ニロガセスタットは希少軟部腫瘍であるデスモイド腫瘍の予後を改善【ESMO2022】
- ・Notch経路を標的とした初の第3相試験により、まれな腫瘍の予後が改善
- ・Notchを標的とするガンマセクレターゼ阻害剤であるnirogacestat[ニロガセスタット]は、デスモイド腫瘍患者の無増悪生存期間を延長し、症状を軽減
- ・希少がんの厳密な第3相ランダム化比較試験を設計することは、患者の転帰とQOLの向上に必須
良性だが局所的に侵襲性が高く浸潤性のある軟部腫瘍であるデスモイド腫瘍患者への新しい治療法によって、無増悪生存期間と奏効率の大幅な改善、症状の軽減、生活の質(QOL)の向上という成果がみとめられた。DeFi試験の研究者らは、新規のガンマセクレターゼ阻害剤であるニロガセスタットを用いてNotch経路を標的とすることにより、この治療法で初めて有効な結果を得た。この結果は欧州臨床腫瘍学会(ESMO)2022年大会で報告される(1)。
デスモイド腫瘍はまれな腫瘍で、発症するのは世界で毎年100万人あたり3〜5例である(2,3)。この軟部腫瘍は経過が予測できず、死に至ることは通常ないものの、患者のQOLを大きく損なう症状を引き起こすことがある。「デスモイド腫瘍は、局所的かつ侵襲的に増殖するため、患者にとって大きな苦痛となる痛み、醜形、機能障害が起きる可能性があります」と筆頭著者であるドイツのマンハイムがんセンター(Mannheim Cancer Center)のBernd Kasper氏は語る。
世界各地37カ所の施設で募集した進行デスモイド腫瘍患者142人がDeFi試験に参加した。「この試験は、この種の腫瘍で実施した最大かつ最も厳密なランダム化比較試験です」とKasper氏は説明する。「ニロガセスタットに無作為に割り付けられた患者群の無増悪生存期間は、プラセボ群と比較して統計学的に有意に改善し、疾患進行のリスクが平均71%減少したという結果を示しました」。奏効率もはるかに高く、ニロガセスタット群では41%、プラセボ群ではわずか8%であり、ほぼ10人に1人(7%)の患者が完全奏効を示した。
デスモイド腫瘍はQOLに大きな影響を与えるため、DeFi試験で患者報告アウトカムを測定した。「痛みや症状の軽減、身体機能や日常役割機能および健康関連QOLの向上において統計学的に有意な効果が確認され、非常に素晴らしいです」とKasper氏は語る。「治療の際は、腫瘍の局所制御を最適化し、症状の負担を軽減するよう努力していますが、これまでにデスモイド腫瘍の治療法として承認されたものはありませんでした。この試験によりデスモイド腫瘍患者の治療薬が初めて登録されることになる可能性があります」。
「DeFi試験は独特な試験であり、多くの面で非常に重要です」とDeFi試験に参加していないフランスのリヨンがんセンター(Cancer Center of Lyon)のJean-Yves Blay氏は語る。「この結果は、現在、治療法の選択肢が限られている患者において、新しい作用機序を持つ新規治療薬が有効であることを初めて示しています」。Notchシグナル伝達経路は多くの種類の腫瘍の発生と進行に関与している。
「この試験成果は診療に変化をもたらします」とBlay氏は付け加えた。「ニロガセスタットをデスモイド腫瘍患者の治療薬として使用する予定ですが、その治療薬をどのように使用するのが最良なのかを考えだす必要があります」とBlay氏は予測する。解決すべき問題は、どの患者にこの治療法を提供すべきか、現在の治療法との関連はどこにあるか、治療に反応した人をどのように特定するか、最適な治療期間はどれくらいかなどである。DeFi試験には腫瘍が進行性である患者が参加したが、Blay氏とKasper氏は痛みや機能障害を伴う患者にもニロガセスタットを検討することが可能であると語る。
「DeFi試験は非常に洗練された試験であったため、多国籍の拠点施設から患者を募集することにより、薬剤の活性を調査する最高品質の臨床試験である大規模プラセボ比較試験を希少がんに対して実施する可能性を示し、また臨床試験を設計する際に適切な患者に適切な薬剤を投与することの重要性を実証しました」とBlay氏は付け加えた。
「腫瘍が進行性である(腫瘍体積が増大する)患者がDeFi試験に参加しており、治療が必要な患者を選択するための測定可能な方法が提供されました」。また、「この試験の成功により、希少がん患者を拠点施設に紹介するという概念がさらに強調され、その拠点施設で希少疾患の患者に新しい治療法を提供する可能性のある臨床試験が記録的な速さで遂行されます」とBlay氏は付け加えた。拠点施設を紹介されたがん患者の数は増加しているが、地域によりさらに良くなる可能性があり、希少がん患者の見通しは改善されつつある(4)。
参考文献:
- LBA2 ‘DeFi: a phase 3, randomized controlled trial of nirogacestat versus placebo for progressing desmoid tumours (DT)’ will be presented by Bernd Kasper during Presidential Symposium 1 on Saturday, 10 September, 16:30 to 18:00 CEST in Paris Auditorium. Annals of Oncology, Volume 33 Supplement 7, September 2022
- Orphanet. Prevalence and incidence of rare diseases: Bibliographic data. Orphanet Report Series, Rare Diseases Collection. Orphanet; Number 1, January 2022. [accessed 23 August 2022]
- Kasper B, Baumgarten C, Garcia J, et al. An update on the management of sporadic desmoid-type fibromatosis: a European Consensus Initiative between Sarcoma PAtients EuroNet (SPAEN) and European Organization for Research and Treatment of Cancer (EORTC)/Soft Tissue and Bone Sarcoma Group (STBSG). Ann Oncol. 2017;28(10):2399-2408.
- The campaign Rare Cancers Europe, developed by ESMO in collaboration with major European stakeholders in rare cancers and rare diseases, is working to address the challenges and develop solutions to eliminate the hurdles faced by patients with rare cancers, healthcare professionals and researchers working in this field.
監訳:遠藤 誠(肉腫、骨軟部腫瘍/九州大学病院)
翻訳担当者 松長愛美
原文掲載日
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