ばれるタンパク質を阻害していることを発見した。熱ショックタンパク質は「シャペロン」として働いており、新たに合成されたタンパク質の折りたたみを促し、それらの構造を安定化させる。HSP90の活性がネルフィナビルに阻止されると、通常折りたたみを促し構造の安定化を行っていたタンパク質は正しく機能しなくなる可能性がある。

HSP90はHER2タンパク質やAKTと呼ばれるシグナル経路のタンパク質の安定化に寄与しているため、HSP90の活性を阻止することでHER2やAKTの分解またはそれらの活性低下につながると著者は説明する。こうして、異常なHER2シグナルなしには機能できない癌細胞の成長を減速または阻止できる可能性がある。

研究者らが異種移植モデルを用いてネルフィナビルの実験を行ったところ、ネルフィナビルを投与されたHER2陽性の腫瘍を有するマウスでは、腫瘍の大きさが薬剤を投与されていないマウスの半分以下となった。さらに、ネルフィナビルは腫瘍の活性HER2レベル(AKTではない)を大幅に引き下げた。細胞培養試験では、抗HER2薬であるトラスツズマブ(ハーセプチン)やラパチニブ(タイケルブ)に耐性を持つ3種類のHER2陽性細胞の成長をネルフィナビルが阻止した。

研究者らはすぐに臨床試験が開始されることを望んでいる。実施可能な抗HER2治療に対し耐性のある患者は予後が良好でなく、こうした患者のためにネルフィナビルの臨床試験を実施することは、試験を行う強い論拠となると当研究の上席著者であるDr. Jun O. Liu氏は説明した。

他の疾患のために既に承認されている薬剤を用いることの利点として、現在臨床で使用されている用量での試験であれば、第1相試験を通り越して第2相試験へと進むことができると医師は加えた。本研究チームがこの選別プロセスを通じて発見した他の薬剤には、腫瘍の血管形成を阻害するイトラコナゾールという抗真菌剤/抗生剤があり、すぐに癌患者を対象とした第2相試験へと移行したと医師は述べた。(これらの試験詳細:URL1URL2URL3を参照のこと。)

本研究は米国国立衛生研究所から助成金を受けた(CA122814, R01AI065983, UL1 RR 025005)。

運動や行動療法が乳癌治療による更年期障害を軽減

オランダの試験によると、治療に関連した更年期障害に苦しむ女性乳癌患者が、認知行動療法や運動、またはその両方により症状緩和を得た。この知見は10月8日付Journal of Clinical Oncology誌に発表された。

オランダ癌研究所のDr. Neil K. Aaronson氏らは422人の患者を無作為に行動療法、運動、これら2つを組み合わせた治療介入、または通常の治療を受ける対照群に割り付けた。本試験の目的は、心理的介入や運動が、ほてりや寝汗などの更年期障害や性的機能、精神的充足、健康関連QOL(生活の質)に及ぼす影響を評価することであった。患者らは試験開始時、12週間後および6カ月後に症状について報告を行った。

対照群と比較すると、こうした治療介入を受けた女性の内分泌的症状および泌尿器症状は統計的に有意な低下を示しており、行動療法および運動は身体機能に好ましい結果をもたらした。しかし、運動は「主に内分泌症状の頻度に影響を及ぼしたものの、ほてりや寝汗などの頻度には特に影響をもたらさなかった」と研究者らは述べた。一方、「認知行動療法は症状の発現頻度に影響しただけでなく、ほてりや寝汗などの負荷の感じ方にも影響を及ぼしたようだ」。

メイヨークリニックの研究者であるDr. Debra Barton氏およびDr. Charles Loprinz氏は関連論説で、「限界はあるものの、(症状に対する)生物医学的な影響のみを考慮するだけでは不十分であることが本試験で示された。症状を完全に消失させるには、症状の生理的発現および心理社会的背景の両方に踏み込む必要があるだろう」と述べた。

その他のジャーナル記事:リンチ症候群の検査方法を比較した研究大規模な国際的な大腸癌の全数調査により、DNAミスマッチ修復(MMR)遺伝子の検査が、リンチ症候群患者を発見する上で、他の検査方法よりも精度が高いことが判明した。研究者らは腫瘍のMMR遺伝子検査を他の3つの検査戦略(べセスダ基準、エルサレム勧告、リンチ症候群に関連する変数の解析)と比較した。これらの知見は本日のJAMA誌に発表された。しかし、MMR遺伝子検査がもたらしたのは「中程度」の改善であり、この大腸癌の検査で、リンチ症候群を有する人の15%が診断されないままとなりうる。リンチ症候群患者を特定することは、患者の親族が発症する前に診断を行う上でも重要である。これによって親族は癌リスクや癌死を減らすための予防手段を講じることができると著者らは説明した。この研究は米国国立衛生研究所(NIH)から助成金を受けた(CA67941およびCA16058)。参考記事:「リンチ症候群のスクリーニング検査、米国の各がんセンターで対応に差

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岡田章代、北川瑠璃子 訳
西川 亮(脳・脊髄腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター)、原野謙一 (乳腺・婦人科癌/日本医科大学武蔵小杉病院) 監修 
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