肉腫に対する第1相試験、G100腫瘍内投与が局所免疫を高める可能性
細菌から発想を得た薬剤の注入後に免疫攻撃の徴候を認めた、という知見をSeth Pollack博士率いるフレッド・ハッチンソンがん研究センターの研究チームが米国がん学会(AACR)年次総会2017で発表した。
古来から生体に備わった防衛反応は侵入してきた細菌に対抗するものだが、そのシステムをがんを死滅させるための武器に変換させることができたとしたらどうだろうか。肉腫に関する小規模試験において、Seth Pollack博士率いる同センターの研究チームは細菌から発想を得た薬剤の注入後に免疫攻撃の徴候を確認した。
進行性軟部肉腫患者15人を対象とした最近の小規模試験で、ある種の細菌い含まれる分子をベースにした実験薬によりがんと闘う免疫反応が誘導されるかどうか明らかにする試みがなされた。
「この実験薬が投与された腫瘍中の免疫細胞を活性化できれば、がん局所の炎症性をさらに高め、さらに広範な免疫反応が誘発できるかもしれない、と当時は考えていました」と本試験の上級研究員でシアトルにある同センターの教職員であるPollack氏は述べた。
この第1相臨床試験の結果に関するポスターセッションは、4月3日(月)ワシントン D.C.で開催されるは米国がん学会(AACR)年次総会で発表予定である。
研究チームが期待していた患者の体全体における炎症反応は生じなかったものの、実験薬を注入した腫瘍局所で免疫反応の高まりは観察された。そして、ほぼ全例において、腫瘍の増殖停止、縮小、あるいは消失までもが確認された。
「(この薬剤は)注入された腫瘍部に限局して免疫反応を誘発する良い方法であるかもしれないという重大なポイントを覚えておくべきだと思います」と試験責任医師、AACRのポスターセッションの発表者、同センターの研究員、およびワシントン大学の一般外科レジデントであるY. David Seo博士は述べた。
G100と呼ばれるこの実験薬は、リポ多糖類として知られる分子の1構成要素である。リポ多糖類はある種の細菌が有する細胞壁中に存在する。リポ多糖類は細菌以外の生命体には存在しないことから、その存在は何百万年にわたり生命体にとって細菌感染の危険を伝える信号となっていた。生体がリポ多糖類あるいはその特定の構成要素へ暴露されると、即座に強力な炎症反応が誘発され、体全体の防衛反応がそれに連鎖する形で引き起こされる。リポ多糖類に対するこの反応を活性化するシグナル伝達経路は進化的に古く、動物ではミツバチからヒトまでほぼ同じである。
リポ多糖類の同じ構成要素をベースにした別の薬剤は、FDAの承認を受けたB型肝炎ワクチンおよびヒトパピローマウイルスワクチンの1成分として用いられている。G100は数種類のワクチンでも実験的に用いられている。アジュバント(免疫賦活剤)と呼ばれているこれらの薬剤は、ワクチンに含まれる外来異物であるウイルス粒子に対する反応を増強し免疫系を刺激することでワクチンの有効性を向上させる。
Pollack氏は、肉腫治療用の実験的ワクチンについての試験においてG100をアジュバントとして用いていた。当時、Pollack氏の研究チームは、アジュバントが悪性腫瘍に対して自発的に作用するかどうかについて疑問に思っていた。
実験的ワクチンを注射可能な部位の皮膚直下に腫瘍を有する、転移性あるいは遠隔転移した軟部肉腫患者15人を集めた。臨床試験参加者のほぼ全員ががん治療歴を有し、その治療は不成功に終わっていた。
肉腫は、包括的な語句であり、骨、筋肉、腱、脂肪、血管などに発生し、種々の結合組織を侵す非常に多様な悪性腫瘍を意味する。肉腫には多くの分類があり(聞く人によってその数も50~100にわたる、とPollack氏は述べた)、臨床試験の参加者においても幾つかの亜型が認められた。
2~3カ月にわたり、臨床試験参加者の腫瘍にこの実験的ワクチンを週1回注射し、集束照射も行った。集束照射は免疫反応を増強させると考えられている。
本試験の第1相臨床試験としての主な目的は安全性を確認することであったが、試験責任医師らはこのG100について可能性のある抗がん作用についてのエビデンスも収集していた。実験的ワクチンを投与された患者15人のうち、14人で注射した局所における腫瘍の増殖停止、縮小、消失(1例)が認められた。1年超の追跡期間中、これらの腫瘍は再増殖を認めなかった。また、患者6人では、少なくともしばらくの間、全身の腫瘍の増殖も停止した。
「難治性患者を対象とした第1相臨床試験としては、患者の疾患を安定化させたことは好調なスタートです」とPollack氏は述べた。
研究チームは、G100を注入した腫瘍における免疫反応の高まりを確認し、このことによりG100が免疫細胞を腫瘍細胞に対して特異的に反応させた可能性について示唆したが、まだ断言できるまでは至っていない。研究チームはG100を注射したと同時に集束照射を行った患者はもちろんのこと、G100を注射した後に集束照射を行った患者3人においても、これらの徴候を認めた。このことはG100自体に有効性があったことが示唆する。
「最初に仮説を立てたとおり、この徴候が臨床的に意義のある全身性反応をもたらすかは依然として分かりません」とSeo氏は述べた。「ですが、腫瘍内投与により、その腫瘍が免疫活性化の観点から“hot”になったという事実は、他の治療との併用療法としても役立つ可能性があるということです」。
研究チームは現在、次のステップを検討しており、まだ未定ではあるものの追跡調査試験をすでに計画している。この試験では、がんを死滅させるような免疫反応を全身で増強するような他の免疫療法(まだ、どのような治療法か決定していないが)に、G100の注射を併用する予定である。
「われわれは多くのこと学びました、また、新たな集団を募集することを楽しみにしています」とPollack氏は述べた。
本試験は、Seattle Translational Tumor Research(同センターおよびそのコンソーシアムパートナにおいて、bench-to-bedside、すなわち研究室で行われた研究の結果を直接用いて、患者を治療するための新たな方法を開発するがん研究の進展に特化したグループ)およびImmune Design社(G100を所有するシアトルを拠点とする会社)から資金援助を受けた。
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