2012/02/07号◆癌研究ハイライト「乳房温存手術後の追加手術に大きな差異」「前立腺癌治療の比較研究-新しい治療が優れているわけではない」「男性に多いHPV口腔感染による頭頸部癌」「米国の癌検診受診率、国家目標水準に及ばず」「子宮頸癌検診に自身で採取するHPV検査法(訳略)」「遺伝子研究が小児脳腫瘍の謎をひもとく」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2012年2月7日号(Volume 9 / Number 3)

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◇◆◇ 癌研究ハイライト ◇◆◇

・乳房温存手術後の追加手術に大きな差異
・前立腺癌治療の比較研究―新しい治療が優れているわけではない
・男性に多いHPV口腔感染による頭頸部癌
・米国の癌検診受診率、国家目標水準に及ばず
・子宮頸癌検診に自身で採取するHPV検査法が有効かもしれない(訳略)
・遺伝子研究が小児脳腫瘍の謎をひもとく
・その他のジャーナル記事:CDCの諮問委員会が男性へのHPVワクチン接種の推奨を強化

乳房温存手術後の追加手術に大きな差異

新たな研究で、乳癌の乳房温存手術(BCS)後に腫瘍の残存が疑われる組織の除去(再切除)を行う追加手術を1回以上受けた女性の数は、外科医や病院によって大きく異なることが明らかになった。ミシガン州グランドラピッズにあるリチャードJ. ラックスがんセンターのDr. Laurence E. McCahill氏率いる研究チームは、この差異による腫瘍再発率への影響の有無を特定することはできなかったけれども、2月1日付JAMA誌で著者らは、「説明のつかない臨床上の大きな格差そのものが、質と対費用効果の高いケアに対する障壁となっている可能性がある」と述べている。

研究者らは、2003年~2008年に乳癌の診断を受け、バーモント大学またはHMOがん研究ネットワークの3施設(グループ・ヘルス、カイザー・パーマネンテ・コロラド、マーシュフィールドクリニック)のいずれかで初回温存手術を受けた女性に関するデータを統合した。この研究の適格対象者である女性2,206人のうち、23%に当たる509人が初回温存術後に1回以上の乳房手術を受けていた。これらの女性のうち、全乳房切除術を受けたのは190人(初回温存術を受けた女性の約8.5%)であった。

合計で311人(14%)の女性が、初回手術後に切除断端が陽性(手術部位に腫瘍細胞が一部残存していると病理医が判定)であったが、再切除術を受けた女性はこのうち約86%のみであった。「切除断端の陽性所見が局所再発の長期リスクの上昇と相関していたことを考慮すると、この所見は注目に値する」と著者は述べている。

切除断端が陽性で再切除術を受けた女性の割合は、73.7%~93.5%と施設によって違いがあった。再切除術率も、0%~70%と外科医によって大きく異なっていた。こうした違いが、腫瘍の病理学的特徴、放射線療法の有無などの臨床的要因、女性個人の嗜好によって影響を受けるどうかは、この研究からは特定できなかった。

著者らの説明によれば、現在のところ、「明瞭(癌がない)」とみなされる腫瘍周囲の切除断端の適切な大きさに関するコンセンサスは存在しない。結果として、この研究では、幅1mm未満の病理学的に明瞭な断端を有する患者の半数近くと、1~1.9mmの明瞭な断端を有する患者の5分の1が再切除術を受けていた。

「患者の嗜好が差異の一部を左右している場合を含め、どの程度が臨床的に適切であるか、そして、手術教育や研修の良し悪しなどが媒介しうる要因に、実際どの程度が左右されているのかといった、この格差の背後にあるものを本当に理解するには、より多くの臨床研究を行う必要があることは明らかだと思われる」とNCIの癌制御・人口学部門の結果調査研究科主任であるDr. Steven Clauser氏は述べている。

前立腺癌治療の比較研究―新しい治療が優れているわけではない

さまざまな前立腺癌治療の便益と毒性を比較した2つの研究で、費用のかかる新しい治療法の方が必ずしも予後が良いわけではないことが示されている。この2つの有効性比較調査研究は、初めて新旧の治療法を直接比較したものである。この知見は2012年泌尿生殖器癌シンポジウムにて発表された。

ノースカロライナ大学チャペルヒル校のDr. Ronald Chen氏らは、メディケアと連携したSEERデータベースを使用し、3種類の外照射療法(3次元原体照射法[3D CRT]、強度変調放射線治療[IMRT]、陽子線治療)のうちの1療法を受けたことのある、限局性前立腺癌男性12,000人超に関するデータを比較した。

3D CRTを受けた患者に比べ、IMRTを受けた患者は消化器系の副作用発現率が9%低く、股関節骨折の発現率が20%低く、癌の追加治療実施率が19%低かった。これらの差異はIMRTが癌をより効果的に制御することを示唆しているとChen氏はシンポジウムの記者会見で説明した。

陽子線治療はIMRTよりも消化器系副作用の発現率が高く、癌の追加治療の必要性によって評価した癌制御率に改善は見られなかった。

「これらのデータに基づけば、陽子線治療がIMRTより優れていることを示す明らかな証拠はないと言えるだろう。また、(陽子線治療の)費用の高さと毒性が増加する可能性を考えると、この治療についてはさらに研究が必要です」と記者会見で司会を務めたネバダ州がん総合センターのDr. Nicholas Vogelzang氏は述べている。

もう一方の研究では、クリーブランドクリニックのDr. Jay Ciezki氏らがSEERを通じてメディケアのデータを用い、前立腺癌に対する外照射療法、近接照射療法、外科手術の有益性と毒性を比較した。研究者らは、これらの療法のうち、外照射療法が最も毒性が高く、費用がかかり、頻繁に使用されていたことに気づいた。

近接照射療法は毒性も費用も最も低かったが、患者のわずか12%でしか使用されていなかった。近接照射療法の使用が限られているのは、少数の一部の男性にしか適さないと当初考えられていたという事実に起因する可能性があるが、「医師がより安心して(近接照射療法を)行える段階にきたと思われる」とCiezki氏は述べている。

注目される比較有効性試験とその賛否」も参照のこと。

男性に多いHPV口腔感染による頭頸部癌

オハイオ州立大学とNCI癌疫学・遺伝学部門(DCEG)の新たな研究によれば、口腔内ヒトパピローマウイルス(HPV)感染の罹患率は、米国では女性より男性の方が有意に高い。HPV口腔感染は口腔咽頭癌、つまり舌の裏、のど、扁桃に生じる頭頸部癌の一部、の発生に関連するとされていて、その罹患率はここ数十年で劇的に上昇している。

本研究は、米国の男性と女性におけるHPV口腔感染の罹患率を総合的に記録した最初のものである。先週の集学的頭頸部癌シンポジウム(Multidisciplinary Head and Neck Cancer Symposium)で、全体的にみると、14~69歳の人の約7%にHPV口腔感染がみられたと研究責任者Dr. Maura Gillison氏は報告した(しかし、口腔感染の罹患率は生殖管内感染の罹患率よりはるかに低い)。調査した人の約1%に癌発症の危険があるHPV16型の口腔感染がみられた。この結果は1月26日付のJAMA誌電子版でも発表された。

全米健康栄養調査(NHANES)のデータを用いて、14~69歳の男女5,600人に洗口液でうがいをしてもらい検体の提供を受けて、調査を行った。研究参加者の口腔細胞に最も多くみられたHPVの型は16型で、これは口腔咽頭癌全症例の半分以上の原因となっている型である。

HPV口腔感染率は、男性は女性の3倍(10.1%対3.6%)で、年齢が高い男性の感染率が最も高いとGillison氏は記者会見で述べた。HPV16型の口腔感染率は、男性で1.6%、女性で0.3%であった。HPV感染罹患率は、一日一箱を超える喫煙者と一生のうち20人を超える性交渉パートナーを持つ人で最も高かった。

Gillison氏によれば、HPVに関連する頭頸部癌は女性より男性の方にはるかに多くみられる。この差は、HPV口腔感染率が男性の方で高いこと、「特にHPV16型感染率が女性に比べて男性は5倍超であること」で説明される可能性があるという。

なぜ男性の方が感染しやすいのかについて、Gillison氏は次のように述べた。利用可能なデータによれば、「男性の方がHPVに感染しやすい…あるいは、いったん感染するとその感染が持続しやすい」ことが示されており、またこの2つの要因の組み合わせが原因かもしれない。

「HPV関連口腔咽頭癌の感染率は、他の頭頸部癌とは対照的に、近年上昇中であるため、こうした知見は特に重要です。喫煙率もHPV口腔感染率も男性の方が高いという知見は、なぜ口腔咽頭癌罹患率が女性より男性において高いのかを完全に解明するのに役立ちます」と上級著者であるDCEG感染・免疫疫学部Dr. Anil Chaturvedi氏はコメントした。

HPV関連の中咽頭癌発症率が上昇」も参照のこと。

米国の癌検診受診率、国家目標水準に及ばず

2010年の乳癌、子宮頸癌、大腸癌検診の受診率は、保健社会福祉省が定めた米国人の健康改善と予防活動の効果を評価する政策指針ヘルシーピープル2020(Healthy People 2020)で示された国の目標より低くとどまった。この情報は1月27日付の罹患率・死亡率週報(MMWR)で発表された。

「2010年の米国癌検診受診率と2020年の目標受診率」

検診の種類受診率(%)ヘルシーピープル2020目標
乳癌72.481.1
子宮頸癌83.093.0
大腸癌58.670.5

国民健康インタビュー調査(NHIS)の結果に基づいて、NCI癌制御・人口学部門(DCCPS)と米国疾病対策センター(CDC)の研究者らは、2000年から2010年までの間に「子宮頸癌検診を受診した女性の割合は最新のデータではわずかに下降傾向となっているが、乳癌検診の受診率は経時的変化を示していない、と推定される」と報告した。大腸癌検診の受診率は男女ともにかなり上昇し、2010年までは男女でだいたい同じであった。

報告では、この3種類の癌検診すべての受診率は白人や黒人よりアジア系の人のあいだで有意に低かった。ヒスパニックはヒスパニック以外の人に比べ、子宮頸癌と大腸癌検診の受診率が低いようであった。

「高い受診率は、教育水準、医療を利用できる度合と利用状況、米国在住年数と正の相関がみられた」とも研究者らは述べた。記事によれば、乳癌においては「過去2年間のマンモグラフィ検診の受診率は、米国に10年以上在住した移民女性は米国生まれの女性とほぼ同じ(70.3%対73.1%)であったが、米国在住が10年未満の移民女性は46.6%にすぎなかった」。

「ヘルシーピープルの目標は、米国におけるがん対策の進捗状況をチェックするために重要である。われわれの研究により、アジア系、ヒスパニック、もしくは健康保険を持たないか、いつも利用できる医療機関のない成人のなかで乳癌、子宮頚癌、大腸癌検診の利用者を増やす方法を見つけるという特有の必要性が示されている」とDCCPS疫学者で研究の共同著者でもあるDr. Carrie Klabunde氏は述べた。

遺伝子研究が小児脳腫瘍の謎をひもとく

致命的な癌である小児期の脳腫瘍に関する2件の遺伝子研究で原因と疑われる新因子が特定された。いずれの研究でも、細胞核内にDNAを格納させるタンパク質の遺伝子変異が高頻度で発見された。DNA格納プロセスに変化が生じると遺伝子活性が変化し、癌化する可能性があると研究者は報告している。

1月29日付Nature誌電子版に掲載された研究では、侵襲性が高い脳腫瘍の一種である多形性膠芽腫(GBM)患者の小児48人から腫瘍細胞を採取し、エクソーム(すべてのタンパク質をコードするDNA)の全遺伝子配列を決定した。その結果、ヒストンタンパク質の一種(H3.3)をコードしているH3F3Aという遺伝子の2カ所に高頻度の突然変異の存在が明らかになった。

ヒストンは組み合わさってヌクレオソームという構造を構築し、その周囲に長鎖DNAが巻きつくことで、クロマチンという圧縮された複合体を形成する。ヒストンはDNAと深く相互に作用していることから、ヒストンタンパク質の構造変化により遺伝子活性も変化する可能性がある。

最近の2件の研究(こちらこちら)で、ヒストンの構造を変化させるタンパク質をコードする遺伝子の変異が癌と関連することを示す証拠が見出されている。Nature誌に掲載の研究は、腫瘍細胞のヒストン遺伝子そのものにおける変異について初めて記載したものである。「ヒストンはある意味、遺伝情報の守護者といえる」。本研究を主導したマギル大学のDr. Nada Jabado氏は言う。

また、Jabado氏はGBM腫瘍細胞の一部でクロマチン再構成に関わる遺伝子の変異を発見した。クロマチン再構成とは、転写因子がDNAに接近できるようにクロマチンが「緩む」プロセスで、それにより発現していなかった遺伝子が転写されるようになる。小児GBMではクロマチン再構成にかかわる遺伝子経路に高い頻度で異常が見られる可能性があり、このことが期待される新治療法を探求する足掛かりとなるだろう、と著者らは結論づけている。

「われわれは若年者に発生するGBMの生物学的基礎を解明するスタートラインに立ったところである」とJabado氏は続けた。「これまでは、闇の中での研究を余儀なくされていた」。

これとは別の研究で、小児癌ゲノムプロジェクト(Pediatric Cancer Genome Project)の研究者は、びまん性内在性橋膠腫(DIPG)という小児癌患者50人から採取した腫瘍の78%にH3F3Aまたは近縁の遺伝子HIST1H3Bのいずれかに同様の変異があることを発見した。この知見は1月29日付Nature Genetics誌電子版で報告された。

「これほど高率に(患者試料に)遺伝子変異が見つかることはめったにない」。主著者で聖ジュード小児研究病院のDr. Suzanne Baker氏はこう述べた。「この遺伝子変異を研究すれば、DIPGの生物学について重要な知見が得られることを示している」。

Baker氏はまた、今回の知見から、一部の癌でエピジェネティックな(DNAの後成的な修飾)プロセスが損なわれているのではないかとする説の信憑性が高まった、とつけ加えた。「ヒストンタンパク質の変化によりどのように癌となるか、またなぜ癌となるかを解明する研究に今こそ力が注がれることを期待している」。

その他のジャーナル記事:CDCの諮問委員会が男性へのHPVワクチン接種の推奨を強化米国疾病対策予防センター(CDC)の予防接種実施諮問委員会(ACIP)は、ヒトパピローマウイルス(HPV)四価ワクチン接種の推奨を、男児および若年男性に対象を拡大し、強化した。同ワクチンは本来、主にHPV 16型に起因する肛門癌、陰茎癌、特定の種類の頭頚部癌のリスクを低下させるものである。最新の推奨事項は、昨年10月の罹患率・死亡率週次報告および1月31日付Annals of Internal Medicine誌電子版に掲載された。ACIPは「11~12歳の男児に(HPVの)定期接種を、13~21歳の若年男性に追加接種を行う」ことを呼び掛けている。この推奨は、特にガーダシルの接種を呼びかけたものである。ガーダシルは4種類のHPV(6型、11型、16型、18型)への感染を防ぐものであり、6型と11型は陰部疣贅、16型と18型は癌の原因となる。

また、ACIPは「以前にワクチン接種を受けていない22~26歳の男性で、免疫不全者、HIV感染者、同性愛者のいずれかの場合」にもHPVワクチン接種を推奨している。

ACIPは2010年1月に行われた前回の更新で、9~26歳の男性に陰部疣贅(性器いぼ)予防を目的としたガーダシル接種の消極的推奨(ワクチン接種を提案する比較的弱い勧告)を行った。

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川瀬真紀、鈴木久美子、橋本 仁 訳
原 文堅(乳癌/四国がんセンター)、田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学)、寺島慶太(小児科/テキサス小児病院) 監修 
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