ボラシデニブはIDH変異陽性グレード2神経膠腫の病勢進行や死亡を遅延

米国臨床腫瘍学会(ASCO2023)

ASCOの見解

「本試験は、特に若年層における低悪性度神経膠腫(グリオーマ)に対する現行治療法による長期的な障害を最小限に抑えるというボラシデニブの大きな利点を明らかにし、この疾患の治療に革命をもたらす可能性があります」と、FASCO、ASCO専門家のGlenn Lesser医師は述べた。

変異型IDH 1/2酵素の経口二重阻害薬であるボラシデニブ[Vorasidenib]は、長期予後の悪い悪性脳腫瘍の一種であるグレード2の神経膠腫患者の無増悪生存期間を有意に改善した。この治療法は疾患の進行を遅らせ、忍容性も良好であった。これらの知見は、IDH変異を伴うグレード2神経膠腫の治療における重要な一歩である。この研究は、2023年の米国臨床腫瘍学会 (ASCO) 年次総会で発表される予定である。

試験要旨

目的経口、脳浸透性の変異型IDH 1/2酵素二重阻害薬であるボラシデニブをグレード2神経膠腫の治療薬として評価
対象者手術を受けたが他の治療を受けていない、IDH変異を有するグレード2神経膠腫 (乏突起膠腫または星細胞腫) を有する10カ国の適格患者331人(16~71歳)
結果・ボラシデニブは無増悪生存期間を改善(中央値27.2カ月、プラセボは11.1カ月)および次の治療までの期間を遅延させた(しかし、次の治療までの期間中央値は未到達、プラセボは17.4カ月)。
・副作用は、疲労、頭痛、下痢、吐き気、COVID-19、可逆的な肝臓アラニントランスアミナーゼ(AST、ALT)上昇などであった。
・グレード3以上の有害事象で最も多かったのは肝酵素アラニンアミノトランスフェラーゼの上昇で、ボラシデニブ投与群の9.6%に認められた。
・全ての患者サブグループで有効性が認められた。
意義ボラシデニブは忍容性が高く有効な治療法であり、現行治療法による長期的な障害を遅延させる可能性がある。このボラシデニブが承認されれば、低悪性度神経膠腫に対する新たな標的療法となる可能性がある。

主な知見

第3相INDIGO試験で示されたように、IDH変異を伴うグレード2神経膠腫の患者において、ボラシデニブ治療は無増悪生存期間の有意な改善(中央値27.7カ月、プラセボ11.1カ月)を示し、次の治療までの期間を遅延させた(次の治療までの期間中央値は未到達、プラセボ17.4カ月)。ボラシデニブは管理可能な安全性プロファイルで忍容性があり、プラセボ群と治療群の両方で副作用が報告された。治療群では有害事象(疲労、頭痛、下痢、吐き気、COVID-19、可逆性肝トランスアミナーゼ上昇)が認められたが、そのほとんどは管理可能であり、適切な医療処置により回復した。グレード3以上の有害事象で最も多かったのは肝酵素アラニンアミノトランスフェラーゼの上昇で、ボラシデニブ群の9.6%に認められた。

「今回の試験では、ボラシデニブを用いてIDH変異を標的とすることで、腫瘍の増殖とより毒性の高い治療法の必要性を有意に遅延させることが示されています。IDH変異を伴うグレード2神経膠腫と診断された患者は概して若く、それ以外は健康な人であるため、これは臨床的に意味があります。この試験の結果は、この種の神経膠腫の治療パラダイムを変える機会を提供し、低悪性度神経膠腫に対する最初の新しい標的療法をもたらす可能性があります」と、筆頭著者であるスローンケタリング記念がんセンター、FACPのIngo Mellinghoff医師は述べた。

試験について

この国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照第3相試験は、10か国からIDH変異とグレード2神経膠腫を有する適格患者331人(16〜71歳)を組み入れた。患者は、ボラシデニブ群168人、プラセボ群163人に無作為に割り付け、ボラシデニブまたはプラセボを28日サイクルで毎日経口投与を行った。主要評価項目は頭部MRIの中央判定を基にした無増悪生存期間であった。主要な副次的評価項目は次の治療までの期間であった。プラセボからボラシデニブへのクロスオーバーは、画像を基にした病勢進行の確認がされた場合に許可をした。

次のステップ

現在進行中のグレード2/3の神経膠腫を対象とした第1相試験では、ボラシデニブはペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)との併用で評価中である。さらに、低悪性度神経膠腫および高悪性度神経膠腫の両方に対する合理的な併用療法の取り組みが検討されている。

本試験は、Servier Pharmaceuticals社からの資金提供を受けた。

  • 監訳 野長瀬祥兼(腫瘍内科/市立岸和田市民病院)
  • 翻訳担当者 三宅久美子
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  • 原文掲載日 2023/06/04

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