低分子量型サイクリンEは乳癌治療薬の有効性を減少させる

MDアンダーソンがんセンター ニュースリリース

MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、アロマターゼ阻害剤による治療を受けた患者の予後を予測するより良い方法を発見した。また、本研究により薬物耐性を回避しうる方法が示された。

テキサス大学M.D.アンダーソンがんセンターの研究者らは、低分子量型(LMW-E)サイクリンEタンパク質の過剰発現により、エストロゲン受容体陽性(ER+)乳癌女性ではアロマターゼ阻害剤であるレトロゾールが無効になるとClinical Cancer Research誌で報告した。

M.D.アンダーソン放射線腫瘍学部門の教授であり、腫瘍内科のHubert L.. and Olive StringerプロフェッサーであるKhandan Keyomarsi医学博士が率いるM.D.アンダーソンの研究により、LMW-Eを発現する癌を有する女性では、レトロゾールに対する耐性をより生じやすいというエビデンスが示された。しかし博士らの研究では乳癌細胞に対してサイクリン依存性キナーゼ2(CDK2)阻害剤を使用することにより、レトロゾールに耐性ができるのを食い止めることができるということも示された。

サイクリンEは細胞周期を調節するタンパク質の一種であり、細胞が4細胞期を移行して分裂する速度に影響を及ぼす。腫瘍細胞ではサイクリンEは低分子量型に変化するが、正常細胞ではこの事象は起こらない。LMW-E値が高いと、DNA損傷が検知された場合に細胞周期を停止しうる重要なチェックポイントであるG1期を細胞が通過する速度が増す。LMW-E値の上昇は、制御不能な細胞増殖および乳癌患者の不良な転帰をもたらす。

薬剤耐性に対抗する知恵

Keyomarsi氏は、乳癌患者の約70%がエストロゲン受容体陽性(ER+)で、そのうち大部分は閉経後女性であり、よってアロマターゼ阻害剤を維持治療として投与する候補者になるだろうと推測している。アロマターゼ阻害剤は、閉経後ER陽性乳癌女性における早期転移のリスクを減らすことができる。しかし、全ての患者にアロマターゼ阻害剤が奏効するわけではなく、また奏効した患者も時とともに薬剤耐性を獲得するだろう、とKeyomarsi氏は説明する。この耐性の機序を解明することが乳癌研究における積年の目標となっている。

M.D.アンダーソンのチームは、低分子量型サイクリンEの発現が認められるER陽性乳癌患者では、アロマターゼ阻害剤の奏効率が低いという仮説を立てた。研究者らはこの仮説を検証するため、アロマターゼが過剰発現している乳癌細胞(MCF-7/Ac1)をサイクリンEの全長型かLMW-E型(低分子量型)のいずれかに暴露した。

「われわれは、低分子量型サイクリンEの存在下ではレトロゾールの細胞増殖抑制効果を否定できるが、野生型のサイクリンEの存在下では否定できないことを発見しました」と本研究の統括著者であるKeyomarsi氏は述べた。「この現象は低分子量型サイクリンEがサイクリンE複合体の活性を上昇させることで起こります。そしてこの複合体こそが細胞増殖抑制効果の無効化を媒介しているのです。」

CDK2阻害剤はレトロゾールの細胞増殖抑制作用を修復する

博士らは、低分子量型サイクリンEがレトロゾールの細胞増殖抑制効果を抑えることを確認した後、CDK2阻害剤が耐性化した乳癌細胞における薬剤耐性を解除できるかどうか分析した。

「われわれは、アロマターゼ過剰発現細胞を野生型または低分子量型のサイクリンEで誘発した後、CDK2阻害剤であるロスコビチンで処理しました」とKeyomarsi氏は述べた。「この方法で全てのアロマターゼ過剰発現細胞を殺すことができました。」

また研究者らは、彼らのグループで進行中の、アロマターゼ阻害剤を投与したER陽性乳癌患者128例に関する別の研究結果をレトロスペクティブに分析した。「これらの患者の中で、100例が正常域の野生型のサイクリンEを発現し、28例が低分子量型のサイクリンEを過剰発現しました。」とKeyomarsi氏は述べた。「再発について調べると、野生型サイクリンEを発現した患者100例中3例に再発が認められたのに対し、低分子量型では28例中4例に再発が認められました。この事実だけでも、サイクリンEの発現型(正常型と低分子量型)によって分けた2つの患者群間で、非常に大きな違いがあるということがわかります。」

再発患者7例のうち、6例は高値のサイクリンE活性を示した。Keyomarsi氏は、これらの患者は現在臨床で使用できるCDK2阻害剤で治療できると述べた。

「ごく近い将来、われわれは本研究で得た低分子量型サイクリンEに関する知識を活用して、低分子量型サイクリンEを有する患者を特定し、患者ごとに治療法を考えることができるようになるでしょう」とKeyomarsi氏は付け加えた。

本研究は、米国国立衛生研究所助成金(CA87458)、米国国立癌研究所助成金(P50CA116199)、およびClayton Foundationの資金提供を受けた。

すべてのM. D. アンダーソンでの研究におけるKeyomarsi氏の他の共著者は以下のとおりである。Said Akli, Ph.D., Tuyen Bui, Anna Biernacka, M.D. all of the Department of Experimental Radiation Oncology; Kelly K. Hunt, M.D.; and Hannah Wingate, Ph.D., Department of Surgical Oncology; Stacy Moulder, M.D., Department of Breast Medical Oncology; and Susan L. Tucker, Ph.D., Department of Bioinformatics and Computational Biology.

翻訳担当者 山本 容子

監修 上野 直人(乳癌/M.D.アンダーソンがんセンター教授)

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