肉腫で初の免疫プロファイリング、免疫療法適応の可能性を計る

肉腫の組織型によっては他の組織型よりも免疫反応が高いものがあり、Cancer誌に掲載された新たな研究で、この結合組織の悪性腫瘍に対する免疫療法応用の可能性について明らかになった。

肉腫は結合組織(筋肉、関節、脂肪、骨など)の悪性腫瘍であり、多くの種類がある。免疫療法は分子標的療法の1種であり、他のがん種の治療では成功をおさめているが、多様な腫瘍である肉腫を対象とした臨床試験では、一貫性のある結果が得られていない。

しかし、最近、Cancer誌(52日号)に掲載された研究は、既存および新規両方の免疫療法が肉腫に対しどのように奏効するかを示している。

平滑筋肉腫と多形肉腫という2種の肉腫の生物学的特性は、チェックポイント阻害薬として知られる既存の免疫療法に対し感受性であることを示唆している。この免疫療法は、悪性腫瘍細胞に対する免疫細胞の攻撃を抑制するタンパクを阻害することで作用する。

「チェックポイント阻害薬によりメラノーマ(悪性黒色腫)と肺がんに対する標準治療がすっかり変わりました。しかし、肉腫に対する免疫療法の開発はなかなか進展しませんでした」と、フレッド・ハッチンソンがん研究センターの臨床研究者で本試験の統括著者であるSeth Pollack博士は述べた。「この研究を行う以前から、予備的データに基づいて、一部の肉腫は各々かなり異なった免疫応答をするとの印象を受けており、今回の知見はこの考えが正しかったことを示唆しています」。

肉腫には70種類以上の悪性腫瘍が含まれ、体のどの部分でも発生する可能性があり、通常、その名称は発生部位の組織にちなんで付けられる。

今回の研究は、肉腫に関する免疫プロファイリングとして現在までのところ最も広範囲に及ぶものである。Pollack博士らのチームは、肉腫症例のうち75%を占める肉腫(平滑筋肉腫、多形肉腫、滑膜肉腫、脂肪肉腫)を有する患者81人から腫瘍検体を採取し、検討した。新規治療法開発のための使用として合意を得た患者から腫瘍検体の提供を受けた。

研究チームは、有望な治療標的を同定するため、これらの肉腫における免疫応答パターンの特定を目標とした。調査項目は下記のとおりである:

  • 主に免疫機能に関連する遺伝子760種の発現量、
  • PD-1およびPD-L1と呼ばれるタンパク質のT細胞上における発現量(PD-1およびPD-L1は、免疫系が悪性腫瘍の細胞を攻撃するのを抑制し続けるオフ・スイッチとして働く)、
  • 腫瘍内でのT細胞の割合(免疫系が自身の悪性腫瘍攻撃にどれくらい成功しているかを示唆する)、および、
  • T細胞受容体のクローン性(T細胞応答の精密さを示唆する)。

平滑筋肉腫と多形肉腫という2つの肉腫では、本研究のほぼすべての測定指標で高い免疫応答性が示された。このことは、これら2つの肉腫が免疫系の標的となりやすいことを意味する。

「これらの知見が、一部の肉腫サブタイプはチェックポイント阻害薬を用いた治療法の開発に実に向いていると言っているように思えます」、とPollack博士は述べた。チェックポイント阻害薬はPD-1の「オフ・スイッチ」を取り除き、本質的に、免疫系がより積極的に悪性腫瘍を攻撃できるようにするという免疫療法である。

その一方、滑膜肉腫と脂肪肉腫では免疫応答マーカーの発現量は低かった。このことは、別の免疫療法(T細胞を用いた養子療法やワクチンなど)の方が奏効することを示唆している。

「現場の治療を変えるには時期尚早ですが、今後、これらの知見は肉腫に関する臨床試験デザインに影響を与えます」と、Pollack博士は述べた。

別の研究では、これらの免疫療法により平滑筋肉腫を治療する上で予期しない課題に直面する可能性、および平滑筋肉腫患者において免疫療法とそれ以外の治療法との併用が奏効する可能性について示唆されている。

「別の研究では、チェックポイント阻害薬が平滑筋肉腫に対し奏効するかどうかについて明らかにされていません。しかし、本研究の結果により、この平滑筋肉腫に対しチェックポイント阻害薬を奏効させる方法が依然として存在し、その方法の開発を継続する必要があることが明らかになりました」、とPollack博士は述べた。

Pollack博士は、下記の化学療法薬とチェックポイント阻害薬の併用療法に関する臨床試験を継続中である。

Pollack博士は、最終的に推定生存期間が1218カ月である進行性肉腫患者の治療選択肢を拡大したいと考えている。

肉腫は全がんのうち約1%を占める。米国では、年間約2万人が、多種存在する肉腫のいずれかの種類と診断されている。肉腫は「まれ」であると言われることが多いが、まれではない、とPollack博士は述べた。

「事実、まれな種類の肉腫は多いですが、その発症率を合算すると、より注目を集めている別の悪性腫瘍(食道がん、ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病など)の発症率とほぼ同じなのです」、とPollack博士は述べた。

本研究は、Sarcoma Alliance for Research through CollaborationSarcoma Foundation for America、および Gilman Sarcoma Foundationからの資金援助を受けた。

翻訳担当者 三浦 恵子

監修 遠藤 誠(肉腫、骨軟部腫瘍/九州大学病院)

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