エストロゲン単独療法は乳癌の発症リスクを減少させる可能性がある

キャンサーコンサルタンツ

エストロゲン単独のホルモン補充療法を受けている閉経後の女性は、乳癌の発症リスクまたは乳癌による死亡率が減少する可能性がある。女性の健康イニシアチブのエストロゲン単独投与臨床試験の長期追跡調査によるこれらの知見はLancet Oncology誌に発表された。この報告はエストロゲン単独投与のみに関するものであり、エストロゲンとプロゲスチンの併用療法は含まれていないことに留意すべきである。併用での投与はこれまでの研究で乳癌リスクと関係があることが示された。

閉経を迎えると、月経が停止し卵巣ホルモンの分泌が急激に減少する。8割近くの女性が閉経によってホットフラッシュや夜間の発汗を経験する。これらの症状が重度の場合、生活の質や活動能力に重大な影響を与える。

長い間、エストロゲン単独またはプロゲスチンとの併用ホルモン補充療法は更年期の症状に対し、効果的な方法であった。しかしながら、過去数年以上にわたって行われた研究により、ホルモン補充療法が健康に影響を与える懸念が示された。 女性の健康イニシアチブ(WHI) のエストロゲンとプロゲスチンの併用療法臨床試験で、ホルモンの使用は骨折と大腸癌のリスクを減少させたが、心疾患、乳癌、脳卒中、血栓等のリスクを上昇させた[1]。最近の研究結果は併用療法が肺癌による死亡率を上昇させることを示唆した[2]。

WHI が行ったエストロゲン単独療法についての研究の一次報告によると、エストロゲン単独療法によって乳癌または肺癌のリスクは上昇しないが、脳卒中のリスクは上昇することが分かった[3]。エストロゲン単独療法は子宮内膜(子宮)癌のリスクを上昇させるため、子宮摘出術を受けた女性のみに使用される。

2011年エストロゲン単独療法に関する最新研究結果は、エストロゲン単独療法は実は乳がんリスクを減少させる可能性を示唆した[4]。これらの結果は現状分析でさらに研究中である。7,645人の閉経後の女性を追跡調査(中央値12年弱)した情報が利用可能であった[5]。

  • プラセボ群の女性と比較して、エストロゲン単独群の女性は浸潤性乳癌が発症するリスクが23%減少するとみられる。エストロゲンはまた乳癌による死亡リスク減少と関係があった。
  • エストロゲン単独群で乳癌のリスク減少が見られたのは、もともと乳癌のリスクが低い女性だった。ハイリスクの女性(良性の乳腺疾患の既往または乳癌の家族歴のある人)において、エストロゲンは乳癌のリスクを減少させなかった。

これらの結果は 子宮摘出術を受け、更年期の症状管理のためにエストロゲン単独療法を選択した女性に対する再保証であるべきである。エストロゲン単独療法は、乳癌のリスクは上昇させず、むしろ減少させる可能性がある。エストロゲンのこの潜在的有用性は乳癌のリスクが高い女性には当てはまらないとみられる。さらに、エストロゲンのあらゆる潜在的有用性はリスクと比較検討されなければならない。

閉経後の症状を緩和するためにホルモン補充療法を受けようとする女性はリスクと利益をかかりつけの医師と相談してほしいとしている。

参考文献:
[1] Rossouw JE, Anderson GL, Prentice RL et al. Risks and benefits of estrogen plus progestin in healthy postmenopausal women: principal results from the Women’s Health Initiative randomized controlled trial. JAMA. 2002; 288:321-33.

[2] Chlebowski RT, Schwartz AG, Wakelee H et al. Oestrogen plus progestin and lung cancer in postmenopausal women (Women’s Health Initiative trial): a post-hoc analysis of a randomised controlled trial. Lancet. 2009;374:1243-1251.

[3] Anderson GL, Limacher M, Assaf AR et al. Effects of conjugated equine estrogen in postmenopausal women with hysterectomy: the Women’s Health Initiative randomized controlled trial. JAMA. 2004; 291:1701-1712.

[4] LaCroix AZ, Chlebowski RT, Manson JE et al. Health outcomes after stopping conjugated equine estrogens among postmenopausal women with prior hysterectomy: a randomized controlled trial. JAMA. 2011;305:1305-1314.

[5] Anderson GL, Chlebowski RT, Aragaki AK et al. Conjugated equine oestrogen and breast cancer incidence and mortality in postmenopausal women with hysterectomy: extended follow-up of the Women’s Health Initiative randomised placebo-controlled trial. Lancet Oncology. Early online publication March 7, 2012.


  c1998- CancerConsultants.comAll Rights Reserved.
These materials may discuss uses and dosages for therapeutic products that have not been approved by the United States Food and Drug Administration. All readers should verify all information and data before administering any drug, therapy or treatment discussed herein. Neither the editors nor the publisher accepts any responsibility for the accuracy of the information or consequences from the use or misuse of the information contained herein.
Cancer Consultants, Inc. and its affiliates have no association with Cancer Info Translation References and the content translated by Cancer Info Translation References has not been reviewed by Cancer Consultants, Inc.
本資料は米国食品医薬品局の承認を受けていない治療製品の使用と投薬について記載されていることがあります。全読者はここで論じられている薬物の投与、治療、処置を実施する前に、すべての情報とデータの確認をしてください。編集者、出版者のいずれも、情報の正確性および、ここにある情報の使用や誤使用による結果に関して一切の責任を負いません。
Cancer Consultants, Inc.およびその関連サイトは、『海外癌医療情報リファレンス』とは無関係であり、『海外癌医療情報リファレンス』によって翻訳された内容はCancer Consultants, Inc.による検閲はなされていません。

翻訳担当者 芝原広子

監修 須藤智久(薬学/国立がん研究センター東病院 臨床開発センター)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

乳がんリスク評価ツールの仕組みの画像

乳がんリスク評価ツールの仕組み

2024年3月、女優のオリヴィア・マン(Olivia Munn)が乳がんと診断されたことを発表した。Munnさんはまた、がんリスク評価ツールが彼女の診断に至る過程で果たした役割を強調し...
ハイリスク遺伝子を有する若年乳がんサバイバーの生殖補助医療は安全の画像

ハイリスク遺伝子を有する若年乳がんサバイバーの生殖補助医療は安全

ハイリスク遺伝子があり、乳がん後に妊娠した若い女性を対象とした初の世界的研究によれば、生殖補助医療(ART)は安全であり、乳がん再発リスクは上昇しないハイリスク遺伝子があり、乳...
【ASCO2024年次総会】T-DXd(エンハーツ)がホルモン療法歴のある乳がん患者の無増悪生存期間を有意に改善の画像

【ASCO2024年次総会】T-DXd(エンハーツ)がホルモン療法歴のある乳がん患者の無増悪生存期間を有意に改善

ASCOの見解(引用)「抗体薬物複合体(ADC)は、乳がん治療において有望で有益な分野であり、治療パラダイムにおける役割はますます大きくなっています。トラスツズマブ デルクステ...
【ASCO2024年次総会】若年乳がん患者のほとんどが治療後に妊娠・出産可能の画像

【ASCO2024年次総会】若年乳がん患者のほとんどが治療後に妊娠・出産可能

ASCOの見解(引用)「乳がんの治療後も、妊娠や出産が可能であるだけでなく安全でもあることが、データが進化するにつれて次々と証明されてきています。この研究では、妊娠を試みた乳が...