実験的なCAR-T細胞療法で小児らの致命的な脳腫瘍が縮小

小規模な臨床試験において、CAR-T細胞療法(患者自身の免疫細胞を使ってがんと闘う免疫療法の一種)により、びまん性正中神経膠腫を患う数人の小児および若年成人の腫瘍が縮小した。この急速に進行する脳および脊髄のがんは、通常、診断後1年以内に死に至る。

この試験では、治療を受けてから2年以上経っても生存していた参加者が数人いた。

試験に参加した患者は、H3K27M変異として知られるびまん性正中神経膠腫の一種を患っており、この遺伝子変異は、このがんを患う若年患者の約80%にみられる。この研究を主導したスタンフォード大学の研究者らは、H3K27M変異びまん性正中神経膠腫によって大量に生成されるGD2と呼ばれる分子を標的とする実験的CAR-T細胞療法を設計した。

進行中の臨床試験の結果は11月13日にNature誌に掲載された。

「この研究は新境地を拓くものです」と、スタンフォード大学医学部の共同研究者Crystal L. Mackall医師は言う。「CAR-T細胞が固形がんに実際に意味のある効果をもたらす可能性があることを実証しており、これまで多くの人が[可能だと]信じていなかったことです」。

この試験では、GD2 CAR-T細胞療法を受けた11人の患者のうち9人に神経学的改善がみられた。そのうち7人には腫瘍の縮小がみられ、なかにはその効果が非常に劇的であった患者もいた。腫瘍が縮小するにつれて患者の症状は改善し、多くの人が聴覚、歩行、味覚など、この疾患で失った身体機能を取り戻した。

参加者は治療後、平均で約2年間生存し、2人の患者は研究の2.5年間の追跡期間を過ぎても生存していた。これらの患者のうち1人は腫瘍が完全に消失し、診断から4年経った現在も無がん状態が続いている。

「本当に驚くべきことです」と、NCIがん研究センターのRosandra N. Kaplan医師は話す。同医師も別のGD2 CAR-T細胞療法の臨床試験を実施しているが、今回の研究には関わっていない。「これは、これまで何も効かなかった腫瘍です。これは、こうした患者の治療方法解明における革命の始まりだと思います」。

偶然のコラボレーション

びまん性正中神経膠腫は、脳幹のがんの一種であるびまん性内在性橋神経膠腫(DIPG)を含み、呼吸や心拍数などの生命維持機能を制御する脳の領域に位置するため、手術で除去することは難しい。化学療法と放射線療法では、症状を一時的に緩和することしかできない。H3K27M変異びまん性正中神経膠腫は極めてまれであり、ほぼ例外なく致命的である。

「これらの腫瘍に対する治療はほとんど進歩していない」とMackall医師は言う。症状を抑えるための放射線治療が唯一の標準治療とのことである。

「これらの患者は余命が短いだけでなく、からだの重要な機能の多くが徐々に失われていくため、診断された日から状態は悪化の一途をたどります」と同医師は言う。

CAR-T細胞療法では、患者から免疫細胞を採取し、その表面に受容体(CAR) を生成するように改変し、がん細胞に付着して攻撃できるようにする。これらのがんと闘う免疫細胞軍ががん細胞を探し出して殺すことを期待して、T細胞を数百万個に増やしたあと患者に戻される。

血液腫瘍の治療には複数のCAR-T細胞療法が承認されているが、脳腫瘍などの固形腫瘍ではこのアプローチはより困難である。その理由の一つは、固形腫瘍の表面にある標的分子が健康な細胞にも存在するからである。

しかし、同じくスタンフォード大学医学部のMichelle Monje医学博士が主導した先行研究で、びまん性正中神経膠腫細胞は、通常の脳細胞では非常に低いレベルで生成される分子GD2を高レベルで生成することが判明した。同じ頃、Mackall医師は、神経芽腫と骨肉腫という2つの他種がん患者の腫瘍にGD2が豊富に存在することを示す研究に基づいて、GD2を標的とするCAR-T細胞療法を開発し試験を開始していた。

「これはまさに科学における偶然の一致でした」と、Mackall医師は彼らの協働について語った。

同医師らとスタンフォード大学の研究者は、GD2 CAR-T細胞療法が脳にうまく入り込み、びまん性正中神経膠腫のマウスモデルで腫瘍を完全に除去できることを示すため研究を進めた。

小規模な試験で驚くべき結果

GD2を標的としたCAR-T細胞療法に関する今回の初のヒト研究では、DIPG または脊髄びまん性正中神経膠腫を患う小児・若年成人患者11人に、2種類の異なる用量のどちらかでGD2 CAR-T細胞を静脈内注入した。低用量では炎症があまり起こらないことがわかり、今後、より大規模な臨床試験で使用される予定である。

血液腫瘍に承認されているCAR-T細胞療法は1回限りの治療だが、スタンフォード大学チームはこの試験で異なるアプローチを採用した。

初回の静脈投与で効果があった9人の患者全員が、GD2 CAR-T細胞の追加注入を受けた。2回目以降は、治療薬を静脈に注入するのではなく、特殊なカテーテルを通して脳に直接投与された。患者は疾患が安定している限り、1~3カ月ごとに治療を受けた。

治験分担研究者らが追加投与をこの方法で行うことを選んだのは、マウスを使った先行研究で、脳に直接治療薬を投与すると、血流を通して投与するよりも炎症が少なく、がん細胞を殺す効果が高いことが示されていたためだと説明した。

1回目の治療から2.5年の追跡期間の後、当初治療に反応を示した9人の患者のうち4人の腫瘍が半分以上縮小し、そのうち1人の患者では腫瘍が完全に消失し(完全奏効)、再発もしていない。

9人の患者全員の神経障害は改善し、一部の患者は歩行能力、聴覚、味覚を取り戻した。

「私たちの病院に来た時には、歩くことができず完全に車椅子生活だった患者さんがいました。[治療後]杖を使えば長い距離を歩けるまでになりました」とMackall医師は言う。「彼女のがんは最終的に再発しましたが、1年半の間、以前よりずっと歩けるようになりました。これは何にも代えがたいことです。本当に状況を好転させることができるという希望になっています」。

治療の副作用には、頭痛、発熱、脳内の体液貯留など、脳幹や脊髄の腫瘍の炎症でよくみられる神経学的問題が含まれる。研究者らは、これらの副作用などは標準的な治療法やアプローチで管理できると説明した。

治療への反応の改善

Kaplan医師は、なぜ一部の患者が他の患者よりも治療によく反応したのか理解することが重要だと述べた。

「これらの患者には全員同じ [GD2] 標的がありましたが、全員が反応したわけではありません。つまり、[反応は] 標的だけの問題ではないということです」とKaplan医師は述べた。次のステップは、腫瘍周辺の微小環境の他の要素が治療効果にどのように影響するかを理解し、その情報を利用して治療に対する全体的な免疫反応と反応期間を改善する方法を見つけることである。

スタンフォードの臨床試験は現在も進行中で、追加の患者グループにはすべての治療を脳に直接投与し、静脈から投与していない。患者の一部では、CAR-T細胞治療を受ける前に化学療法を行わない。通常、この「リンパ球除去」化学療法は、注入されたT細胞を拒絶するかもしれない白血球を除去するために行われる。

Mackall医師らは最終的には、スタンフォード以外の医療機関の患者も登録して、より大規模な第2相試験を開始する予定である。

一方、Kaplan医師は、GD2を高レベルで発現している神経芽腫と骨肉腫の患者を対象に、 同じCAR-T細胞療法を評価する臨床試験を実施している。

これらの研究から得られた知見は、固形腫瘍に対する他のCAR T細胞療法の改善に役立つだろうとKaplan医師は話し、そのうちのいくつかはすでに臨床試験で検証されているという。例えば、ある試験では現在、びまん性正中神経膠腫の小児患者を対象として分子B7-H3を標的とするCAR-T細胞療法を検証中であり、別の試験では、脳腫瘍である神経膠芽腫の成人患者を対象としてB7-H3標的CAR-T細胞療法を検証している。

  • 監修 夏目敦至(脳神経外科/河村病院)
  • 記事担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2025/01/02

この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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