ハーセプチンと非アントラサイクリン系化学療法の併用が乳癌に有効

キャンサーコンサルタンツ
2009年12月

国際第3相ランダム化試験(BCIRG 006)に参加している研究者たちは、タキソテール(ドセタキセル)とパラプラチン(カルボプラチン)を使用する非アントラサイクリン含有化学療法レジメンで、HER2陽性乳癌の術後補助療法のために、ハーセプチン(トラスツズマブ)と併用した場合、心臓毒性を起こさずにアントラサイクリン含有レジメンと同じ利益が得られることを報告した。この研究の最新情報は、2009年サンアントニオ乳癌シンポジウムで発表された。

ハーセプチンは、HER2受容体を標的とするモノクローナル抗体である。約30%以上の乳癌がHER2を過剰発現すると見積もられている。ハーセプチンは、転移性HER2陽性乳癌治療のために、米国食品医薬品局(FDA)から承認されている。2006年12月に、放射線療法歴のあるなしに関わらず、手術歴のあるリンパ節転移陽性局所乳癌患者へのアドリアマイシン(ドキソルビシン)、シクロホスファミド、およびタキソール(パクリタキセル)との併用で、ハーセプチンがFDAから承認された。2008年6月には、FDAは初期HER2陽性乳癌の術後補助療法のために、2つの新しいハーセプチン含有レジメンを承認した。BCIRG 006試験の結果に基づいて、HER2陽性乳癌の術後補助療法として、TCH(タキソールとカルボプラチンとハーセプチンの併用)とAC-TH(ドキソルビシンとシクロホスファミドの併用後、タキソテールとハーセプチンの併用)の両方が承認された。

術後補助化学療法にハーセプチンを併用することにより、近年HER2陽性乳癌患者で成績向上が示されてきているが、ハーセプチンとアントラサイクリンの併用による心臓毒性と二次性白血病に関する大きな懸念が残っていた。ハーセプチンを併用した非アントラサイクリン含有レジメンで、治療の効能を維持しながら、心臓毒性のリスクを減少させる可能性があるというアイデアは、世界各地の医療センターを含む多施設研究で評価されてきた。

この試験には、HER2増幅(中央判定FISH)リンパ節転移陽性または高リスクリンパ節転移陰性乳癌の女性3,222人が参加した。患者は次のいずれかに割り付けられた。

  • AC:ドキソルビシンとシクロホスファミド(60/600mg/m2、3週毎 x 4)、その後(T)タキソテール(100 mg/m2、3週毎 x 4)(AC-T)
  • AC-TH:AC、その後Tとハーセプチン(H) x 1年(化学療法中1週毎/追跡調査中3週毎)
  • TCH:TCarbo(75 mg/m2/AUC6、3週毎 x 6)とHを併用 x 1年

この試験の主な所見を次の表に要約する。

表1:AC-T、AC-TH、およびTCHの結果

 AC-TAC-THTCH
患者数107210761074
無病生存率(DFS)75%84%81%
DFS事象257184214
転移事象188124144
全体生存率(OS)87%92%91%
乳癌死1228397
リンパ節転移陰性のDFS 85%93%90%
リンパ節転移陰性のOS 93%97%96%
リンパ節転移陽性のDFS 71%80%78%
DFS >3+ nodes61%73%72%
急性白血病611

また研究者は次のように結論づけている。

  • 「測定したほとんどすべてのパラメーターで、TCHの急性および慢性毒性プロファイルは、ACTHレジメンの場合よりも良好である。」
  • 「THCに対するACTHの統計的な優位性はないが、ACTH治療集団のDFSに29事象の数値的優位性が存在する。」
  • THCと比較して、AC-TまたはACTHを受けた患者の中には、うっ血性心不全や白血病に罹患した患者がより多い。
  • TOP2AとHER2を共増幅した悪性腫瘍(全体の35%)では、ACによる利益はTHCグループでもアントラサイクリンによる毒性なしに達成された。

コメント:これらの結果から、早期HER2陽性乳癌の女性においてハーセプチンを化学療法に追加することにより再発リスクが減少し、生存率が改善することが確認された。また、非アントラサイクリン系化学療法とハーセプチンの併用により、心臓や二次性白血病の合併症もより少なく、効果的に癌を制御できる可能性があることもこれらの結果で示唆される。

参考文献:

Slamon D, Eiermann W, Robert N et al. Phase III Randomized Trial Comparing Doxorubicin and Cyclophosphamide Followed by Docetaxel (AC?T) with Doxorubicin and Cyclophosphamide Followed by Docetaxel and Trastuzumab (AC?TH) with Docetaxel, Carboplatin and Trastuzumab (TCH) in Her2neu Positive Early Breast Cancer Patients: BCIRG 006 Study. Presented at the 32nd CTRC-AACR San Antonio Breast Cancer Symposium. December 9-13, 2009. San Antonio, TX. Abstract 62.


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翻訳担当者 桝谷 哲

監修 林 正樹(血液・腫瘍内科)

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