次世代シーケンシングにより小児脳腫瘍患者の診断が変化

カリフォルニア大学サンフランシスコ校

UCSFの研究により、プロファイリングで父親および母親自身の他のがんリスクについての手がかりも提供されることが示された

UCSF Medical Centerにて、次世代シーケンシングにより何人かの小児の脳腫瘍診断に変更が加えられ、多くの患者で治療計画が一新されている。シーケンシングはまた、一部の患者の親に対しても、一見無関係な他のがんへの易罹患性について重要な情報も提供している。

2016年11月14日にNeuro-Oncology誌にて公表された画期的な研究において、UCSFの臨床研究担当医師は高悪性度、治療抵抗性あるいは特徴が不明瞭な脳腫瘍を有する小児患者31人の脳組織および血液サンプルについて510のがん関連遺伝子シーケンシング結果を記録した。

シーケンシングを実施したのはUCSF Clinical Cancer Genomics Laboratoryで、ここはシーケンシングを実施している世界的にも少数の病院施設のうちの1つであり、腫瘍を臨床的にプロファイルし患者の正常組織と比較することで、腫瘍の成長を活発化させる変異を特定し、標的治療へとマッチングさせる。

米国疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention)によると、脳腫瘍は現在小児がんの死因第1位である。小児期のがんでは最も患者が多い白血病の死亡率は減少しているのに対し、脳腫瘍による小児の死亡は1999年からわずかに増加している。

本研究において、臨床研究担当医師は病理学者の顕微鏡的所見(細胞形態学、細胞分裂率および腫瘍浸潤性といった特徴について検討)に基づいた初回診断と、脳腫瘍の遺伝学専門の分子病理学者によって特定された遺伝子変異を比較した。

異なった診断が下された6人

31人のうち25人においてシーケンシングにより病理学的報告が確認されたのに対し、残りの6人では遺伝学所見の結果により診断が変更された。特筆すべき患者として、腫瘍が「高悪性度の浸潤性腫瘍が示唆される」画像上の特徴を有する「中悪性度」に分類され積極的治療が行われたが、シーケンシングにより腫瘍は悪性ではないことが判明し、再発の可能性が低いことから化学療法が中止された9歳女児例が挙げられる。

「このprecision medicineの時代において、我々は診断と治療のパラダイムの変革を行っている。ゲノムプロファイリングが顕微鏡で組織を観察する病理学者の役割に取って代わるとは考えていない。我々がUCSF500 Cancer Gene Panelを用いて達成しようとしているのは、顕微鏡下で観察された組織学的特徴とゲノムプロファイリングの結果を統合し、小児脳腫瘍患者にとって最も正確な診断を提供することだ」(UCSF医療センター病理学研究科助教・上席および責任著者David Solomon MD, PhD)。

31人中19人において、臨床研究担当医師らは既存の標的治療で対応しうる遺伝子の変異を特定した。標的治療は、がん細胞とがん細胞でない細胞を無差別に攻撃する化学療法よりも毒性が低い。変異は腫瘍に特異的な非遺伝性の体細胞変異と、小児がんに関連し、末梢血で特定され身体のあらゆる細胞で発見される生殖系列変異を含む。

変異の数が少ないことが標的治療の希望となる

成人の腫瘍は通常多数の変異があるのに対し、小児患者の腫瘍では変異はたった1つか2つしかないとされる。

「小児の腫瘍は遺伝子変異がきわめて少ないため、小児では標的治療がより効果的となる見込みがある」(Solomon氏)。

「我々は現在UCSF500 Cancer Gene Panelを用いて、小児脳腫瘍患者60人のシーケンシングを行っている。この患者集団は特に興味深く、また回復が期待できる。UCSFは、連携して正しい診断を下し、腫瘍遺伝子を決定し、患者を臨床試験に組み入れるか標的治療を行うか選択できる世界的に著名な神経病理学および神経腫瘍学グループを有している」(UCSF病理学研究科助教・UCSF500 Cancer Panelの臨床使用について実証した筆頭著者Nancy Joseph MD, PhD)。

「変異の種類および変異が腫瘍内でどれほど広がっているかに基づいて、分子病理学者は変異が腫瘍の成長を促しているか否か教示してくれる」(UCSF Benioff Children’s Hospital San Francisco小児科・神経外科助教、共同責任著者Theodore Nicolaides MD)。

血液脳関門の要因

「ドライバー変異が他の腫瘍タイプにおける特定の薬剤に対する反応を示し、血液脳関門を通過するエビデンスがあれば、その薬剤には治療成功のチャンスがあると感じる。しかし、これらの結果はごく少数の患者からもたらされたものであり、注意深く解釈しなければならない」(Nicolaides氏)。

UCSF Benioff Children’s Hospital San Franciscoの小児血液学・腫瘍学の臨床フェローで共同筆頭著者のCassie Kline MDは、シーケンシングの主な恩恵の1つは生殖系列変異の特定で、それには子宮内で精子および卵子から伝えられる非遺伝性変異と、患者の両親から受け継がれ、それによって他の小児の発がんリスクや両親の成人発症がんのリスク上昇も判明する可能性がある変異も含まれると述べた。

「あるがん素因の症候群の発見により、我々は例えば生殖系列TP53変異を有する患者に対する放射線治療のような、リスクがベネフィットを上回る治療法をより上手く避けることが出来る。少なくとも、それらによって我々は治療法決定に対してより慎重になる」(Kline氏)。

研究者の手により、31人のうち11人が生殖系列変異を有していることが発見された。それらの変異のうち、最もよく見られる小児脳腫瘍の1つである髄芽腫を有する5歳の患者でPALB2変異が特定された。この遺伝子変異は成人の乳がん、卵巣がんおよび膵臓がんのリスクを上昇させるものとして認識されてきた。そして、この変異は母方および父方の乳がんの既往歴と一致し、この家族はUCSF Cancer Risk Clinicを紹介受診することとなった。

「我々は、これほど多くの子ども達が病因となる生殖系列変異を有していることに驚きました。これのよい点は、いったん家族が増大したリスクを自覚すると、自分たちのリスクを管理する最良の方法を学ぶことが出来る遺伝子カウンセリングを受けられるという」(Solomon氏)。

UCSF Clinical Cancer Genomics Laboratoryは2015年から小児および成人がんの次世代シーケンシングを実施している。

今後の研究では、シーケンシングを実施した小児脳腫瘍患者の転帰を観察する。

本研究の共著者は以下のとおりである:James Grenert, MD, PhD; Jessica van Ziffle, PhD; Eric Talevich, PhD; Courtney Onodera, PhD; Mariam Aboian, MD, PhD; Soonmee Cha, MD; David Raleigh, MD, PhD; Steve Braunstein, MD, PhD; Michelle Bloomer, MD; Alejandra de Alba Campomanes, MD; Anuradha Banerjee, MD; Nicholas Butowski, MD; Corey Raffel, MD, PhD; Tarik Tihan, MD, PhD; Andrew Bollen, MD, DVM; Joanna Phillips, MD, PhD; Michael Korn, MD; Iwei Yeh, MD, PhD; Boris Bastian, MD, PhD; Nalin Gupta, MD, PhD; Sabine Mueller, MD, PhD; and Arie Perry, MD, all of UCSF; Joseph Torkildson, MD, of UCSF Benioff Children’s Hospital Oakland, Calif.; and David Samuel, MD, of Valley Children’s Hospital, Madera, Calif。

翻訳担当者 柏崎末久

監修 林 正樹(血液・腫瘍内科/社会医療法人敬愛会中頭病院)

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