OncoLog2013年8月号◆In Brief「ベバシズマブが有益である膠芽腫患者を特定する新たな検査」「EGFRが活性化した癌に対する新標的を特定」

MDアンダーソン OncoLog 2013年8月号(Volume 58 / Number 8)

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新しい検査はベバシズマブが有益である膠芽腫患者を特定するのに役立つ

最近の試験によれば、間葉系細胞に関連する遺伝子発現が低レベルである膠芽腫は、他の膠芽腫よりベバシズマブに感受性である可能性がある。

第3相臨床試験の一部として実施された附随研究で、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの放射線腫瘍学部門の助教であるErik Sulman医学博士を筆頭とする研究者らは、膠芽腫のベバシズマブ感受性の分子マーカーの特定を試みた。

膠芽腫は最も多く、治療することが難しい脳腫瘍のひとつである。膠芽腫は多くが非常に侵襲性であり、再発のリスクが高いが、腫瘍発生および再発のメカニズムはまだほとんど解明されていない。その結果、かなりの努力にもかかわらず、治療法は限られている。

腫瘍増殖および血管新生に関する分泌タンパク質である血管内皮成長因子を、ベバシズマブは特異的に標的とする。特定の膠芽腫再発患者はベバシズマブ治療に良く反応し、大部分の膠芽腫患者より無増悪生存期間が長く、症状が軽減することが以前から知られている。このことにより、初発膠芽腫患者に対してベバシズマブによる治療を評価する多施設共同第3相臨床試験(RTOG-0825)が開始された。

Sulman博士らは、どの患者にベバシズマブが最も奏効しそうかを医師が特定出来る、有望な分子マーカーを探した。間葉系細胞に関連するいくつかの遺伝子発現が低レベルである膠芽腫は他の膠芽腫よりベバシズマブが良く奏効することを研究者は見出した。研究者はベバシズマブの奏効を予測するテストを確立するためにこの情報を用いた。

「この予測因子に関して重要なことのひとつに、保存組織標本を用いて行われることが想定されていて、新鮮な組織を必要としないことがあります」と、Sulman博士は述べた。多くの膠芽腫患者にとって、手術による切除は最初の治療であり、得られる組織はパラフィン固定標本として通常、保存されていることから、この検査は広く用いられるようになる可能性がある。

この研究結果は6月の米国臨床腫瘍学会の年次総会で発表された。将来、さらなる膠芽腫患者で予測検査を実証し、他の腫瘍へ一般化出来るかどうか評価することを、Sulman博士らは望んでいる。この方法はベバシズマブ治療が奏効する患者を特定するのに役立つであろう。

EGFRが活性化した癌に対する有望な新標的を特定

制癌剤の良く知られている標的である上皮成長因子受容体(EGFR)は、DNA複製の最初の段階に不可欠なタンパクであるMCM7を制御する、とテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者ら主導のチームが報告した。

MCM7はDNA複製の最初の段階であるDNAライセンシングで重要である。MCM7の機能(しばしばヒトの癌では制御されてない)は以前、DNA合成および細胞増殖を誘導するEGFRシグナルと結びついていなかった。別のシグナル分子であるLynの活性化により、EGFRがMCM7を活性化することを研究者らは見出した。

「われわれは乳癌患者でこのシグナル経路が、EGFRの状態および短い生存期間と関連していることを確証しました」と、分子・細胞腫瘍学部門の教授で部門長であり、本試験報告書の統括著者であるMien-Chie Hung博士は述べた。

研究者らは乳癌患者の腫瘍標本における活性化LynおよびMCM7の発現状態を評価し、カプランマイヤー法から、いずれかの活性化タンパク質が低発現の患者の全生存期間は、高発現の患者より有意に長いことを明らかにした。初回治療完了から75カ月後に、LynまたはMCM7発現が高レベルの患者の約60%が生存し、一方、低レベルの患者の80%以上が生存であった。

乳癌のマウスモデルで、LynまたはMCM7のいずれかが高発現しているマウスの腫瘍は、低発現のマウスの腫瘍に比べて2~3倍大きいことを研究者らは見出した。

「EGFRシグナルに増殖が依存する癌細胞において、Lynの過剰発現は必須であるかもしれません」と、Hung博士は述べた。このことはEGFR活性化癌で、Lynが有望な治療標的であることを示唆している。EGFRを標的とする薬剤は、しばしば効果が時間経過と共に減弱してしまうが、LynはEGFRの下流にあり,有効な標的となりうる、とHung博士はコメントした。

Lyn阻害剤は前臨床および初期段階の臨床試験で評価された。EGFRにより誘導された癌に、LynおよびEGFR阻害剤を併用することにより、相乗作用があった。

この試験の結果はCancer Cell誌6月号に発表された。

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翻訳担当者 木下秀文

監修 西川 亮 (脳・脊髄腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター)

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