2012/04/03号◆癌研究ハイライト「マンモグラフィと超音波検査にMRIを追加しても不利益が利益を上回る」「超音波ガイド下乳房温存手術が追加手術の必要性を低下させる」「男性同性愛者では肛門のHPV感染および前癌病変が多くみられる」「オラパリブは初回治療後の卵巣癌の進行を遅らせる」「移植レシピエントは侵攻性リンパ腫の発生リスクが高い」「黒色腫細胞は体の免疫反応を利用して細胞破壊を回避する」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2012年4月3日号(Volume 9 / Number 7)

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◇◆◇ 癌研究ハイライト ◇◆◇

・マンモグラフィと超音波検査にMRIを追加しても不利益が利益を上回る
・超音波ガイド下乳房温存手術が追加手術の必要性を低下させる
・男性同性愛者では肛門のHPV感染および前癌病変が多くみられる
・オラパリブは初回治療後の卵巣癌の進行を遅らせる
・移植レシピエントは侵攻性リンパ腫の発生リスクが高い
・黒色腫細胞は体の免疫反応を利用して細胞破壊を回避する
・(囲み記事)その他のジャーナル記事:HPV DNAのメチル化の程度が頸部前癌病変のリスクを示す

マンモグラフィと超音波検査にMRIを追加しても不利益が利益を上回る

乳癌リスクの高い女性と乳腺密度の高い女性に対して、年1回のマンモグラフィ検診に超音波検査または磁気共鳴像(MRI)検査を加えると、マンモグラフィ単独の場合よりも新たな乳癌が多く発見されるが、偽陽性所見も増えることが多施設臨床試験で明らかになった。NCI癌の画像診断技術プログラムとエイボン女性財団から資金援助を受けたACRIN 6666試験の結果が4月4日付JAMA誌に発表された。

乳腺密度の高い女性と、乳癌の既往歴など少なくとも1つの乳癌危険因子を持つ女性2,800人以上を対象に、同意を得た上でマンモグラフィと超音波検査による検診を年1回3年間実施した。3回の検診後に、703人の女性がMRIを受けていた。完全なデータが揃っていたのは612人分であった。

マンモグラフィに超音波検査を加えると、2回目と3回目の検診後の乳癌発見数は1,000人あたり平均3.7人増加した。超音波検査でのみ検出された癌の大部分は、リンパ節転移陰性浸潤癌であった。今まで、毎年継続的に超音波による検診を実施することによって癌の発見数が増えるかどうかは明らかになっていなかった。

年1回の超音波検診で偽陽性の結果が出るリスクは、1回目よりも2回目と3回目のほうが低かったが、超音波検査を追加することによって2回目と3回目の検診を受けた女性で生検の実施率が約5%上昇した。そのうち癌と診断されたのは7.4%のみであった。

MRIを1回加えると、癌の発見数は検診を受けた女性1,000人あたり14.7人増加した。MRIを受けた女性のうち、7%がMRIの所見のみで生検を受け、うち19%で癌が発見された。1人の患者を見つけるために必要な受診者数は、マンモグラフィで127人、追加の超音波検査で234人、追加のMRIで68人であった。

MRIはマンモグラフィ+超音波検査と比較して癌の検出率は高いが、受診者の不利益も多かった。また、触知できるしこりやその他の乳房の変化のために検診と検診の間に見つかる癌の割合は低く、そのような癌はすべてリンパ節転移陰性と診断されたと著者らは述べている。このため、「コストの増加と忍容性の低下から、乳癌の中間リスクの女性に対して、超音波検査の代わりにMRIを追加するのが妥当かどうかは不明である」。

「MRIは、感度は高いものの、現在のところ偽陽性率の高さ、コストの増加、忍容性の低下といった問題がある。したがって、乳腺密度の高い中間リスクの女性に、マンモグラフィに追加する検査として、超音波検査の代わりにMRIを広く実施するのは適切とはいえない」と著者らは結論づけている。

マンモグラフィと乳房超音波検査の併用に複雑な結果」も参照。

超音波ガイド下乳房温存手術が追加手術の必要性を低下させる

触知可能な乳癌の腫瘍摘出術を超音波ガイド下で施行すると、正常組織の切除を最小限にしながら癌性組織を確実に切除できるという点で、標準的なアプローチより有意に良好な結果が得られることが、新たな研究で示された。このオランダのランダム化対照試験の結果が、オーストリアのウィーンで開催された第8回欧州乳癌学会で3月23日に発表された。

この結果が他の試験でも裏づけられれば、超音波ガイド下のアプローチが標準の術式になる可能性がある。

試験責任医師であるアムステルダム自由大学医学部のDr. Nicole Krekel氏はニュースリリースで「触知可能な乳癌の乳房温存手術は、通常、外科医の触知のみで施行されている」と述べている。標準的なアプローチでは、残念なことに「癌細胞が高い確率で腫瘍の周囲組織に残ったり、過剰に大きく組織を切除することがある」。病理医が手術部位にまだ腫瘍細胞が残っていると判断した場合は、通常癌性組織を除去して局所再発リスクを低減する追加手術が必要とされる。

Krekel氏らは、触知可能な初期乳癌の患者124人を超音波ガイド下手術と触知による手術に無作為に割り付けた。周辺組織に癌細胞が含まれていた割合は、超音波ガイド下手術群ではわずか3.3%で、触知手術群では16.4%であった。また、超音波ガイド下手術群のほうが、除去された正常組織の量も少なかった。

超音波を使用すると、外科医が手術中に腫瘍の全周囲を確認し、最適な乳房の切開位置を決めることができるとKrekel氏は説明する。

「米国でも同じ結果が得られて、これらの結果を臨床の場に応用できるようになれば、多くの女性が不必要な再切除手術を受けずに済むようになるだろう」とNCI癌治療・診断部門の乳癌治療学の長Dr. Jo Anne Zujewski氏は述べている。

乳房温存手術後の追加手術に大きな差異」も参照。

男性同性愛者では肛門のHPV感染および前癌病変が多くみられる

50を超える研究から得られたデータのメタ解析によると、男性同性愛者(MSM:men who have sex with men)の大多数は肛門のヒトパピローマウイルス(HPV)感染および前癌病変を有する。この割合は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者ではさらに高い。この知見は3月23日付Lancet Oncology誌電子版で発表された。

MSMはHPVに関連する肛門癌の発症リスクが高いことが知られているが、データ不足から、この集団において肛門癌検診が有益であるかどうかは明らかになっていない。オーストラリア、シドニーにあるニューサウスウェールズ大学のDorothy A. Machalek氏らは、2011年11月以前に発表された53研究を調査し、HIV陰性およびHIV陽性のMSMにおけるHPV感染、肛門病変および肛門癌の頻度を算出した。

その結果、HIV陽性MSMの4分の3近くが、癌の原因となり得る高リスク型HPVに感染していると推定された。一方、HIV陰性MSMで高リスク型に感染していたのは37%であった。

HIV陽性MSMの29.1%およびHIV陰性MSMの21.5%で、中等度または重度の肛門病変が検出された。この2つのグループにおける肛門癌の発生数は、MSM10万人あたりHIV陽性で46人、HIV陰性で5人であった。

これらのデータを用い、HIV陽性MSMでは年間600人に1人、HIV陰性MSMでは4,000人に1人で、高悪性度病変が肛門癌に進行していると推定された。これらの進行率は、年間80人に1人で子宮頸癌に進行する高悪性度の子宮頸部病変を有する女性の進行率よりもはるかに低く、MSMを対象とした肛門癌検診では子宮頸癌検診とは異なるアプローチが必要となる可能性を示唆している。

しかし、NCI癌疫学・遺伝学部門のDr. Nicolas Wentzensen氏は付随論説で、子宮頸癌と肛門癌の進行率は直接比較できない可能性があると指摘している。本研究で「中等度の異形成と重度の異形成が鑑別できていなかった」とWentzensen氏は述べており、次のように指摘している。「子宮頸部の進行モデルは重度の異形成にのみ基づいたものである。中等度の子宮頸部異形成も含めると、進行率は同様に低くなる可能性がある」。

MSMの標準的な臨床ケアの一部として肛門癌検診を推奨する前により多くの研究が必要であることで、研究者らと論説委員の意見は一致している。「どのような方法で検診を行い、それがどのように機能し、得られた所見に基づく治療がどのように患者に影響するかについて多くの標準化を図り、認識を深める必要がある」「それこそ、幅広く検診を実施する前に入手すべき重要なデータである」とWentzensen氏は述べている。

オラパリブは初回治療後の卵巣癌の進行を遅らせる

ランダム化プラセボ対照第2相臨床試験において、分子標的薬オラパリブを用いた長期治療により、最もよくみられる型の卵巣癌を有する女性の無増悪生存期間が有意に延長した。この試験の中間所見が3月27日付New England Journal of Medicine誌電子版に発表された。

この臨床試験では、過去にプラチナ製剤をベースとする化学療法が奏効したものの高悪性度の漿液性卵巣癌を再発した女性265人を組み入れた。PARPと呼ばれる、DNA修復タンパク質阻害剤であるオラパリブ投与群とプラセボ投与群のいずれかに患者を無作為に割り付けた。

無増悪生存期間中央値は、オラパリブ群で8.4カ月であったのに対し、プラセボ群では4.8カ月であった。BRCA遺伝子変異の有無、年齢、家族歴、過去の無増悪期間などの要因を考慮に入れた結果では、オラパリブ群の患者の方が疾患進行のリスクが低かった。オラパリブ群では副作用が比較的多くみられたが、その大半は軽度または中等度のものであり、副作用により治療を中止した患者はほとんどいなかった。

無増悪生存期間の延長によって全生存率は上昇しなかった。中間解析では、全生存率はオラパリブ群で29.7カ月、プラセボ群で29.9カ月であり、実質的に同じであった。

卵巣癌は通常、プラチナ製剤をベースとした多剤併用化学療法が奏効し、再発時には別のプラチナ製剤をベースとした化学療法が再び奏効する可能性がある。しかし、再発治療で化学療法が奏効したとしても短期間しか持続しないと、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンがん研究所のDr. Jonathan Ledermann氏率いる研究チームは論文で説明している。

この試験は、最近実施された、維持療法が卵巣癌の病勢コントロールに有用かどうかを調査したいくつかの試験の1つである。研究者らは、化学療法の延長または分子標的薬ベバシズマブによる治療のいずれかの維持療法が癌の再発を遅らせる可能性のあることを発見した。また、高悪性度の漿液性卵巣癌を再発した女性もしくはBRCA1またはBRCA2の変異を伴う卵巣癌を有する女性において、オラパリブが腫瘍縮小を誘導することが最近明らかになった。

今回の試験結果から「オラパリブを用いた維持療法により、プラチナ製剤感受性かつ高悪性度の漿液性卵巣癌を再発した患者の無増悪生存期間が有意に延長する」と著者らは述べている。さらに、論文執筆時現在、患者の21%がまだ治療を継続していることに言及しており、「一部の患者では長期にわたって病勢がコントロールされることを示唆する」と結論している。

「卵巣癌患者にとってこれは大きな収穫です」とNCI癌研究センターのDr. Elise Kohn氏はコメントしている。「オラパリブによって無増悪期間が2倍になったことは期待の持てる知見であり、オラパリブをベースとしたさらなる研究の起爆剤となるはずです」。

DNA修復酵素を抑制する薬剤が乳房腫瘍や卵巣腫瘍を縮小」も参照のこと。

移植レシピエントは侵攻性リンパ腫の発生リスクが高い

固形臓器の移植を受けた人(レシピエント)は、侵攻性の非ホジキンリンパ腫(NHL)であるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の発生率が他の一般の人に比べて約14倍高い。移植レシピエントにおける、このNHLサブタイプのリスク因子に関する包括的研究の結果および追加的なデータが、2012年の米国癌学会(AACR)の年次総会において発表された。

移植レシピエントの癌発生リスクが高いことは知られており、臓器拒絶反応を防ぐための免疫抑制療法がその一因となっている。「NHLは移植レシピエントに最もよく診断される癌の一つで、その組織型は多様で、その原因もさまざまと考えられる」と本研究の統括責任者でNCI癌疫学・遺伝学部門(DCEG)のDr. Lindsay Morton氏は説明した。「これまでにもNHLの研究は行われているが、固形臓器移植すべてに対するNHLサブタイプのリスク因子の判断に必要な患者数および詳細な情報が不足していた」。

DCEGのDr. Todd Gibson氏の主導により、移植レシピエント登録と14の集団ベースの癌登録とをリンクさせた、移植と癌との関係に関する研究のデータを用いた解析が行なわれた。Gibson氏らは17万5000人を超える移植レシピエントの中から948のDLBCLの症例を特定した。DLBCLのリスクは、肺あるいは膵臓移植を受け、移植時にエプスタイン・バー・ウイルス陰性であった若年層の移植レシピエントにおいてより高かった。

「臓器移植は必要不可欠で、多くの場合命を救うための治療である」とGibson氏は言う。「しかしわれわれの研究は、移植レシピエントはリンパ腫の特定のサブタイプのリスクが非常に高まることを示している。この研究が、移植を受ける人の中でどのサブグループの人のリスクが最も高いのか特定するという役割を果たし、観察および場合によっては予防を行う上で必要な事柄を伝えることができることを願っている」。

別の解析では、移植レシピエントにおけるDLBCLの他のリスク因子、例えば免疫抑制剤の使用について調査をしている。

黒色腫細胞は体の免疫反応を利用して細胞破壊を回避する

ある種の黒色腫は、癌細胞を攻撃できる免疫細胞の一種のT細胞が誘導するタンパク質を利用して免疫システムを回避している証拠が発見された。150人の患者の腫瘍サンプルを用いたこのレトロスペクティブ研究は、B7-H1というタンパク質がT細胞を抑制し、最終的に免疫システムによる癌細胞の破壊を阻害していることを示唆している。

したがって、黒色腫でこのタンパク質を発現している患者にとっては、B7-H1経路を遮断する治療が利益となるかもしれない、とジョンズホプキンス医学研究所のDr. Janis Taube氏らは3月28日付Science Translational Medicine誌に発表した研究の中で述べている。

腫瘍サンプルの約40%にB7-H1の発現があり、この発現と腫瘍内浸潤リンパ球の存在との間には強い相関があった。これまでの研究で、免疫システムのタンパク質であるインターフェロン・ガンマ(IFN-γ)が黒色腫においてB7-H1の発現を誘導することが示されており、ホプキンスの研究者らは腫瘍細胞と腫瘍内浸潤リンパ球とが接触するB7-H1陽性腫瘍の中にIFN-γを発見した。

研究者らは続いて転移性黒色腫患者の転帰を調査し、B7-H1陰性腫瘍患者に比べてB7-H1陽性腫瘍患者の方が、全生存期間が長かったことを発見した。その理由は、癌を排除しようとする活発な抗腫瘍反応が、黒色腫細胞によって消されてしまう前の初期段階において存在したことを、B7-H1の発現が示しているからであろう。

免疫システムによる黒色腫の認識を回復する助けとなるかもしれないB7-H1を標的とするモノクローナル抗体の臨床試験が、現在行われている。

その他のジャーナル記事:HPV DNAのメチル化の程度が頸部前癌病変のリスクを示すヒトパピローマウイルス(HPV)DNAのメチル化の程度が、子宮頸部前癌病変に進行する可能性が最も高い型の子宮頸部HPV感染を予測するバイオマーカーとして使用できる可能性のあることが、新たな研究によって示唆された。NCI癌疫学・遺伝学部門のDr. Lisa Mirabello氏らは、コスタリカで実施されたHPVワクチンの臨床試験に参加した女性の一部の標本を用い、HPV 16型のゲノムの数カ所におけるメチル化の程度を測定した。HPV 16型は、子宮頸癌および子宮頸部前癌病変の大多数を誘発するHPVの型である。メチル化の程度の高い女性は、2年以内にHPVが消失した女性より、持続感染および子宮頸部前癌病変のリスクが高かった。この試験結果は3月23日付Journal of the National Cancer Institute誌で発表されており、著者らは、得られた知見を裏づけるために追跡調査を実施中である。

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月橋純子、川瀬真紀、金井太郎 訳
原 文堅(乳癌/四国がんセンター)、 原野謙一(乳腺・婦人科癌/日本医科大学武蔵小杉病院)、田中謙太郎(呼吸器・腫瘍内科、免疫/テキサス大学MDアンダーソンがんセンター免疫学部門) 監修 
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