膠芽腫においてデキサメタゾンは抗PD-1薬投与患者の生存期間を短くする可能性

免疫チェックポイント阻害薬を投与している膠芽腫患者のうち、治療開始前に脳浮腫治療に副腎皮質ステロイド剤デキサメタゾンを投与されていた患者では全生存期間が有意に短いという研究結果が、米国がん学会(AACR)発行のClinical Cancer Research誌で発表された。

「デキサメタゾンは、膠芽腫患者の脳浮腫に伴う症状や脳腫脹の治療でしばしば処方される強力な副腎皮質ステロイド剤です 」とDavid A. Reardon医師(ダナファーバーがん研究所神経腫瘍センター臨床部長、ボストン)は話す。「脳浮腫は膠芽腫患者でよくみられ、生命に関わりかねない合併症であり、副腎皮質ステロイド剤治療が脳の炎症抑制に役立つこともあります。

歴史的に、デキサメタゾンによる治療を脳浮腫の症状がない膠芽腫患者にまで経験的に行ってきたのは、患者が脳浮腫を発症する可能性を考えてステロイド薬を長期間にわたり処方する医師が多かったためです。われわれの研究の目的は、特に免疫治療の時代におけるそうした実臨床のパラダイムに注目して、免疫チェックポイント阻害薬治療を受ける膠芽腫患者において、デキサメタゾン使用に伴う負の影響があるかどうかを見きわめることでした」。

Reardon氏らは、同系マウス膠芽腫モデルにおいて免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1療法)と同時にデキサメタゾンを投与した場合の影響を評価した。免疫チェックポイント遮断に本質的に反応する免疫感受性マウスモデルでは、抗PD-1治療薬にデキサメタゾンを追加すると、用量依存的に生存期間が短くなる結果となった。さらに、Reardon氏によればヒト膠芽腫により近い免疫抵抗性マウスモデルでは、抗PD-1療法または抗PD-1療法+放射線療法へのデキサメタゾン追加でも生存期間が短くなった。

「われわれの前臨床試験では、ステロイド薬は抗PD-1治療の有効性に対して有意な悪影響を及ぼすことが判明しました。また免疫感受性モデルにおいても、膠芽腫患者に対する免疫チェックポイント阻害の有益性を過大評価していたことがわかりました」とReadon氏は述べる。

次に研究者らは、2019年4月1日以前に膠芽腫と診断され、ダナファーバーがん研究所で抗PD-1治療または抗PD-L1治療を受けた膠芽腫患者181人の全生存期間データを解析した。この患者集団は異種集団であり、臨床試験による治療を受けている患者や、薬剤の例外的使用により治療を受けている患者も含まれ、約76%が再発治療、約24%が新規診断に対する治療であった。これら患者181人のうち、ベースライン時にデキサメタゾンを投与されていたのは約35%であった。

Reardon氏らはデキサメタゾンの潜在的な弊害を多変量解析を用いて評価した。解析では疾患状態(新規診断対再発)、治療開始時の腫瘍体積、年齢、切除範囲などのさまざまな因子を調整し、関連予後因子に関する注釈付き全データを有する163人を解析の対象とした。抗PD-1療法開始時点でデキサメタゾンを投与していない患者と比較して、デキサメタゾン治療を受けた患者の死亡リスクは約2倍であった。さらに、治療開始時点でのデキサメタゾン投与は、全生存期間に対して最も強く関連付けられる負のリスク因子であった。

「免疫療法薬治療を受けている膠芽腫患者にはデキサメタゾン投与を避けるようにするべきであり、また臨床的に副腎皮質ステロイド剤が必要な場合には、これらの薬剤投与を慎重に行うべきであると今回の結果は示唆しています」とReardon氏は述べる。「さらに、抗炎症効果がこれほど広範囲に及ばない脳浮腫に対する治療に向けた他の戦略の追求が強く求められていることをわれわれの研究結果は示しています」。

本研究の限界のひとつは臨床解析が後ろ向きだという点である。さらに、前臨床試験では研究者らはデキサメタゾンの影響を、抗PD-1治療薬の有効性についてしか評価していない。「他の免疫調節チェックポイント標的薬、あるいはワクチン、養子細胞療法、遺伝子操作腫瘍溶解性ウイルスといった他の免疫療法においても同等の結果が生じるかどうかは、まだ評価されていません」とReardon氏は述べる。

この研究は以下の支援を受けた:Jennifer Oppenheimer Cancer Research Initiative、The Ben and Catherine Ivy Foundation、Hope It’s A Beach Thing、an annual 5K for brain tumor research、Pan- Mass Challenge, a bike-a-thon that raises money for the Dana-Farber Cancer Institute。この研究は、米国国立衛生研究所からも資金提供を受けた。

Reardon氏は以下の企業から研究資金を受けた:Acerta Pharmaceuticals、Agenus、Celldex、 EMD Serono、Incyte、 Inovio、Midatech、 Omniox、 Tragara。 Reardon 氏は以下の企業の諮問委員会への参加に対して報酬を受けている:AbbVie、Advantagene、Agenus、Amgen、 Bayer、Bristol-Myers Squibb、 Celldex、 DelMar、EMD Serono、Genentech/Roche、Imvax、Inovio、Merck、 Merck KGaA、Monteris、 Novocure、Oncorus、 Oxigene、Regeneron、Stemline、Taiho Oncology Inc。

翻訳担当者 佐藤美奈子 

監修 西川 亮(脳腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター)

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