膠芽腫に対する術前PD-1 阻害
腫瘍の免疫性に関する微小環境における変化についての評価
2019年2月11日、Nature Medicine誌において3通のレターが公表された。2通のレターでは、膠芽腫患者においてPD-1 阻害薬の術前投与に関する実行可能性、安全性、および免疫生物学的効果が示され、3通目のレターでは、膠芽腫の抗PD-1療法に対する反応性の免疫学的・遺伝学的根拠についての見解が示された。
1通目のレターでは、Centro de Investigación Biomedica en Red de Oncología(マドリード、スペイン)、Instituto de Investigación Sanitaria de Navarra(パンプローナ、スペイン)および Clínica Universidad de Navarra(パンプローナ、スペイン)に所属のIgnacio Melero氏とその共著者らが、第2相単群臨床試験から得られた結果を報告した。当試験では、手術を受ける予定の膠芽腫患者を対象とし、PD-1 阻害薬による術前療法を実施した。患者30人を対象とし、術前にニボルマブを投与した後に、術後にも病勢進行または許容できない毒性が認められるまでニボルマブ投与が行われた。対象患者30人において、再発に対しての手術が27件に、また、新規に膠芽腫の診断を受けた患者に対しての初回手術が3件に実施された。
この研究では、ニボルマブ投与前ならびに投与後の腫瘍組織、および、ニボルマブ投与歴のない新規症例のデータが入手できた。このために、腫瘍の免疫に関する微小環境における変化について、分子学的解析、および細胞学的解析を複数利用した評価が可能となった。
ニボルマブを術前療法として投与することで、ケモカイン転写産物の発現量増大、免疫細胞浸潤率の上昇、および腫瘍に浸潤しているTリンパ細胞が発現するT細胞受容体のクローンの多様性増大につながった。この結果により、この治療法の局所における免疫調節性効果が裏付けられた。
再発手術の後に明らかな臨床上の利益は実証されなかったものの、初回手術の前後でニボルマブ投与を受けた患者3人中2人が28カ月経過した時点で生存していた。
2通目のレターでは、 カリフォルニア大学ロサンゼルス校David Geffen School of Medicineと同大学Jonsson Comprehensive Cancer Center(ロサンゼルス、米国)所属のTimothy F. Cloughesy氏およびRobert M. Prins氏がランダム化多施設臨床試験(The Ivy Foundation Early Phase Clinical Trials Consortiumによる実施)の結果を報告した。本試験では、外科的切除可能な再発膠芽腫35名を対象とし、ペムブロリズマブを術前・術後補助療法として利用した場合の免疫応答性と生存に関する評価を目的とした。
本試験では、患者を、ペンブロリズマブ(PD-1 阻害薬)の術前投与を受けた後に継続して術後投与する群と、術前投与を受けず、術後にのみペンブロリズマブ投与を受ける群にランダムに割り付けた。その結果、術後にのみペンブロリズマブ投与を行った群の患者と比較して術前・術後にペンブロリズマブ投与を行った群の患者の全生存期間が有意に長くなった。
PD-1 阻害薬を術前に投与すれば、T細胞およびインターフェロンγに関連する遺伝子発現量が増大したものの、腫瘍内の細胞周期に関連する遺伝子発現量が減少した。細胞周期に関連する遺伝子発現量の減少は術後補助療法のみをうけた患者では認められなかった。腫瘍の微小環境におけるPD-L1の局所的な誘発、T細胞のクローン性増殖量の増大、末梢血T細胞上でのPD-L1発現量の減少、および単球量の減少は、術後補助療法のみをうけた患者と比べて術前・術後療法を受けた患者で見受けられる頻度が高かった。
著者らは、本試験の知見について、PD-1 阻害薬を術前にも投与することで、局所及び全身の両方で抗腫瘍免疫応答性が高まることを示唆するものである、と結論付けた。
3通目のレターでは、コロンビア大学Irving Medical Center(ニューヨーク)所属のFabio M. Iwamoto氏、Northwestern University Feinberg School of Medicine(シカゴ)所属のAdam M. Sonabend氏 およびコロンビア大学Irving Medical Center(ニューヨーク)所属のRaul Rabadan氏らのチームが膠芽腫における免疫治療に対する反応性の分子学的決定因子について報告した。研究チームは、長期にわたり反応を示した患者17人を含む患者66人について経時的プロファイリングを行った。プロファイリング期間は、標準治療の実施期間中、およびPD-1阻害薬(ニボルマブあるいはペムブロリズマブ)を用いた術後療法期間中、とした。
ゲノム解析およびトランスクリプトーム解析により、PD-1阻害剤に反応を示さなかった患者においてPTEN変異量の有意な増大(PTEN変異は、免疫抑制的発現シグニチャーに関連する)が明らかとなった。また、反応を示した患者においてPTPN11および BRAF(つまりMAPK経路における変化)の増大が明らかとなった。
また、PD-1阻害剤に反応を示した腫瘍は、新規エピトープの消失による進化パターンの枝分かれ、T細胞クローン多様性の増大、および腫瘍微小環境プロフィールの多様性が見受けられた。
研究チームは、「膠芽腫の抗PD-1免疫療法に対する臨床反応性は、特定の分子変異、免疫発現シグニチャー、および免疫細胞の浸潤に関連し、それらは治療中の腫瘍クローン進化を反映する物である」との結論を示した。
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