不妊治療薬による乳癌のリスク

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不妊治療薬を使用しても妊娠に至らなかった女性は、50歳までに乳癌を発症するリスクがわずかに減少するが、10週間以上妊娠が継続した女性は、一度も不妊治療薬を使用したことのない女性に比べ、わずかながら乳癌のリスクが増加するという研究結果がJournal of the National Cancer Institute誌に発表された。

乳癌は、米国女性が診断される癌(皮膚癌は除く)の中で最も多く、毎年約22万7千人の女性が乳癌と診断され、4万人近くが死亡する。乳癌のリスクを増加または減少させる可能性のある要因は研究され続けている。

不妊治療薬は女性の体内により多くの卵子を作らせつつ、排卵を刺激するため、注目されてきた。卵子が増えることによりエストロゲンレベルが上昇し、乳癌のリスクの増加につながる。

不妊治療薬と乳癌発症のリスクとの関係を調べるため「姉妹研究」が行われた。姉妹間での関連を観た症例対照研究である。2008年から2010年に乳癌と診断された50歳未満の1,422人の女性と、その姉妹で非乳癌の1,669人を対象とした。

合計288人の女性はある時期に、排卵を刺激する不妊治療薬剤であるクエン酸クロミフェン(CC)もしくは卵胞刺激ホルモン(FSH)の一方または両方を使用したと報告し、141人の女性がそれらの薬剤を使用後に10週間以上妊娠が継続したことを報告した。全体的には、不妊治療薬を使用していた女性は使用したことのない女性と比べ、乳癌のリスクがわずかに減少していたが、このリスク減少は統計学的に有意ではなかった。不妊治療薬を使用したが妊娠に至らなかった女性は、非使用者に比べ、乳癌のリスクが統計学的に有意に減少していた。不妊治療薬を使用し、10週間以上妊娠が継続した女性は、不妊治療薬を使用したが妊娠に至らなかった対照に比べ、統計学的に有意な乳癌のリスク増加が認められた。しかし、このリスクは不妊治療薬を使用したことがない女性と比べて増加していたわけではなかった。

研究者は、妊娠後にリスクの増加を伴うグループでさえ、一般人のリスクと大差なかったため、注意喚起する必要はないと述べた。

さらに、不妊治療薬を使用しても乳癌のリスクが増加することはなく、実際には、排卵誘発剤への曝露により、10週間以上の妊娠を継続していない女性ではリスクが減少する可能性さえあると結論付けている。

参考文献:
Fei C, DeRoo LA, Sandler DP, Weinberg CR. Fertility drugs and young-onset breast cancer: Results from the Two Sister Study. Journal of the National Cancer Institute. Published early online July 6, 2012. doi: 10.1093/jnci/djs255


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翻訳担当者 渉里幸樹

監修 喜多川 亮(産婦人科/NTT東日本関東病院)

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