パゾパニブが小児および成人の軟部肉腫に有望
進行した軟部肉腫の患者の大半に行なう標準治療には、腫瘍切除手術の前に行なう放射線治療と、場合によっては化学療法がある。その目的は手術前に腫瘍を可能な限り多く死滅させることであり、これにより外科医は腫瘍の全部または大部分を安全に切除することができ、原発腫瘍から抜け出た可能性のあるがん細胞を殺すこともできる。
今回、ある臨床試験の初期結果から、進行した軟部肉腫の小児および成人に対して、化学療法と放射線治療に分子標的薬パゾパニブ(ヴォトリエント)を追加することが安全であり、手術前に腫瘍の大部分が死滅する可能性を高めることがわかった。
手術前に腫瘍をほぼ死滅させることで、患者の長期的な治療成績も向上すると考えられるが証明はされていない、と本試験の責任医師であるAaron Weiss医師(メイン州ポートランド、メイン医療センター)は言う。
Lancet Oncology誌に7月20日に発表されたこの最新知見は、まだ予備段階ではあるが「非常に有望なものである」と、本試験には関与していないChristine Heske医師(米国国立がん研究所[NCI])のがん研究センター小児腫瘍学部門)は述べる。「このような治療初期の腫瘍縮小効果が、同疾患患者の生存利益向上につながるかどうかをみきわめることが重要になるでしょう」。
コロラド大学がんセンターの腫瘍内科医であるBreelyn Wilky医師は、「これは進行性軟部肉腫患者の標準治療を変えようとする重要な研究です」と言う。Wilky医師は前職のマイアミ大学でこの臨床試験の責任医師を務めていた。
NCI資金を受けた本臨床試験は、小児、青年、成人を対象としていたことも注目すべき点であり、これによってこの希少がんの臨床試験で通常登録される患者数よりも多くの患者で研究を行なうことができた、とWilky医師とHeske医師は述べた。
本試験は、NCIの全米臨床試験ネットワーク(National Clinical Trials Network)の一部である、小児がんを研究する小児がん研究グループ(Children’s Oncology Group)と、成人がんを研究するNRGがん研究(NRG Oncology)という2つの大規模な臨床試験グループの共同により策定、遂行された。
この共同研究は「軟部肉腫や他の希少がんを研究するモデルになる可能性があり」、思春期および若年成人を含む幅広い年齢層に影響を及ぼすとHeske医師は述べている。
大きい腫瘍の切除手術はリスクを伴う可能性
軟部肉腫は、筋肉、腱、リンパ管、関節周囲の組織など、体の軟部組織にできる約100種類のがんの総称である。腫瘍は全身のどこにでもできるが、腕、脚、胸部、および腹部にできることが多い。
これらのがんは、毎年診断される新規がん症例の1%に満たない。
進行した大きな軟部肉腫を切除する手術は、小さな腫瘍を切除する手術よりも困難であることが多く、腫瘍の部位によっては血管や神経のような重要器官に近い場合など、リスクを伴うことがあるとWilky医師は言う。
通常、外科医は腫瘍の完全切除を目指しており、腫瘍の周囲1~2cmの正常組織も含めて切除することで「確実に全部取りきる」ようにしている、とWilky医師は言う。「しかし、それが安全にできない場合の次善策は、手術後に残る腫瘍の辺縁部が壊死していることを確認すること、そしてできれば、それ以上拡がったり、がんが再発しないようにすることです」。
この新規研究に参加した患者は、腫瘍が大きく、悪性度が高く、当初から手術を受けられない患者であった。患者の中には、がんが原発腫瘍部位から転移していた患者もいた。
パゾパニブは錠剤で服用される薬で、化学療法治療歴のある軟部肉腫成人患者への単剤使用についてFDA 承認を受けている。「しかし、本研究の策定時点では、パゾパニブを従来の治療法と併用することは軟部肉腫の成人患者または小児患者いずれに対しても安全であるかどうかわかっていませんでした」とWeiss医師は言う。
本研究には、米国とカナダの57の病院から、進行軟部肉腫の小児および成人81人が参加した。参加者は2歳以上で、年齢中央値は対照群で19歳、パゾパニブ群で25歳であった。すべての患者の軟部肉腫は、化学療法にある程度反応性があることが知られているタイプであった。
患者は、軟部肉腫の治療に一般的に用いられるドキソルビシンとイホスファミドの併用化学療法および放射線療法を受ける群(対照群)、または同じ併用化学療法と放射線療法に加えてパゾパニブを毎日服用する群に無作為に割り付けられた。
参加者は治療開始から13週間後に手術を受けた。その後、病理医が切除された腫瘍組織を顕微鏡で調べ、治療後に死滅した腫瘍細胞の割合(病理学的奏効)を決定した。
明白な有益性により患者登録は早期中止
本試験は、手術時に腫瘍の90%以上が死滅していると定義される、病理学的完全奏効に近い奏効を示した患者の割合を各治療群で比較するよう設計されていた。
研究チームは患者100人を登録する予定であったが、パゾパニブと化学放射線療法の併用は化学放射線療法単独より有効性が高いことが明らかになったため、早期に登録を中止した。
結果を解析した時点でまだ研究対象であった患者42人のうち、パゾパニブ群では24人中14人(58%)、対照群では18人中4人(22%)が病理学的完全奏効に近い奏効を示した。
Wilky医師は、本試験の最も目覚ましい知見の一つは、標準的な化学療法へのパゾパニブ追加が安全性と副作用の観点で実施可能とされたことであると述べた。
重篤な副作用としては、白血球数の低下、入院を要する発熱、創部合併症などが最も多くみられた。これらの副作用は、パゾパニブを投与された患者でより多く発生し、パゾパニブ群患者の59%で本剤に関連した重篤な副作用が発生した。
長期的結果が待たれる
研究チームは、研究対象として残っていた患者を追跡調査し、高い病理学的奏効が長期予後の改善につながるかどうかを確認する予定であり、約4年後にその結果が出る見込みである。
しかし、研究対象として残っている患者数が比較的少ないこと、また、本研究が患者延命効果をみきわめるように設計されていないことから、明確な答えを引き出すのは難しいかもしれないとWeiss医師は述べている。
もう一つ考えられる限界は、各治療群の約半数を占める患者が滑膜肉腫という1種類の軟部肉腫であり、パゾパニブの有益性を試験参加患者全員が同様に得たかどうかは不明である点である、とHeske医師は指摘する。しかし彼女は続けて「別の種類の軟部肉腫のどれかについて単独で研究しようとすると、それらはあまりにもまれな疾患なので、臨床試験を行なう機会はないでしょう」と述べた。
残された疑問の一つは、本研究では取り上げられていないが、化学療法に反応しないとこれまで考えられていた種類の軟部肉腫において、パゾパニブが化学療法の効果を高めるかどうかである、とHeske医師は述べる。
また別の鍵となるのは、本研究の一環として計画されている追加研究で答えが導かれるかもしれないが、軟部肉腫の治療において「パゾパニブがどのように作用するのかという疑問で、まだよくわかっていません」とWilky医師は言う。
パゾパニブは分子標的治療と考えられているが、同薬剤は腫瘍に栄養を供給する新生血管の成長を阻害し、免疫系の働きに影響を与え、がん細胞同士の情報伝達に影響を与える、とWilky医師は続けた。
「パゾパニブの重要な標的は何か、肉腫にどのような条件があればこの薬が効果を発揮するのかを掘り下げて考えたことはありませんでした。もっと理解が深まれば、この薬をさらに正確な方法で使用することができるでしょう」。
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