早期HER2陽性乳がんの術後パクリタキセル+トラスツズマブは10年後も高い効果を維持

ダナファーバーがん研究所

リンパ節転移がなく、腫瘍サイズが小さいHER2陽性乳がん患者に対する標準治療を確立した臨床試験の追跡調査結果が、この治療の長期的な有効性を裏づけている。

試験参加者の96.3%が、乳房手術後にパクリタキセルとトラスツズマブ(販売名:ハーセプチン)を併用する治療を受けてから10年後に、がんの再発なく生存していたことが、本日Lancet Oncology誌オンライン版の論文で報告されている。また、一部の参加者の腫瘍組織をゲノム解析したところ、どのような患者ががんの再発を起こしにくいかを知る手がかりが得られた。この情報は将来的に治療の個別化に役立つ可能性がある。

「HER2陽性の早期乳がん患者に対する術後トラスツズマブと化学療法の有用性が示されたこれまでの大規模臨床試験には、ステージIの患者はほとんど含まれていませんでした」と、研究の筆頭著者でこの試験の試験責任医師であるダナファーバーがん研究所のSara Tolaney医師・公衆衛生学修士は述べている。「腫瘍サイズの小さいHER2陽性乳腺腫瘍の患者を対象としたこの試験の10年後の結果は、これらの薬剤を併用することがこの患者集団にとって優れた長期の治療効果をもたらすことを裏付けています」。

HER2陽性乳がんは、がん細胞の増殖を促進するHER2タンパク質の濃度が正常値より高いことが特徴である。HER2陽性乳がんは乳がんの約20%を占めており、適切な治療が行われなければ、HER2陰性乳がんに比べて予後が悪くなる。

APT(Adjuvant Paclitaxel and Trastuzumabの頭文字)と呼ばれるこの試験には、リンパ節転移がないまたは1つしかない、3cm以下のHER2陽性乳腺腫瘍がある患者406人が参加した。患者は乳房手術を受けた後、化学療法剤であるパクリタキセルと、HER2タンパク質を標的とする薬剤であるトラスツズマブの投与を12週間にわたり1週ごとに受けた。その後、40週間にわたり1週ごとまたは3週ごとにトラスツズマブの投与を受けた。

追跡調査の解析から、治療から平均10.8年で、参加者の94%が生存していること、また参加者の96.3%が疾患の再発がないことがわかった。乳がん特異的生存率(乳がんで死亡していない人がどれだけいるかという指標)は99.1%であった。

この試験に関連して、参加者284人の腫瘍組織サンプルについてゲノム検査を実施した。その結果、HER2DX(遺伝子発現を利用したツール)のリスクのスコアが低い患者の腫瘍は、スコアが高い患者に比べて、がんの再発が非常に少ないことがわかった。この結果が他の研究によって裏付けられれば、この種の乳がんに対する個別化治療への一歩となる可能性があり、それほど強くない治療で利益が得られる患者や全身治療を全く必要としない患者について医師が特定できる可能性があると、この研究の著者らは述べている。

この試験の統括著者は、元ダナファーバー研究所・現イェール大学がんセンター所長のEric Winer医師である。共著者は、原文参照のこと。

この試験はGenentech社の資金提供を受けている。

  • 監訳 尾崎 由記範(腫瘍内科・乳腺/がん研究会有明病院)
  • 翻訳担当者 瀧井希純
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  • 原文掲載日 2023年2月28日

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