小児脳腫瘍に対する分子標的薬アバプリチニブの可能性

ダナファーバー/ボストン小児がん・血液疾患センターのphysician scientist(医師兼科学者)らを中心とした臨床提携機関による国際チームは、高悪性度神経膠腫の小児および若年患者を対象とした分子標的治療薬アバプリチニブの初の臨床試験を行った。アバプリチニブは、すでに他のがん種の成人患者を対象として米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けているが、今回の研究により、基本的に安全であること、7人中3人の患者で脳スキャンによる腫瘍縮小と臨床的改善が認められたことが明らかになった。研究はCancer Cell誌に掲載された。

小児の高悪性度神経膠腫は現在、治癒の見込みがない脳腫瘍であり、初診後の生存期間中央値は18カ月未満である。

血小板由来増殖因子α(PDGFRA)は、一部の小児高悪性度神経膠腫で過剰に発現し、がん細胞の制御不能な増殖をもたらすが、アバプリチニブはそのPDGFRAを標的として、血液脳関門を通過する低分子化合物である。研究チームは現在、より多くの患者集団でアバプリチニブを評価するため、PDGFRA遺伝子変異のある高悪性度神経膠腫の初発の小児患者を対象として臨床試験を計画中である。

「現在、有効な分子標的治療の選択肢がないきわめて悪性度の高い疾患に対し、経口低分子阻害薬による単剤療法後にほとんどが再発か高度治療抵抗性を示した集団において、画像と臨床症状で奏効を確認できたことは画期的です」と、筆頭著者であるMariella Filbin医学博士(Jan Paradise Chair in Brain Cancer Research、ダナファーバー/ボストン小児がん血液疾患センター・脳腫瘍センターオブエクセレンス共同ディレクター、ダナファーバーがん研究所小児神経腫瘍学プログラム研究ディレクター)は言う。

Filbin氏の研究チームは、小児高悪性度神経膠腫患者の約15%で遺伝子変異によるPDGFRA活性化がみられ、通常手術と放射線で治療されるこの疾患の悪性度が高いことはそのためであることを初めて突き止めた。

高悪性度神経膠腫においてPDGFRAを標的とする過去の研究は成果を上げなかったが、それは使用薬剤の薬物動態および薬力学の特性が最適でなかったのが原因だと思われる。アバプリチニブは、高い腫瘍選択性と脳浸透性がある次世代型PDGFRA阻害薬である。非臨床研究で、Filbin氏らは、アバプリチニブが患者由来の腫瘍および動物モデルで腫瘍の成長を抑制することを発見した。この結果から、ミシガン大学およびウィーン医科大学の臨床パートナーと協力し、コンパッショネートユースプログラムを通じて、PDGFRA遺伝子変異のある少数の高悪性度神経膠腫患者に対してアバプリチニブによる治療を行った。

「私たちの科学的研究が、迅速に臨床に応用され、直接患者さんに役立つことがわかり、本当に素晴らしいです」と、Filbin氏の研究室の共同筆頭著者であるSina Neyazi医師は言う。「この発見は、私たち臨床共同研究者の努力と、患者さんとそのご家族からの大きな信頼によって可能となりました」

次の段階としてFilbin氏のチームは、腫瘍のどのような遺伝子変異がアバプリチニブの効果予測因子であるかを調べ、個別化治療の開発を目指す予定である。さらに、治療効果を最大化し、治療抵抗性を抑制する他のFDA承認薬剤との併用療法を開発中である。

「医師として、標準治療を行ったにもかかわらず子供の腫瘍が再発したことを家族に伝えるのは心が痛みます」とFilbin氏は言う。「脳浸透性PDGFRA阻害剤であるアバプリチニブに関する私たちの最新の研究結果は、PDGFRAの遺伝子変異のある患者さんにとって喜ばしく、アバプリチニブを用いた革新的な併用療法の開発に道を開くものと期待します」

資金提供情報は、原文を参照。

  • 監修 夏目敦至(脳神経外科/河村病院)
  • 記事担当者 平沢沙枝
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  • 原文掲載日 2025/03/20

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