研究者らの提言――腫瘍医は心臓病専門医のごとき心構えで医療に臨むべき(サンアントニオ乳癌シンポジウム)/Medscape2006/12

原文 | Medscape
研究者らの提言――腫瘍医は心臓病専門医のごとき心構えで医療に臨むべきMedscape
Allison Gandey
2006年12月11日(オーランド)

2006年12月18日(サンアントニオ)――腫瘍医は治療のみに力を入れすぎており、予防に十分な時間をかけていない。サンアントニオ乳癌(SABC)シンポジウムで、参加者に対してこのような提言がなされた。メリーランド州ベセズダ、米国国立癌研究所(NCI)のLeslie Ford医師は、近年の進歩について語った講演の中で次のように述べた。「一般的に癌は予防が可能ですし、乳癌は特にそうなのです。」彼女はこの会合に参加した同業者らにこのように訴えた。「われわれ腫瘍医は心臓病専門医のような考え方を持ちはじめなければなりません。」 Ford医師が言うには、有益な予防的介入というのは、高リスク群の患者の利益を最大化しつつリスクを最小化することであり、これは心臓病専門医の優れている点である。彼女は現在の乳癌予防の有効性は、広く認められている心臓血管系の疾病の予防研究と肩を並べていると述べ、治療必要数(NNT)を指標に最近の乳癌についての臨床試験と脂質低下の臨床試験とを比較してみせた。

治療必要数(NNT)の例

適応症

対象

介入

結果

治療必要数(NNT)

乳癌

タモキシフェン(術後化学療法)

タモキシフェン 対 なし

再発

8

高リスク群

タモキシフェン 対 ラロキシフェン

浸潤性乳癌

55

脂質低下

冠動脈心疾患後のコレステロール

シンバスタチン 対 プラセボ

2度目の冠動脈関連の事象

12

一次予防のコレステロール

プラバスタチン 対 プラセボ

冠動脈関連の事象

44

正常/低HDLコレステロール

ロバスタチン 対 プラセボ

冠動脈関連の事象

49

このセッションの共同議長を務めるMamta Kalidas医師(テキサス州ヒューストン、Baylor College of Medicine所属)はMedscapeのインタビューに次のように答えた。「Ford医師に賛同します。われわれは新しい方法の取り組みに力を入れ、別の視点を探す必要があるのです。つまり、もっと予防に力を入れるべきなのです。心臓病学ではコレステロール・レベルや血圧を測定できますが、乳癌では何が予防のマーカーとして使えるのかを未だ見極めようとしている最中です。これは現在進行中の課題です。」

Kalidas医師は腫瘍学と心臓病学には臨床試験において重要な違いがいくつかあり、そのために予防方針の立て方がなかなか進歩しないのだとも指摘している。「ある薬剤が予防に有効かどうかを調べるためのデータ収集には、何千人もの女性と何年もの追跡調査が必要です。多くの心臓病学の臨床試験とくらべ、腫瘍学の試験は最終結果を確かめるのにずっと時間がかかることがあるのです。」

乳癌予防の重要な薬剤、タモキシフェンとラロキシフェン

Ford医師は会合で次のように述べた。タモキシフェンを扱ったBreast Cancer Prevention Trial(乳癌予防試験)により、高リスク群の女性で乳癌は予防可能であると立証された。これは1998年に公表されたのだが、試験責任医師らは女性をタモキシフェンとプラセボとに割り当てて試験を行ったところ、タモキシフェン群で浸潤性乳癌の49%の減少を示した。7年の追跡調査のレポートが後の2005年に公表され、この結果は再確認された。また、タモキシフェンには子宮内膜癌や血管性事象といった有害事象と関わりがあることも確認された。

Ford医師は最近実施されたStudy of Tamoxifen and Raloxifene(STAR:タモキシフェン、ラロキシフェン比較試験)の知見も示した。この臨床試験は閉経後の高リスク群の女性において、浸潤性乳癌の予防に骨粗鬆症薬のラロキシフェンがタモキシフェンと比べ同程度、あるいはそれ以上の効果があるかどうかを確かめるために計画された。この大規模なランダム化試験は19,000名以上の女性を被験者とし、どちらかの薬剤を5年間、毎日投与するよう割り当てられた。

試験初期の結果では、浸潤性乳癌の予防に関してラロキシフェンはタモキシフェンと同じくらい有効であることが示された。Ford医師は言った。「有害事象の様相は2つの薬剤で異なっているので、高リスク群の女性は病歴や個人の好みで乳癌予防の薬剤を選べます。」

彼女は次のように付け加えている。「さらに新しい研究によると、アロマターゼ阻害剤が乳癌の再発と反対側の乳癌の発症の両方を減少させる点で、タモキシフェンより優れていることが示されました。」閉経後の女性についてエキセメスタンやアナストロゾールとプラセボとを比較した臨床試験が、北米やイギリスで進行中である。「論理的に考えて次の段階では、高リスク群の閉経後の女性を対象に、STARで使用されたラロキシフェンと、レトロゾールのようなアロマターゼ阻害剤とを比較することでしょう。」この研究はNational Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project(米国乳癌、大腸癌術後補助療法プロジェクト)によって行われ、計画推進中である。

セッション後の議論の時間では、シカゴからの参加者がFord医師の発表について祝辞を述べた。「この国民的な予防への取り組みを主導していただき感謝しています。」と。

他の介入の探求

同セッションの2つ目の講演で、カンザスシティ、カンザス大学医療センターのCarol Fabian医師がそれ以外の予防方針に何があり得るかについて話した。彼女が言うには「タモキシフェンとラロキシフェンが一次予防薬剤として使用できることが立証されましたが、それらよりも有害事象が少なく幅広い有効性を持つ介入についても探り続けています。」とのことだ。

「初期予防臨床試験で現在見極められている介入は、第3世代・第4世代の選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)、COX-2阻害剤、レキシノイド、及びホルモン補充療法を受ける閉経後の女性を対象としたアロマターゼ阻害剤です。」Fabian医師はそう語った。他に研究されているものでは、閉経前の女性に対する性腺刺激ホルモン放出ホルモンアゴニストと小量のホルモン製剤の併用、フィトエストロゲンとリグナン、チロシンキナーゼ阻害剤、そして食事や運動などの生活習慣における介入などがある。

Medscapeのインタビューに対し、Kalidas医師は生活習慣に対する介入の重要性を強調した。彼女はこのように言っている。「運動がER陽性の患者における再発のリスクや、新たな癌の発症を減らす助けになりうることがわかっています。運動は様々な病気の予防にも良い方法となります。また、開業腫瘍医が予防方針について着手するのに適切な分野となるでしょう。低脂肪、高線維の食生活と規則的な運動の重要性を患者に意識させるのは、いかなる場合でも良いことです。」

第29回SABC年次シンポジウム:アブストラクト番号MS4-1と2。2006年12月16日に発表された。

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大國義典 訳
林 正樹(血液・腫瘍医)監修 

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