ハーセプチンにタイケルブを追加した進行性乳癌治療の最新試験結果において生存期間延長効果が認められた

キャンサーコンサルタンツ
2009年12月

ハーセプチン(トラスツズマブ)での治療中にHER2陽性転移乳癌が進行した患者において、タイケルブ(ラパチニブ)とハーセプチンの併用療法がタイケルブ単剤療法と比較し高い奏効を示すことが確認された(EGF104900試験)。本試験結果は、2009年のサンアントニオ乳癌シンポジウム(San Antonio Breast Cancer Symposium)で発表された。

タイケルブ単剤療法はハーセプチン療法で進行したHER2陽性転移乳癌に奏効を示す治療法である。また、ハーセプチンを用いた療法で進行を示したHER2陽性乳癌に対するハーセプチン療法も、その療法を支持するエビデンスが不足しているにも関わらず頻繁に行われている。HER2陽性乳癌細胞株を用いた試験で、ハーセプチンとタイケルブによる併用療法での相乗効果が示された。また各標的治療剤について異なる抗癌作用機序(ハーセプチンはPI3キナーゼシグナル伝達経路を介しHER2を遮断するのに対し、タイケルブはHER2およびEGFRを遮断)が示されたことから、ハーセプチンの前治療で進行したHER2陽性乳癌における転帰の改善について、タイケルブ単剤療法と併用療法の比較試験が行われていた。

本試験(EGF104900試験)はオープンラベル、第3相臨床試験であり、HER2陽性の再発乳癌の治療を目的とし、タイケルブとハーセプチンの併用療法、またはタイケルブの単剤療法へ患者296人を無作為に割付けた。試験参加患者における化学療法の前治療回数は平均4〜5回、また転移癌に対しハーセプチンでの前治療回数は平均3回、最後のハーセプチン療法からの経過期間(中央値)は25日であった。患者の半数以上がHER2陽性であった。本試験では、タイケルブ(1日1500 mg)単剤、またはタイケルブ(1日1000 mg)およびハーセプチン(初回投与量4 mg/kg、以降週2 mg/kg)の併用療法のいずれかに患者を割付けた。タイケルブ単剤群の51%が併用療法へ切り替えた。本試験は、既に2008年のサンアントニオ乳癌シンポジウムでその中間結果が発表されていたが、今回は本試験の最新結果が発表された。下表(表1)に本試験での主要結果をまとめた。

表1: 転移乳癌におけるタイケルブ単剤療法またはタイケルブおよびハーセプチンの併用療法での結果

評価項目タイケルブタイケルブ+ハーセプチンP値
患者数148人148人
無増悪生存期間8.1週12.0週0.008
平均全生存期間41.4週60.7週0.026
臨床的有用率12.4%24.7%0.01

多変量解析の予測因子は、治療レジメン、ECOG一般状態、内臓転移ありと内臓転移なし、転移部位の数(3未満、3以上)、診断から治療開始までの経過時間などであった。最新の結果では、併用療法で死亡リスクが26%減少した(P=0.02)。重篤な有害事象は、併用群での10人に対し、単剤群では3人に認められた。薬剤の毒性による死亡は併用群での1人に対し単剤群では認められなかった。

コメント:本試験結果により、タイケルブとハーセプチンの併用療法はハーセプチン前治療で癌が進行した患者の生存期間を延長することが示唆された。また、両剤の併用療法については早期HER2陽性乳癌患者において更に評価を継続している。

参考文献:

Blackwell KL. Updated Survival Analysis of a Randomized Study of Lapatinib Alone or in Combination with Trastuzumab in Women with HER2-Positive Metastatic Breast Cancer Progressing on Trastuzumab Therapy. Presented at the 32nd CTRC-AACR San Antonio Breast Cancer Symposium. December 9-13, 2009. San Antonio, TX. Abstract 61.


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翻訳担当者 菅原 宣志

監修 辻村 信一 (獣医学/農学博士、メディカルライター)

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