トラスツズマブデルクステカンは腫瘍部位に関係なくHER2発現がんの治療に効果的

米国臨床腫瘍学会(ASCO2023)

ASCOの見解

「本試験は、まだ治療薬が承認されていない標準治療耐性後のHER2過剰発現腫瘍を有する患者で、依然として治療困難ながん種に対するデータを提供しています。さらなる追跡調査が必要ですが、複数のHER2発現腫瘍で良好な効果が認められ、HER2発現量が最も多い腫瘍では50%以上の奏効率が得られ、さらに安全性プロファイルにも期待されるものでした。トラスツズマブ デルクステカンは、このような患者に新たな治療選択肢を提供できる可能性があります」と、ASCOの専門医であるBradley Alexander McGregor医師は語る。

トラスツズマブ デルクステカン(販売名:Enhertu®)は、治療が困難なHER2発現固形がん患者に対する有効な治療選択肢であることが国際的研究の結果で明らかになった。本研究は2023年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。

試験要旨

目的胆道、膀胱、子宮頸部、子宮内膜、卵巣、膵臓、その他の固形がんに対するトラスツズマブ デルクステカンの有効性
対象者HER2発現(各施設又は中央検査機関にて免疫組織化学[IHC]3+またはIHC2+)の局所進行または転移性がん(胆道、膀胱、子宮頸部、子宮内膜、卵巣、膵臓、その他の腫瘍)で、少なくとも1回の全身治療後に悪化または治療の選択肢がない患者267人
試験結果・追跡調査期間中央値9.7カ月の時点でトラスツズマブ デルクステカンの客観的奏効率(ORR)は全試験集団の37.1%。
・奏効期間中央値(mDOR)は11.8カ月。
・IHC 2+発現患者のORRは27.2%、mDORは9.8カ月であったのに対し、IHCの発現レベルが高い患者(IHC 3+)のORRは61.3%、mDORは22.1カ月。
意義トラスツズマブ デルクステカンは、HER2発現固形がん患者に対する新たな治療選択肢となりうる可能性がある。

主な知見

第2相非盲検DESTINY-PanTumor02試験で、少なくとも1回の全身治療後に悪化または治療選択肢がないHER2発現(免疫組織化学[IHC]3+またはIHC2+)の局所進行または転移性疾患の患者を対象に、少なくとも1回のトラスツズマブ デルクステカンの投与による治療を実施した。追跡調査期間中央値9.7カ月で、本治療によるORRは37.1%であった(ORRとは治療に対する部分奏効および完全奏効の数を示す指標)。また、腫瘍が治療に反応し続けた期間(mDORで測定)は11.8カ月であった。HER2発現レベルが高い(すなわち、IHC 3+)患者にトラスツズマブ デルクステカンはさらに有効であり、ORRは61.3%、mDORは22.1カ月であった。異なる疾患部位について、トラスツズマブ デルクステカンのORRは以下のとおり。

 子宮内膜がん:全患者の57.5%、IHC3+が84.6%、IHC2+が47.1%。
 子宮頸がん:全患者の50%、IHC 3+が75%、IHC 2+が40%。
 卵巣がん: 全患者の45%、IHC 3+が63.6%、IHC 2+が36.8%。
 尿路上皮がん:全患者の39%、IHC3+が56.3%、IHC2+が35%。
 胆道がん:全患者の22%、IHC 3+が56.3%、IHC 2+が0%。
 膵臓がん:全患者で4%、IHC3+が0%、IHC2+が5.3%。

試験参加者は、トラスツズマブ デルクステカンによる治療に対しほぼ忍容性が認められたが、参加者の11.6%が有害事象により治療を中止した。特に多くみられた治療に関連した副作用は、吐き気、疲労、および血球レベルの低下(血球減少)であった。

「HER2は、乳がん、胃がん、肺がん、婦人科がん、尿路上皮がんなど多くのがん種に存在し、HER2を発現する治療困難ながん患者に新たな治療選択肢が必要です」とテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのDepartment of Investigational Cancer Therapeutics(がん治療開発科)の責任者で本試験の筆頭著者であるFunda Meric-Bernstam医師は語る。「これらの結果により、HER2発現に関する臨床的理解が進み、HER2が幅広い腫瘍型において実用的なバイオマーカーであることが再確認でき、特にHER2 IHC 3+または2+発現の患者においてトラスツズマブ デルクステカンが、これらの腫瘍が進行した疾患の患者に対し新しい治療選択肢を提供できる可能性を示しています」

試験について

HER2発現の胆道がん、膀胱がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、卵巣がん、膵臓がん、その他の腫瘍(乳がん、胃がん、大腸がん、非小細胞肺がんを除く)患者が試験に登録された。登録患者数は267人で、そのうちIHC 3+発現の患者が75人、IHC 2+発現の患者が125人であった。IHCとは、細胞内に存在するHER2受容体タンパク質の量である。

HER2は様々な種類の腫瘍に発現するが、現在、多くの種類のがん、特に治療が困難ながんに対しHER2を標的とした治療として承認されたものはない。トラスツズマブ デルクステカンは、現在、HER2発現乳がん、HER2+胃がん、HER2変異のある肺がんに対し米国食品医薬品局から承認を受けているHER2を標的とした抗体薬物複合体である。本試験は、幅広いHER2発現固形がんを対象としたトラスツズマブ デルクステカンのがん種横断適応に関する初の世界的試験である。

次のステップ

研究者らは現在、DESTINY-PanTumor02試験で追加の生存データを収集している。

本試験はアストラゼネカが第一三共と共同で出資、計画した。

  • 監訳 尾崎由記範(腫瘍内科・乳腺/がん研究会有明病院)
  • 翻訳担当者 松長愛美
  • 原文を見る
  • 原文掲載日 2023/06/05

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

 

乳がんに関連する記事

米国公衆衛生局長官がアルコールとがんリスクの関連について勧告の画像

米国公衆衛生局長官がアルコールとがんリスクの関連について勧告

米国保健福祉省(HHS)ニュースリリース飲酒は米国におけるがんの予防可能な原因の第3位本日(2025年1月3日付)、米国公衆衛生局長官Vivek Murthy氏は、飲酒とがんリ...
【SABCS24】乳がんctDNAによるニラパリブの再発予測:ZEST試験結果の画像

【SABCS24】乳がんctDNAによるニラパリブの再発予測:ZEST試験結果

ステージ1~3の乳がん患者において治療後のctDNA検出率が低かったため、研究を早期中止

循環腫瘍DNA(ctDNA)を有する患者における乳がん再発予防を目的とするニラパリブ(販売名:ゼ...
【SABCS24】CDK4/6阻害薬の追加はHR+/HER2+転移乳がんに有効の画像

【SABCS24】CDK4/6阻害薬の追加はHR+/HER2+転移乳がんに有効

「ダブルポジティブ」転移乳がん患者において、標準療法へのCDK 4/6阻害薬追加により、疾患が進行しない期間(無増悪期間)が有意に延長したことが、サンアントニオ乳がんシンポジウ...
【SABCS24】中リスク乳がん患者のほとんどは乳房切除後の胸壁照射を安全に回避できる可能性の画像

【SABCS24】中リスク乳がん患者のほとんどは乳房切除後の胸壁照射を安全に回避できる可能性


BIG 2-04 MRC SUPREMO臨床試験によると、中リスク乳がん患者は乳房切除後に胸壁照射(CWI)を受けても受けなくても、10年生存率は同程度であったという結果が、2024年...