試験的薬剤[セディラニブ]が稀な癌(軟部組織肉腫)に対して効果があることが、NIHの研究により明らかになった

これまでの化学療法は、このタイプの軟部組織肉腫に効果がなかった。

NCIニュース

臨床試験の結果によると、試験的薬剤であるcediranib[セディラニブ]は、稀で増殖の遅い胞巣状軟部肉腫(ASPS)患者に対して効果があるかもしれない。米国国立衛生研究所の一部である米国国立癌研究所の研究者らにより実施されたこの試験は、cediranibを投与したASPS患者の50%以上に腫瘍縮小効果があったことを明らかにした。この結果は、シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で、2011年6月6日に発表された。

ASPSは軟部組織肉腫全体の1%にも満たず、臓器の結合部、支持部、あるいは周辺部に発生する。小児や若年層に発症することが多く、脚や臀部に無痛の腫瘤として発生する。

ASPSは、腫瘍細胞において2つの染色体が断裂と結合をおこすことによって発生する。ヒトの2種類ある性染色体のうちのひとつであるX染色体と17番染色体の一本の各々から小片が欠失し、欠失したX染色体の小片が17番染色体の本体に結合する。この過程は染色体転座と呼ばれ、ASPL(17番染色体)とTFE3(X染色体)の2つの遺伝子の融合をもたらす。融合遺伝子が発現すると、その結果として、正常細胞には無いASPL-TFE3という異常な融合タンパク質がつくられる。ASPSの確定診断にこのタンパク質の検出が用いられており、ASPSと他の軟部組織肉腫を鑑別するうえで重要である。しかし、ASPSの進行にこのタンパク質が果たす正確な役割は未だ解明されていない。

ASPSにおけるこの融合タンパク質の正確な機能は明らかではなく、そのため直接の治療標的とすることはできないが、癌が増殖や全身に広がる際、特に肺への小さな多発性転移が起こる際には、血管新生が必要であることが良く知られている。こういった腫瘍の血管依存性(体内での血管の再構成)に基づき、血管新生を阻害する薬剤であるcediranibがASPS患者の治療に試みられた。

この薬剤の製造者であるアストラゼネカ社は、肺癌や大腸癌などを含む様々な腫瘍を対象としてcediranibの効果を調べる試験を行ってきたが、ASPSは、十分な腫瘍縮小が証明された最初の固形腫瘍となった。NCIの癌治療・診断部門(DCTD)は、共同研究や開発協定を使うことでこの薬剤の初期段階を支援した。開発協定とは、商業化のために更なる技術開発を行うというNCIと産業界の契約である。

「肉腫の治療に用いられる標準化学療法が有効でなかった癌で、これほど高い腫瘍縮小効果が得られることは異例である」と、DCTDの早期臨床試験部の部長であるShivaani Kummar医師は述べた。ASPSの標準化学療法は有効性や腫瘍縮小効果を示さなかった。

この試験では、19~59歳の患者33人にcediranibを投与し、cediranib投与群の半数以上に腫瘍縮小が認められ、1年以上治療を継続した人もいた。

重要なことは、cediranibの副作用報告は、高血圧や下痢といった対処可能のものであった。

ASAPという稀な腫瘍の治療に対するこの新薬の可能性を評価する際に、DCTDとがん研究センター(CCR)というNCIの2つの部署の能力の集結が重要な役割を果たした。Kummar医師によると、全米からASAPの患者を治療のためにNIHにあるCCRの臨床施設に集める手腕が、この稀な腫瘍の試験を可能とした。

これらの有望な結果を確認するための追跡試験が計画されている。この試験はNCIが調整し、NIH臨床センターとNCI指定の2施設であるダナ・ファーバー総合がんセンター(ボストン)とMDアンダーソンがんセンター(ヒューストン)を含む複数の研究施設で実施される。本試験は、ASPS患者に対してもう1つの血管新生阻害剤であるスニチニブとcediranibの効果を比較するものである。

翻訳担当者 野川 恵子

監修 田中 文啓(呼吸器外科)

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