2012/09/04号◆癌研究ハイライト「高濃度乳腺であることで乳癌患者の生存を予測することはできない」「幹細胞ドナーの遺伝子により白血病患者の再発リスクが低下」「『異常』ゲノムの解析が抗癌剤の恩恵を得る患者の存在を示唆」「遺伝子欠損を癌の治療標的発見に応用」
NCI Cancer Bulletin2012年9月4日号(Volume 9 / Number 17)
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◇◆◇ 癌研究ハイライト ◇◆◇
・高濃度乳腺であることで乳癌患者の生存を予測することはできない
・Flavored Cigar Use Common among Young Adult Cigar Smokers(訳略)
・幹細胞ドナーの遺伝子により白血病患者の再発リスクが低下
・「異常」ゲノムの解析が抗癌剤の恩恵を得る患者の存在を示唆
・遺伝子欠損を癌の治療標的発見に応用
高濃度乳腺であることで乳癌患者の生存を予測することはできない
高濃度乳腺は乳癌発症の大きなリスク要因であるが、患者の死亡には繋がらないとの研究結果が、Journal of the National Institute誌最新号に掲載された。
乳腺濃度が高い乳房ほど、脂肪組織より腺組織(授乳時に母乳を作る細胞)や支持的結合組織が多い。医師は、乳房影像報告データシステム(BI-RADS)と呼ばれる尺度を使って、マンモグラムで観察した乳房濃度を1~4の4段階に区分した。この尺度1は乳腺濃度が最も低く、4は乳腺濃度が最も高いものである。
乳腺濃度と乳癌による死亡リスクの関係を調査するため、NCIの癌疫学・遺伝学部門のDr. Gretchen Gierach氏らとNCIが支援をしている乳癌サーベイランス協会(BCSC)は、BCSCが集めた9,000人以上の乳癌患者のカルテを調べた。
平均ほぼ7年におよぶ追跡調査により、年齢、体重、治療歴、その他死亡リスクに影響を及ぼす要因を考慮した後、乳癌と診断された女性のうち乳腺濃度が高い女性は、乳腺濃度の低い女性と比べて乳癌や他の原因による死亡リスクが高くないことが明らかになった。
思いがけないことに、腫瘍が大きいか肥満患者の場合、乳腺濃度が低い乳癌患者で、乳癌死のリスクが増加したことが判明した。しかし、これは比較的少人数を対象とした研究結果であり、これまでの研究では指摘されていないことであったため、「これらの知見は大規模試験で再度調べる必要がある」とGierach氏は述べた。
肥満は乳癌死のリスク要因であり、また肥満は乳腺濃度と逆相関関係にある。(つまり、肥満女性はあまり高濃度乳腺ではない。)結果として、肥満は乳腺濃度と乳癌死の関係に影響を与えるかもしれない。
「一般的に乳癌において肥満は予後が悪いことが知られているが、この分析は、肥満で脂肪性乳腺の患者集団は一番リスクが高いことを示唆した」とGierach氏は説明した。「われわれの前提は、脂肪性の乳房は、乳癌の腫瘍悪性度が増す肥満関連のメカニズムを増強しているのかもしれないということである。乳腺濃度の生物学を更に理解するための研究を今後も継続していく」。
この研究は、国立衛生研究所の助成金援助を一部受けた(U01CA63740, U01CA86076, U01CA86082, U01CA63736, U01CA70013, U01CA69976, U01CA63731, U01CA70040, HHSN261201100031C)。
その他のニュース:CDCはC型肝炎検査の推奨を改定1945~1965年に生まれた成人は、C型肝炎ウイルス(HCV)検査を受けるべきであるとの最新推奨が、米国疾病対策予防センター(CDC)から発表された。米国におけるHCV感染者の4分の3と、HCV関連死のほぼ4分の3は、この期間に生まれた人であるとCDCは推測している。その結果、これらの人々は、肝臓癌やその他のHCV関連肝臓疾患に罹患するリスクが一番高い。この最新の推奨は検査対象群を付け加えただけで、これまでのガイドラインに取って代わるものではない。 |
幹細胞ドナーの遺伝子により白血病患者の再発リスクが低下
血液幹細胞移植を受けた骨髄性白血病(AML)患者の分析により、ドナーが持つある遺伝子的特徴はAML再発リスクと関連があることが示唆される。今回のレトロスペクティブ研究の結果は、KIR2DS1(抗癌性のナチュラルキラー[NK]細胞を活性化する)遺伝子を持ち遺伝子的に類似しているドナーからの幹細胞移植は、AML患者の再発リスク低下に関与している可能性を示している。
本研究はスローンケタリング記念がんセンターのDr. Katharine Hsu氏およびDr. Bo Dupont氏により行われ、New England Journal of Medicine誌8月30日号に発表された。
KIR遺伝子は、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(腫瘍細胞を殺傷する白血球の一種のNK細胞の表面にみられる)というタンパク質群をコードする。
さらに、KIR2DS1に関連して再発率が減少するのは、HLA-C遺伝子の特殊な型をもつ幹細胞ドナーから移植される場合に限られることを発見した。HLA遺伝子は、細胞表面にあるHLAタンパク質をコードし、このタンパク質がヒトの組織型を決定する。
造血幹細胞移植(HSCT)は、AML患者の骨髄中の病変細胞を健康な幹細胞と入れ替えるために行われ、健康な幹細胞が全種類の血液細胞および免疫系細胞に分化して白血病と戦う。造血幹細胞移植のためのドナーを選ぶ際、医師は、移植患者の新たな免疫系が既存の組織や臓器に障害を与える可能性を少なくするため、ドナーと移植患者とのHLA型を適合させる。
「過去15~20年にわたる研究により、移植後に出現するNK細胞は、残存している白血病細胞をどれもかなり強力に破壊し、特にAMLでその効果が強いという事実が示されている」とHsu氏は述べた。
「NK細胞は、さまざまなKIR受容体や、受容体とHLA分子との相互作用により、阻害または活性化されることが判っている」と続けた。「真の目標は、どのKIR-HLAの組み合わせが、ドナー由来のNK細胞により最も効果的に白血病を制御できるかを解明することである」。
研究者らは、1989~2008年の間に非血縁ドナーから移植を受けたAML患者1,277人および急性リンパ性白血病(ALL)患者427人の造血幹細胞移植結果を調べた。ドナーと移植患者は、5つのHLA遺伝子の10の表現型のうち、少なくとも9つが適合していた。保存血液とDNAサンプルを利用し、幹細胞ドナー中のあらゆるKIR遺伝子型や、ドナーおよび移植患者のHLA遺伝子を調べた。
KIR2DS1遺伝子を持つドナーから移植を受けたAML患者では、KIR2DS1遺伝子を持たないドナーから移植を受けた患者よりも有意に再発リスクが低かった(ただし、ALL患者ではこのような低下はみられなかった)。しかし、ドナーがHLA-C2遺伝子を2コピーもつか、対立遺伝子をもつ場合は、KIR2DS1による結果の改善はみられなかった。今回の最新知見は、HLA-C2タンパク質の値が高いとKIR2DS1受容体を持つNK細胞の活性が低下することを示す研究と一致している。
Hsu氏は、将来の研究では造血幹細胞移植における別のKIR-HLA相互作用の影響または組み合わせを調べるべきだ、とコメントした。「今回われわれが行ったように、白血病の再発を減らし生存率を上げるという点で最高の利益をもたらすドナーを選ぶことを目標に、ドナーの選択精度をより一層高めていくことができる」。
本研究は、米国国立衛星研究所から一部助成金を受けた(U01 AI69197, KL2 RR024997, R01 HL088134, and P01 CA23766)。
「異常」ゲノムの解析が抗癌剤の恩恵を得る患者の存在を示唆
沢山の患者に効果を発揮する薬剤の特定に失敗した臨床試験で、その薬剤が効果を示した患者集団を特定することにより、貴重な情報がもたらされる可能性がある。これが、見捨てられたかもしれない潜在的効果を秘めた薬剤を拾い出すために、全ゲノム解析を行った研究の結論である。
Science誌8月23日号に掲載された発表は、エベロリムス(アフィニトール)により2年半以上継続して完全寛解状態にある73歳の進行した膀胱癌の女性患者の腫瘍ゲノムを、スローンケタリング記念がんセンターの研究者らがどのようにして解析したかを説明している。この患者は、試験に参加した患者45人のうちの1人であった。この試験は、エベロリムスによる無増悪生存の改善を主要評価項目とした早期臨床試験で、この試験結果自体は失敗であった。
「この患者は、臨床効果の観点からすると、他の患者とは全く異なっていた」と、試験の上席著者であるDr. David Solit氏は述べた。
その女性患者の腫瘍から、数個の特定の遺伝子配列を解読したが、有益な情報は得られなかった。そこで、この患者におけるエベロリムスの著明な効果の分子メカニズムを見つけることができるかもしれないとして、腫瘍の全ゲノム解読を行うことを決定したとSolit氏は続けた。
特定した多くの遺伝子異常の中で、2つの遺伝子(TSC1遺伝子とNF2遺伝子)の不活性化変異が際立っていた。研究室での実験結果は、TSC1遺伝子とNF2遺伝子の機能喪失型変異が、エベロリムス感受性を増強させたかもしれないことを示唆していた。
次に他の13人の試験参加者の腫瘍DNAを解析したところ、さらに3人の腫瘍からTSC1遺伝子の不活性化変異が検出された。3人のうちの2人には計測可能な腫瘍縮小効果があり、TSC1遺伝子変異がなかった腫瘍を持つ患者と比べて癌が進行せずに長期間生存した。13人全員の腫瘍にNF2遺伝子の変異はなかった。
他の進行した膀胱癌患者96人から採取した腫瘍を用いてTSC1遺伝子とNF2遺伝子を解読したところ、更に5人の腫瘍でTSC1遺伝子には変異があるがNF2遺伝子には変異がないことが明らかになった。
Solit氏らは、TSC1遺伝子あるいは関連遺伝子であるTSC2遺伝子に変異がある膀胱癌の患者でエベロリムスを評価する小規模な臨床試験を開始したいと考えている。
「少数の患者には著しい効果があるが、それ以外は否定的な結果である試験を経験することが多い」とSolit氏は述べ、「全ゲノム塩基配列解読のような新しい技術を用いた徹底的な解析によって、失敗とされかねない薬剤の隠れた効果を救い出すことが可能となる」と続けた。
遺伝子欠損を癌の治療標的発見に応用
染色体が損傷すると、健常細胞が癌細胞に変化するが、癌細胞の殺傷に応用可能な脆弱性も生み出せる可能性が、新しい研究により示唆されている。その考えは「付随的脆弱性」と呼ばれ、多岐にわたる癌に対する薬物治療での新たな標的決定に応用できる可能性がある、とダナファーバー癌研究所およびテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは述べた。この研究は、Nature誌8月16日号に発表された。
薬剤で癌を引き起こす遺伝子変異を直接狙うことは難しく、とりわけ腫瘍抑制遺伝子を減少させる変異の場合は困難である。癌ゲノムアトラス(TCGA)計画の多形性膠芽腫(GBM)という脳腫瘍に関するデータを使い、研究チームは、腫瘍抑制遺伝子減少の原因となる染色体損傷の際に生じた複数の「付随的」または「パッセンジャー」遺伝子欠損を確認した。
次に、欠失した遺伝子が細胞生存に欠かせない重要な機能に関与しており、類似機能をもつ現存遺伝子と密接に関連している、という2つの基準に適うパッセンジャー遺伝子欠損を探した。パッセンジャー遺伝子欠損により生じたこの余剰性の欠失は、腫瘍細胞の選択的殺傷に利用できる可能性がある、と筆者は説明した。
前述の選択基準に適う遺伝子の1つは、ENO1である。ENO1はエノラーゼ1(細胞のエネルギー産生過程で中心的役割を果たす酵素)を産生する。ヒト細胞には、エノラーゼ2という酵素を産生し、ENO1と密接に関連する遺伝子(ENO2)がある。エノラーゼ2は脳組織内でエノラーゼ1のバックアップとして働く。通常、脳細胞でのエノラーゼ1の活性は高く、エノラーゼ2の活性は低い。しかし、一部のGBM患者では、腫瘍抑制遺伝子が欠損した際にENO1も欠失したため、腫瘍細胞にエノラーゼ1活性がみられない。このエノラーゼ1活性の欠失は、こういった腫瘍細胞を、エノラーゼ阻害に対しさらに脆弱にする可能性がある。
この考えは、2つの標的戦略により検証された。初めに、ENO1がないGBM細胞系統において、研究者らは、ショートヘアピンRNA(ENO2メッセンジャーRNAからエノラーゼ2タンパク質が産生されるのを阻害する短いRNA配列)を用いてENO2遺伝子を抑制することにより細胞増殖が急激に低下し、処理されたその細胞を注射したマウスでは腫瘍が形成されないことを示した。
2つめのアプローチは、エノラーゼ1とエノラーゼ2タンパク質を標的とする薬物であった。その薬物でENO1がないGBM細胞配列を処理したところ、細胞中の全体的なエノラーゼ量が減少し、癌細胞は死滅した。しかし、薬物治療は、正常な脳細胞やENO1をもつGBM細胞では効果がわずかであった。なぜなら、それらの細胞ではENO1遺伝子発現量が多く、そのため、その薬物に対する感受性が低かったためである。
付随的脆弱性の概念は、合成致死性(癌に関連する遺伝子での遺伝子変異を利用することにより、他の潜在的な細胞の脆弱性を同定すること)の発想に幾つかの点が類似している、と本研究の共同筆頭著者であるMDアンダーソンのDr. Florian Muller氏は説明した。
腫瘍抑制遺伝子欠損より、さらにたくさんのパッセンジャー遺伝子欠損があり、「これらの欠失したパッセンジャー遺伝子の一部は、細胞が生き残るために重要な機能を果たす」とMuller氏は続けた。
「したがって、この概念をパッセンジャー遺伝子まで拡大させることにより、そういった関連性を発見できる可能性は限りなく拡がる。そして、ENO1とENO2のように重要かつ余剰な遺伝子対の場合、合理的かつ知識データベースに基づく薬物標的の発見方法をもたらすこともできる」。
Muller氏は、研究をGBMの他のパッセンジャー遺伝子欠損に拡大している、と述べた。
本研究は、米国国立衛星研究所により一部支援を受けた(CA95616-10 and CA009361)。
その他のジャーナル記事:若年者の喫煙、2000年から2011年で減少学校を拠点とし、6年生から12年生までを対象とした自己回答アンケート式で行われた全米青少年喫煙状況調査のデータによれば、中学生や高校生による紙巻タバコによる喫煙は2000年から2011年の間で減少していた。米国疾病対策予防センターは、先月、その結果を週刊疾病率死亡率報告で発表した。 米国中高生の喫煙率
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野川恵子、佐々木亜衣子 訳
小宮武文 (腫瘍内科/NCI Medical Oncology Branch)、林 正樹(血液・腫瘍内科/敬愛会中頭病院) 監修
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