骨軟部腫瘍の治療における免疫細胞の抑制

もともと人体に備わった能力を強めてがんと戦う免疫チェックポイント阻害剤などの免疫療法は、軟部組織や骨に発生するまれながんである肉腫の治療には、わずかな成功しかもたらしていない。ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの研究者が行った新しい研究では、その理由を探るために、これらのがんの腫瘍微小環境を明らかにした。

この研究は2020年6月16日にClinical Cancer Research誌オンライン版で公開された。

2種類の軟部組織がん、すなわち横紋筋肉腫と未分化多形肉腫(UPS)のヒト検体を調査した。この2種のがんは、遺伝的基盤と免疫療法への反応が異なる。研究者は、両方の腫瘍タイプが腫瘍関連マクロファージ(TAM)を多量に有することを発見した。TAMは腫瘍の発生と成長の促進に大きく関与し、腫瘍に対する適切な免疫応答を阻害する。さらに、両方の肉腫は、CD8+ Tリンパ球(CD8+ T細胞、別名「キラーT細胞」)の量が同程度であった。CD8+ Tリンパ球は、感染から体を守る免疫系細胞であり、がんと最前線で戦う兵士であると考えられている。

今回の研究では、CD8+ T細胞がどこに集まり、その抗腫瘍機能がTAMによってどのように阻害されているかが、2つの肉腫で異なることが発見された。

未分化多形肉腫では、腫瘍自体がTAMとCD8+ T細胞で満たされていることが分かった。腫瘍抗原による絶え間ない刺激により、CD8+細胞は大量のPD-1を産生する。PD-1は、最終的にT細胞の集団を疲弊させるタンパク質である。このPD-1産生が起こるとTAMが環境をコントロールし、がんに対する正常なT細胞の活性が抑制されると研究者は示唆している。

横紋筋肉腫では、CD8+ T細胞が三次リンパ組織様構造(TLS)と呼ばれる免疫細胞の小さな集合体の中にのみ存在していることが発見された。TLSは抗腫瘍免疫応答を開始する上で重要な役割を果たしており、免疫系ががん細胞を標的として認識する手助けをしていることが知られている。

「われわれの仮説は、TLS周囲のTAMにより、TLSに含まれるT細胞が周囲の腫瘍組織に展開するのを抑制されているというものです」と、本研究の上級著者であり、小児血液腫瘍医であるジョンズホプキンス大学医学部腫瘍学助教Nicolas Llosa医師は述べている。

Llosa医師は、本研究の結果が示す内容を以下のように述べている。未分化多形肉腫と横紋筋肉腫については、TAMを標的としてその活動を妨げ、次に腫瘍上のT細胞の活性を十分強力でがんと戦える状態に回復させることが、この疾患に対して良好な成果を得るための鍵となる可能性がある。

「われわれは、肉腫における免疫細胞の相互作用の詳細について、できるだけ多くのことを学ぼうとしています。われわれの研究対象は、新しい治療法を切実に必要としているごく少数の患者集団です。肉腫の治療法は、過去40年間で変わっていません」とLlosa医師は述べている。

免疫療法は一部の肉腫の治療では限定的な成果を示しているが、UPSと横紋筋肉腫では今のところ効果はない、と同氏は言う。

「免疫療法の成功は、がんを異物として認識して攻撃する免疫系の能力を基礎としており、その能力は遺伝的な特質、患者の状態や環境因子、腫瘍微小環境の構成に左右されます」とLlosa医師は述べている。「われわれは、これらの腫瘍を維持する免疫のニッチな性質と、またその性質がどのように免疫寛容をサポートするかを理解する必要があります。それらを解明すれば、良好な反応をもたらすために使用可能な薬物ターゲットを決めることが可能です」。

図の説明:横紋筋肉腫という軟部組織の腫瘍に見られる、三次リンパ組織様構造(TLS)として知られる免疫細胞の集合体は、免疫系ががんと闘う際に重要な役割を果たしている。ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの研究者は、治療法を改善するために、TLSの作用やその作用が発現しなくなる原因を研究している。

翻訳担当者 塚本真理子

監修 遠藤誠(肉腫、骨軟部腫瘍/九州大学病院 整形外科)

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