マンモグラフィ検診による乳癌検出は、必ずしも利益をもたらすとは限らない

キャンサーコンサルタンツ

癌検診について十分な情報に基づいて判断を下すには、受ける検診の利益や限界を理解する必要がある。完璧な検診というものはないが、マンモグラフィなど推奨とされる検診については、ほとんどの人にとって利益がリスクを上回ると信じられている。とは言え大事なのは、検診の利益を誇張せず、検診ができることについて現実的な期待をすることだ。最近Archives of Internal Medicine誌に掲載された研究が議論に拍車をかけた。これはどれくらいの頻度でマンモグラフィを受ければ命が救われるかを調査した研究である。この疑問は、思ったよりも複雑である。

マンモグラフィは、乳房のエックス線である。マンモグラフィ検診は、乳癌の症状がない女性に行われるマンモグラフィである。マンモグラフィ検診の目的は、最も治療しやすい早期の乳癌を検出することである。

マンモグラフィ検診をいつから始めるべきか、またどれくらいの頻度で行うべきかについて、各専門家グループで異なる結論が出されている。米国予防医療作業部会は、標準リスクの女性の定期検診は50歳で始め隔年ごとに行うよう推奨している。米国癌協会は、40歳から始め毎年の検診を推奨している。女性は、自分に適した方法について医師と相談するとよい。ただし、乳房にしこりなどの症状がある女性については、上記の検診についての推奨を適用しないことに留意すべきである(乳房の症状は年齢に関わらず診断を受けるべきである)。

マンモグラフィ検診によって乳癌が検出されこれを生き延びた女性にとって、マンモグラフィのおかげで生き延びることができたと思うのは当然のことである。これは、ときに真実である。癌の早期発見により、命に関わるであろう癌の治療に成功するケースもある。しかしながら、他の場合においてはマンモグラフィで癌が検出されても転帰に変わりはない。例えば、ある女性で症状が進行した後癌が発見されたとしても、同様に治療可能である場合もある。治療法の改善によりこのようなことは多くなりそうだ。他の女性では、癌の増殖が極めて遅いため生涯健康に影響することがなく、実際に検出する必要がないかもしれない。これらの増殖が非常に遅い癌の検出は、時々「過剰診断」と呼ばれる。

どのくらいの頻度で乳癌検診を行えば命を救えるのかを調査するため、研究者らは、米国の大規模な癌登録簿であるNCIのSEERプログラム(Surveillance, Epidemiology, and End Results program)のデータを集め分析を行った。

  • マンモグラフィ検診で乳癌が検出された50歳の女性のうち、マンモグラフィで命が救われる結果となったのは13%である。この推定値から、マンモグラフィにより乳癌の死亡率が20%減少すると考えられる。もしマンモグラフィの乳癌死亡率に対する効果がこれよりも小さいならば(その可能性もある)、検診で命が救われる可能性は13%より低くなる。
  • 女性の年齢(40、50、60歳、または70歳)やマンモグラフィによる死亡率減少(5%から25%)にかかわらず、検診が女性の命を救うこととなった確率は、25%を超えることはなかった。

研究者らは、マンモグラフィ検診によって乳癌が検出された女性のほとんどは検診によって命を救われたわけではないと結論づけた。彼女らは、乳癌の転帰に影響することがないほど早期に診断された、すなわち過剰診断された可能性が高い。

これらの結果は、女性が検診を受けるべきでないという意味ではない。むしろ、この結果は女性がマンモグラフィ検診に期待できることは何かということについての新たな情報なのである。マンモグラフィは、命を救うことができるが、それが乳癌の問題に対しての最終的な答えではない。

参考文献:

Welch HG, Frankel BA. Likelihood that a woman with screen-detected breast cancer has had her “life saved” by that screening. Archives of Internal Medicine. Early online publication October 24, 2011.


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翻訳担当者 上野 葉

監修 橋本 仁(獣医学)

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