2007/01/30号◆癌研究ハイライト「亜ヒ酸、白血病(APL)」「乳房温存術後の放射線療法」「タモキシフェン乳がん予防」他

同号原文

米国国立がん研究所(NCI) キャンサーブレティン2007年01月30日号(Volume 4 / Number 5)
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癌研究ハイライト

亜ヒ酸がAPL成人患者の生存期間を延長

Cancer and Leukemia Group B:CALGBが行った第3相臨床試験の最新結果により、標準化学療法に加えて亜ヒ酸(Trisenox)の投与を受けた急性前骨髄性白血病(APL)成人患者は、標準化学療法のみを受けた患者に比べ、有意に無事象(再燃などの事象がない)生存期間および全生存期間が延びたことが示された。

NCIが資金提供を行ったCALGB試験では、1999年6月から2005年3月までの間に、582人の患者で亜ヒ酸の効果が調べられた。新規に、症例数が比較的少ない種類の白血病であるAPLだと診断された患者が、2種類の治療群のいずれかにランダムに割り付けられた。標準寛解治療群の患者は、化学療法剤ダウノルビシンおよびシタラビンと、1日2回のオールトランス型レチノイン酸(ATRA)の投与を受けた後、標準寛解後治療として、更に2コースのATRAおよびダウノルビシン投与を受けた。研究中の治療群では、同様の標準治療に加えて、完全寛解または部分寛解に至った直後、標準寛解後治療を受ける前に、2コースの亜ヒ酸治療を受けた。

化学療法と亜ヒ酸治療の併用療法を受けた成人患者では、診断後3年の時点で,77%が寛解を維持していたが、標準治療のみを受けた患者では、59%であった。さらに、化学療法と亜ヒ酸治療の併用療法を受けた成人患者では、86%が3年後も生存していたが、標準治療群の患者では、77%であった。

共同研究医師でシカゴ大学所属のRichard Larson医師は、「今回の試験結果は、急性前骨髄性白血病患者の初期治療の一環として、亜ヒ酸治療を考えるべきであることを示唆している。」と述べた。

乳房温存手術後の放射線療法は高齢の乳癌女性に有効

NCIの資金提供により癌研究ネットワーク(Cancer Research Network)が行った試験の結果が、1月22日にオンラインでCancer誌に発表され、乳房温存手術(BCS)後の放射線療法および5年間のタモキシフェン治療を受けた65歳以上の女性は、これらの標準治療を受けなかった女性と比べ、癌再発のリスクが減少することを示した。

ウェイクフォレスト大学のAnn M. Geiger医師に率いられた臨床試験医師らが、癌研究ネットワーク内の6箇所の保健維持機構(HMO)において、1990年から1994年の間に初期乳癌の手術を受けた65歳以上の女性のカルテを調査した。女性患者が、完全乳房切除術、またはBCS後に化学療法、あるいはBCSのみのいずれを受けたかが記録された。またホルモン受容体陽性の女性患者におけるタモキシフェンの使用歴および使用期間も記録された。

既知の予後変数を調整後、BCS後に放射線療法を受けなかった女性は、完全乳房切除術を受けた女性に比べ、再発や2次性の原発乳癌を発症するリスクが増加することが分かった。対照的に、BCSに加えて放射線療法も受けた女性では、再発および2次性の原発癌のどちらのリスクも増加しなかった。ホルモン受容体陽性で、5年以上のタモキシフェン治療を受けた女性では、タモキシフェン治療を1年以下しか受けていない女性に比べ、再発や2次性の原発癌を発症することが少なかった。

BCS後の放射線療法およびタモキシフェン治療は、女性患者の年齢、人種、民族性、並存疾患に関わらず、有効であった。昨今の複数の試験により、高齢女性は標準治療を受けることが少ないことが示されているため、著者らは「年齢に関係なく全ての患者に、質の高い癌治療を提供することの重要性」を強調している。

たばこに含まれるニコチンの増量を裏付ける試験結果

たばこの煙に含まれるニコチン量が、1998年から2005年の間に、11%増加した。これは、NCIの支援によりハーバード大学公衆衛生学部のたばこ研究プログラム(HSPH)が行った試験の最新報告書の結論である。本試験では、全国の主要たばこ製造業者から得たデータが分析された。

この最新報告書は、去年の夏にマサチューセッツ公衆衛生局により発表された同様の報告書の結果に賛同するものである。マサチューセッツ州の法律では、州内でたばこを販売する全製造業者に、ニコチン量およびその他のたばこ含有物の割合に関する包括的な年次報告書の提出を求めている。たばこの煙に含まれるニコチン量は、個人の喫煙習慣に関わらずたばこを比較する、標準化された機械による方法を用いて計測される。

たばこ製造企業が行っていると思われる、たばこの煙に含まれるニコチン量の2つの増量方法が確認された。その2つの方法とは、たばこのロッド(喫煙部分の大半を占めるたばこの部分)中のニコチン濃度を高くする、または「燃焼率」を減少させ、たばこを口に運ぶ回数を増やすこと、である。しかし、研究者らは、この2つの要因がニコチン増量のすべての原因ではなく、「たばこ製品の正確な情報は秘密にされ、国民には隠されている」ことに注意を促した。

「今回の試験結果は、1998年に州検事総長と基本和解協定を交わして以来、たばこ業界の喫煙者を中毒にさせようとする体質が少しでも変わったのかどうか、という重大な疑問を投げかけています。私たちの分析結果により、たばこ企業は、協定以来、消費者になんら注意を促すことなく、たばこに含まれるニコチンを毎年少しずつ増量してきたことが示されました。」と本試験の主執筆者であり、HSPHの公衆衛生担当教授であるGregory Connolly医師は述べた。

本試験の著者らは、「全てのたばこは、耽溺性が高く有害であり、ニコチン量の比較的少量の変化では、製品の耽溺性を大きく変えることはできない可能性がある。」と指摘する。またニコチンの増量は、たばこ製品の価格の上昇により喫煙量が少なくなる可能性がある低所得喫煙者を含めた喫煙者が、たばこへの耽溺性を維持しやすいようにするためである可能性も示唆した。

予想より多くの女性がタモキシフェン治療を中止している可能性

初期のホルモン感受性乳癌患者の女性が術後補助療法としてタモキシフェン治療を5年間受けると、乳癌の再発および死亡のリスクを劇的に減少させることができる。しかし、なかにはタモキシフェン治療を早期に中止し、その利益を受けない女性患者もいる。1月22日にオンラインでCancer誌に発表された試験結果が、このような女性患者の数が以前に考えられていたよりも多い可能性を明らかにした。

ダブリンにあるセント・ジェームズ病院の研究者らが、国民の約3分の1が加入しているアイルランド政府の無料医療保険制度を満たしている処方が記録されている全国データベースの記録を分析した。最終的に試験のコホート(集団)は、2001年1月から2004年の1月までの間にタモキシフェンを処方された35歳以上の女性2,816人となった。

以前の試験では、5年間タモキシフェン治療を継続しなかった、または5年以内に中止した割合は、16から32%の間であると推定していた。今までのところ最大規模の今回の調査研究では、中止率は、3.5年のフォーローアップの時点でさえ、35.2%あることが示された。「本試験の患者が5年間の治療を完了するまでには、タモキシフェンの継続使用はさらに減少するだろう。」と著者らは警告している。継続しない要因には、年齢が若いこと(44歳以下)や高齢であること(75歳以上)などがあった。

著者らは、若い女性には乳癌の診断は受け入れ難いため、タモキシフェンの副作用を受け入れることも難しい可能性がある、と推測している。また抗うつ剤の中には、重篤な顔面紅潮を和らげることが示されているものもあるため、それらの薬剤が副作用を最小限に抑えることで、治療の継続を促進する可能性があることも指摘している。

SWOGによる前立腺癌試験が打ち切られる

NCIの資金提供を受けたSouthwest Oncology Group(SWOG)は、治験中の新規治療法が、稀ではあるが危険な副作用と関連性があったため、前立腺癌治療の第3相臨床試験を打ち切ったことを先週発表した。

S9921と呼ばれる本試験は、腫瘍が前立腺を越えて拡がり、手術や放射線療法後の再発リスクが高い「予後不良」の前立腺癌男性において、ホルモン枯渇療法とミトキサントロンによる化学療法の併用療法が、ホルモン枯渇療法のみの場合よりも優れているかどうかをみるために計画された。

ミトキサントロンは、進行前立腺癌の治療薬として、すでに米食品医薬品局(FDA)の承認を得ている。試験に登録された983人の患者のうち、488人が治療の一環としてミトキサントロン治療を受けた。本試験の生存期間および副作用のデータに関する最新の評価において、SWOGは、ミトキサントロン治療を受けた患者の中に、急性骨髄性白血病を発症した患者が3例あったことを試験医師らが指摘した、との声明を発表した。ホルモン枯渇療法のみの群では、白血病を発症した患者はいなかった。

SWOGのデータ安全性モニタリング委員会による審査と推奨によって、本試験は打ち切られた。

翻訳担当者 Oonishi 、、

監修 瀬戸山 修(薬学)

原文掲載日 

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