ASCO22発表(1):膠芽腫に対する免疫療法薬の併用は安全かつ有望/リンチ症候群を検出する患者記入型ツール

ASCO年次総会でのDana-Farberの研究。ダナファーバーがん研究所のこれらの研究の結果は、Dana-Farberの研究者が率いる他の数十の研究とともに、2022年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)の年次総会で発表されます。

【1】膠芽腫に対する免疫療法薬の併用(INO-5401、INO-9012とセミプリマブ)は安全かつ有望

現在臨床試験中のがん免疫療法薬2剤と免疫チェックポイント阻害薬を併用した新たな複合免疫療法が、2年間の追跡期間中試験の中間解析で初発膠芽腫患者に有望な結果をもたらしていることが米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表された。

第I相および第II相非盲検試験GBM001のデータから、多くの患者に末梢血液での明確な免疫反応が有意にみられ、この併用療法に対する高い忍容性も認められた、とダナファーバー神経腫瘍センター(Center for Neuro-Oncology)の臨床部長で本試験GBM-001の試験責任医師のDavid Reardon医師は述べた。臨床試験GBM-001は、悪性度が非常に高く致死的な膠芽腫の患者52人を対象としている。

さらに生存期間中央値は、MGMT 遺伝子のプロモーター領域にメチル化のない(=予後がより不良な)患者では17.9 カ月であり、過去の データで14~16 カ月であったのと比較して「ある程度改善」した。MGMT 遺伝子プロモーターにメチル化のある(=予後がより良好な)患者では過去の23~25 カ月と比較して 32.5 カ月であった。Reardon医師は、「このデータは有望であり、これまで単剤での免疫療法で良好な効果を得られなかったこの疾患に対して、複合免疫療法が有効な戦略である可能性を示している」と述べた。この試験は初発膠芽腫と診断された患者に対する、がんワクチン治療とPD-1チェックポイント阻害薬をはじめて併用した試験の1つである。

この試験で使用されている薬剤のうちINO-5401とINO-9012は、この試験のスポンサーであるバイオテクノロジー企業イノビオ社が開発した免疫療法薬(同社はこれをDNA医薬品[DNA medicine]と呼んでいる)で、膠芽腫に高頻度に発現する特定の抗原を標的とする免疫T細胞を刺激する薬剤である。この2種類の薬剤は、患者の腫瘍を手術によってできる限り切除したあと、筋肉内注射で投与する。INO-5401は3種類の膠芽腫抗原を標的とする薬剤で、INO-9012はT細胞活性化因子であるIL-12をコードする合成プラスミドで腫瘍に対する免疫を活性化するのを助ける。これらの薬剤は、PD-1阻害薬 cemiplimab[セミプリマブ]とともに投与される。PD-1阻害薬は、がんが免疫反応にブレーキをかけるのを阻害する薬剤である。

タイトル:初発膠芽腫に対するエレクトロポレーション法(EP)を用いたINO-5401およびINO-9012の筋肉内投与(IM)とセミプリマブ(REGN2810)の複合免疫療法

アブストラクト2004

発表者:David Reardon医師

【2】患者記入型のスクリーニングツールが遺伝性がんリスクの検出率を高める可能性

米国の約100万人が消化管、子宮内膜その他のがん発症リスクが著しく高い遺伝性腫瘍症候群であるリンチ症候群に罹患している。しかしそのことに気づいてなかったり、がんになって初めて気づいたりという人がほとんどである。 ダナファーバーがん研究所で開発されたPREMM5は、リンチ症候群検査のための生殖細胞遺伝子検査を受ける必要がある人の迅速な特定に役立つスクリーニングツールである。PREMM5は当初、医療従事者が回答を記入するようデザインされていたが、ダナファーバーの新プロジェクトにより、これを患者が直接記入する質問票に改変し、電子健康記録(EHR)システムに組み込んだ。

Chinedu Ukaegbu医師(公衆衛生学修士)が率いるこのプロジェクトでは、ダナファーバーがん研究所で新たに消化器がんと診断された患者が、PREMM5スクリーニング質問票にリモートまたは病院の待合室で回答できるようにした。PREMM5は、患者の性別、年齢、患者自身のがん既往歴、親族の特定のがん既往歴に関する情報を収集し、アルゴリズムにより患者がリンチ症候群の5つの遺伝子のいずれかを受け継いでいる確率を計算する。リスクが2.5%以上の人は、遺伝カウンセリングと、リンチ変異の有無を診断する検査を受けることが推奨されている。

2020年6月から2021年12月の間に、消化器がんの新規診断を受けた患者の35%がPREMM5スクリーニングを受け、1,504人中367人(24%)がスコア2.5%以上の陽性だった。スクリーニング陽性の結果を受け、367人中102人(28%)が遺伝カウンセリングの紹介を受けた。カウンセリング後に検査を受けた患者のうち13人の患者に、がん関連の病原性変異があり、そのうち4人はリンチ症候群だった。研究者らは、患者記入型のPREMM5によるリスク評価は実用可能であり、またこのスクリーニングによって一般消化器がん患者のほぼ4人に1人が遺伝子検査を受けるべきだという結果を得られた、と結論付けた。 しかしスクリーニングを完了した患者と、スクリーニング陽性でカウンセリング紹介を受けた患者の割合はまだまだ低く、これらを向上させていく必要があるとも述べている。

本研究の筆頭著者は、ダナファーバー患者報告データプログラム(Patient Reported Data Program)のメディカルディレクターNadine J. McCleary医師(公衆衛生学修士)、ダナファーバー・ブリガムがんセンター(Dana-Farber Brigham Cancer Center)消化器科長でダナファーバー・リンチ症候群センター(Lynch Syndrome Center)創設者のSapna Syngal医師(公衆衛生学修士)がつとめている。

タイトル:がん診療における電子健康記録(EHR)システムを介した患者記入型リンチ症候群(LS)のリスク評価

アブストラクト10503

発表者:Chinedu Ukaegbu医師(公衆衛生学修士)

ASCO発表(2)に続くーー

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翻訳担当者 田代両平

監修 永根基雄(脳神経外科/杏林大学医学部)

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