2012/09/18号◆癌研究ハイライト「診断用放射線曝露によるBRCA1/2変異保持女性の乳癌リスク増加」「ヒトでの最初の試験で腫瘍抑制因子標的薬が有望に」「乳癌リンパ節転移の機序が明らかに」

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NCI Cancer Bulletin2012年9月18日号(Volume 9 / Number 18)

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◇◆◇ 癌研究ハイライト ◇◆◇

・診断用放射線曝露によるBRCA1/2変異保持女性の乳癌リスク増加
・非小細胞肺癌患者を対象にした試験薬バビツキシマブの第2相臨床試験結果に重大な矛盾
・ヒトでの最初の試験で腫瘍抑制因子標的薬が有望に
・乳癌リンパ節転移の機序が明らかに
・(囲み記事)中国農村部では有煙炭と肺癌リスク増加に関連性あり
・(囲み記事)最良の医療実践で小児癌患者における中心ライン関連感染症が減少

診断用放射線曝露によるBRCA1/2変異保持女性の乳癌リスク増加

BRCA1あるいはBRCA2遺伝子に変異を有する30歳未満の女性では、従来のX線、マンモグラフィー、また他の診断用の検査で受ける放射線によって乳癌リスクが高まるかもしれない。大規模な後ろ向きコホート研究において、他の乳癌高リスクコホートが受けた量よりもかなり低い放射線量で、このリスク増加が観察された。

この知見は、GENE-RAD-RISK試験に参加したフランス、オランダ、英国の女性の研究解析から得られ、9月6日付BMJ誌で発表された。

電離放射線への曝露、特に若年での曝露は乳癌において立証されているリスク因子の1つである。BRCA1およびBRCA2タンパク質は、放射線によるものも含め、DNA損傷を修復するうえで重要である。そのため研究者らは、どちらかの遺伝子に変異を有する女性は、遺伝子変異のない女性よりも電離放射線に対して傷つきやすいのではないかという仮説をたてていた。しかしこの疑問に答えるべくデザインされたこれまでの研究では一貫した解答は得られていない。

アムステルダムにあるオランダ癌研究所のDr. Flora van Leeuwen氏が主導したこの新しい試験では、BRCA1またはBRCA2遺伝子に変異を有する18歳以上の女性1122人に焦点を当てた。女性らは胸部や肩への放射線も含め、それまでに受けた診断手法の全てを報告した。研究者らはこの情報を使ってそれぞれが乳房に受けた累積線量を評価した、さらに国家登録や医療記録を使い試験参加者の乳癌診断を確認した。

30歳未満で診断用放射線への曝露がなかった場合と、曝露があった場合とを比較すると、BRCA1/2変異を有する女性で、約2倍の乳癌リスクに関連していた。30歳未満で放射線量の累積が最も高い女性でのリスクはほぼ4倍であった。それに対して、30歳から39歳までで被曝した女性と乳癌リスク増加との関連性については証拠が得られなかった。

BRCA1あるいはBRCA2変異は乳癌発症リスクを大きく増加させるため、ガイドラインによってはこの変異を有する女性についてはマンモグラフィーによる定期検診の開始年齢を25歳から35歳に変更するよう勧告している。

これらの知見は「BRCA1あるいはBRCA2変異を有する若い女性を観察するにあたって、主な手段として非電離放射線による画像技術(MRIなど)の使用勧告を支持するもの」と著者らは結論づけた。

NCIの癌予防部門長であるDr. Barry Kramer氏は次のように述べた。電離放射線の影響に対し特に感受性が高い女性における放射線被曝と乳癌リスクの関連性について、この試験は「私たちの知見を裏づけている」。しかし「この試験の証拠は決定的なものではない」と注意喚起した。

著者らは患者自身による被曝報告に対する信頼性は統計的偏りを招いた可能性もあることを認めている。「癌患者は癌でない人よりも、放射線被曝を思い出す傾向が強いかもしれない」とKramer氏は説明した。

同氏は続けた。さらに決定的な証拠が得られるまでは「BRCA1またはBRCA2変異のある女性は、現段階で解明していることと解明していないことの両方について知る必要がある」。医師は患者1人1人の検診および予防の選択肢を見直し、それぞれの良い面悪い面の可能性について患者が考えられるよう助けるべきであると締めくくった。

参考文献:“Clinical Management of BRCA Mutation Carriers

非小細胞肺癌患者を対象にした試験薬バビツキシマブの第2相臨床試験結果に重大な矛盾

NCIキャンサーブレティン2012年9月18日号の癌研究ハイライトに、非小細胞肺癌患者を対象にした試験薬バビツキシマブ(bavituximab)の第2相臨床試験結果を掲載した。結果は2012年のシカゴ胸部腫瘍に関する学際的シンポジウム(2012 Chicago Multidisciplinary Symposium in Thoracic Oncology)で発表されたものである。

9月24日、バビツキシマブを製造し第2相臨床試験に資金援助したPeregrine社は、ニュースリリースを発表し、同社は試験の実施方法のいくつかの面で「重大な矛盾」を確認したと説明した。同社は矛盾の影響を判定し次第、情報公開する意向である。

ヒトでの最初の試験で腫瘍抑制因子標的薬が有望に

腫瘍抑制因子p53の変異型を再活性化する治験薬がヒトに対して安全であることが、第1相試験の結果によって明らかになった。APR-246と呼ばれるこの薬剤は、末梢血から分離した腫瘍細胞でp53を制御する情報伝達経路も刺激した。

この試験はストックホルムにあるカロリンカ大学病院Dr. Sören Lehmann氏の主導によるものであり、Journal of Clinical Oncology誌に発表された。

バンダービルト大学医療センターのDr. Brian D. Lehmann氏およびD. Jennifer A. Pletenpol氏は、この結果は「癌細胞で最も高頻度に変化が認められる経路を標的とする上で大きな前進」であると付随記事で述べた。

p53タンパク質は、細胞サイクルを遅くする遺伝子、細胞分裂を妨げる遺伝子、またはプログラム化された細胞死(アポトーシス)を引き起こす遺伝子の発現を増大させることによって腫瘍の増殖を抑える。全腫瘍の少なくとも半分では、p53を産生する遺伝子TP53で起こる不活化変異が起こって、腫瘍はこの制御を免れる。APR-246は、p53タンパク変異体の遺伝子制御活性を復活させ、癌細胞死を誘発することによってTP53の変異に対抗する。

試験に参加した患者22人は、さまざまなタイプの白血病、ホルモン不応性転移性前立腺癌、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫であった。このような患者を対象にしたのは、前立腺癌でTP53変異が高率でみられるためと、予備試験でp53を標的とする薬剤に対して白血病が特に感受性を示したためであった。

患者には連続4日間にわたりAPR-246を点滴静注した。17日間の追跡調査後、最もよくみられた副作用は、疲労、めまい、頭痛および錯乱であった。

この試験は薬剤の抗腫瘍効果を評価するものではなかったが、数人の患者に臨床効果がみられた。APR-246の生物活性を測定するために、Lehmann氏らは、患者6人から治療の前後4日目に血中を循環する腫瘍細胞を採取して解析した。そのうち4人では、APR-246治療後に増殖細胞の減少が認められた。研究者らはアポトーシスおよびp53標的遺伝子の発現増大の徴候も観察した。

循環腫瘍細胞から単離したRNAのマイクロアレイ解析によれば、細胞増殖と細胞死を制御する遺伝子に変化があった。アポトーシスを促進する遺伝子の発現レベルはAPR-246の投与量に相関関係があると考えられた。

点滴時間の延長によって高用量とするAPR-246の効果と、p53の遺伝子機能が有効であることに依存する化学療法を中心に、ほかの化学療法とAPR-246の併用療法の効果を検討するために臨床試験が計画されている。

乳癌リンパ節転移の機序が明らかに

最近の研究で、乳癌がどのように近傍のリンパ節に広がるかの新しい見識が示された。また、通常は心不全に使用される薬であるジゴキシンが、この過程を遮断できる可能性があることも示唆された。この知見は9月10日付全米科学アカデミー紀要(PNAS)誌に発表された。

リンパ組織は癌細胞が循環系に到達し、遠位の臓器へ移動する重要なルートである。癌細胞はそこで転移癌を生じるのである。転移は癌死の主な原因となっているが、その仕組みはよくわかっていない。しかも転移を狙い撃つ積極的な治療法はない。乳癌においては、転移性疾患を有する大半の女性にリンパ節転移が生じている。

マウスを使った実験で、ジョンズホプキンス大学のDr. Gregg Semenza氏らは乳癌細胞がリンパ節へ広がる過程で低酸素誘導因子1α(HIF-1α)が直接的な役割を果たしていることを示した。HIF-1αはHIF-1タンパク質のサブユニットで、低酸素状態(腫瘍内部も同様)での血管新生を促進する。このHIF-1αが PDGF-B遺伝子(血小板由来増殖因子B鎖タンパク質遺伝子)を活性化することが明らかになった。

ヒトの乳癌細胞を注射され腫瘍を形成したマウスが、ジゴキシン(HIF-1αを阻害)あるいはイマチニブ(グリベック:PDGF-Bを阻害)で治療を受けると、癌細胞の広がりは著しく減少した。

また、HIF-1αの産生を阻害するように遺伝子組み換えを行った乳癌細胞から形成された腫瘍を有するマウスでは、遺伝子組み換えなしの腫瘍を生じたマウスと比較して、リンパ節転移が75%少なかった。

ヒトの乳癌の生検標本において、著者らは以下のことも発見した。
・PDGF-Bは酸素が欠乏している細胞で非常に活発である。
・HIF-1αはPDGF-Bの転写を直接活性化する。
・調べた生検標本のほぼ全てで、HIF-1αおよびPDGF-Bタンパク質は互いの近くに存在した。
・生検標本にみられるこれらのタンパク質の発現レベルは、腫瘍の悪性度に関連した。

他の研究でもHIF-1αおよびPDGF-Bは転移の拡大に関連していた。「しかし、1つの癌における全ての点が結びつけられたのはこれが初めてのこと」とSemenza 氏は説明した。

今年の後半、ジョンズホプキンスの研究者らは手術可能な乳癌女性においてジゴキシンの早期臨床試験を開始する計画であると同氏は述べた。ジゴキシンは特許が切れた薬剤で、手術の約2週間前から投与される。研究者らは術前、術後の腫瘍標本を調べ、薬剤がHIF-1およびその下流の標的遺伝子を阻害するかを確かめる。

この薬剤が意図したとおりの分子学的効果を持つと試験で示唆された場合、ジゴキシンを他の標準治療薬と組み合わせた早期の臨床試験が開始されるであろう。

その他のジャーナル記事:中国農村部では有煙炭と肺癌リスク増加に関連性あり中国で実施された大規模後ろ向きコホート研究の結果から、有煙炭(瀝青炭)の使用が肺癌発症の生涯リスクを大幅に増大することが示唆された。この知見British Medical Journal誌の8月29日号に掲載された。雲南省宣威市で料理または暖房に生涯にわたって有煙炭を使用している人と無煙炭を使用している人とで、肺癌による死亡を比較した。1976~1996年まで3万7000人以上を追跡したところ、この期間の肺癌による死亡は2000人以上記録されていた。喫煙をはじめこれ以外のリスク因子を差し引いても、有煙炭使用者では肺癌発症リスクが無煙炭使用者より30倍大きかった。有煙炭使用者の70歳までの肺癌死の絶対リスクは男性18%および女性20%であり、そのほとんどが非喫煙者であった。対照的に、無煙炭使用者ではリスクは0.5%に満たなかった。共同筆者であるNCI癌疫学・遺伝学部門のDr. Qing Lan氏は、「有煙炭によるリスクは西欧諸国の過剰喫煙に関して報告されたリスクとほぼ同程度に高く、癌リスクに関して報告された環境汚染の影響のうち最大級のもの」と語った。本試験はNCIのIntramural Research Programから一部助成を受けた。
その他のジャーナル記事:最良の医療実践で小児癌患者における中心ライン関連感染症が減少 Pediatrics誌に発表された試験によれば、ジョンズホプキンス小児センターの医療従事者は、最良の医療を行うことで中心ライン関連血液感染症を2年で20%減らした。入院中の癌患者の多くは、中心静脈カテーテルあるいは中心ラインを大血管に挿入し、投薬や輸液、また血液採取のための入り口としている。こうした中心ラインは感染症の原因ともなりうる。小児の癌患者は治療による免疫系の抑制のため、感染に対して特に弱い。最良の医療には、消毒の向上、どの中心ラインが必要で、集約や除去はできないかといったことを決める評価を毎日行うといったことが含まれた。さらに、治療チームは毎月、中心ライン感染の症例ごとの根本的原因について議論した。患者の家族には、正しい治療が記載された携帯用のカードが配布され、子供の治療について観察し、最良の医療と相違する点を報告するよう促された。この試験は、米国国立衛生研究所(NCI)より一部資金提供を受けた。

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岡田章代、ギボンズ京子 訳
原 文堅(乳癌/四国がんセンター)、大渕俊朗(呼吸器・乳腺内分泌・小児外科/福岡大学医学部) 監修 
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