FDAが進行滑膜肉腫にアファミトレスゲン オートルーセルによるT細胞受容体療法を正式承認

8月2日、米国食品医薬品局(FDA)は、軟部肉腫の一種である転移性滑膜肉腫の一部患者の治療をを目的として、afamitresgene autoleucel[アファミトレスゲン オートルーセル](販売名:TECELRA、Adaptimmune社)と呼ばれる細胞治療を承認した。これは、がんに対するT細胞受容体(TCR)療法という治療法への初めての承認である。

アファミトレスゲン オートルーセル(以下:アファミセル)は、患者自身のT細胞(免疫細胞の一種)を用いて作られる。T細胞は患者の血液から採取され、研究室での遺伝子組み換え後、再び患者に注入される。この遺伝子改変により、がん細胞内のMAGE-A4と呼ばれるタンパク質を認識して、それに結合する能力が高いT細胞レセプターができる。

アファミセル承認の対象は、化学療法の治療歴があり、MAGE-A4と特定のHLAタンパク質の存在が検査で認められる腫瘍の患者である。

今回の承認は、転移を有する滑膜肉腫患者44人を対象とした臨床試験に基づいている。この治療により参加者19人(43%)で腫瘍が縮小し、奏効期間(治療で腫瘍の増大が抑制された期間)の中央値は6カ月であった。この試験の依頼者は同薬剤のメーカーであるAdaptimmune社である。

「アファミセルは、本治療法の適応となる転移性滑膜肉腫患者に対する新たな標準治療となるでしょう」と、本試験を主導したSandra D'Angelo医師(スローンケタリング記念がんセンター)は述べた。

アファミセルは、2017年から特定の血液腫瘍の治療薬として承認されているキメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法と類似していると同医師は指摘した。「CAR-T細胞療法もT細胞受容体療法も、免疫細胞にがんと闘う能力を与えるものです」とD'Angelo医師は言う。

CAR-T細胞療法とT細胞受容体療法の2つの違い

CAR-T細胞療法とT細胞受容体療法には2つの重要な違いがある。まず、CAR-T細胞療法では、特殊な受容体CARが合成されるのに対し、T細胞受容体療法では、天然に存在する受容体を改変したものが使用される。

もう1つの違いは、CAR-T細胞療法ががん細胞表面にある異常タンパク質を標的とするのに対して、T細胞受容体療法では、通常はがん細胞内に存在するが、HLAタンパク質の作用で細胞表面に出てきた異常タンパク質の一部への結合を可能にする。

滑膜肉腫に必要な新たな治療法への取り組み

滑膜肉腫は筋肉や靭帯などのさまざまな軟部組織に発生する。四肢や、手首や足首などの関節付近に発生することもある。このがんはまれで、米国でこの病気と診断される人は年間1,000人に満たない。

滑膜肉腫患者の3分の1は30歳未満で診断され、治療の選択肢は限られている。

病気が体内に広がっていない場合、治療として通常、腫瘍を摘出する手術が行われる。腫瘍が大きくなっていたり、切除後に再発したり、最初の部位以外に広がっていたりする場合は、放射線療法や化学療法が行われることもある。

このがんの患者の約半数は転移性疾患を発症しており、治癒は不可能である。転移病変を有する患者に対する標準治療は化学療法である。

FDAがこの疾患に対する新しい治療法を承認してから10年以上が経過している。D'Angelo医師によれば、患者にとって新たな治療法選択肢へのニーズは「非常に高い」という。

がん細胞内のタンパク質を標的とする

アファミセルは製造に約6週間かかり、患者の血液中に1回投与される。

遺伝子改変の目的は、天然に存在するT細胞レセプターの問題、つまり、常にがん細胞を検出して強固に結合するとは限らないという点を解決することである。しっかりと結合することで、免疫細胞はがん細胞を殺すことができる。

CAR-T細胞療法ではがん細胞表面のタンパク質に結合するのに対し、T細胞受容体療法は、通常は細胞内に存在するタンパク質を標的とすることができる。例えば、アファミセルは卵巣がんや頭頸部がんなどのさまざまな腫瘍内にみられるMAGE-A4を標的とする。

「滑膜肉腫はMAGE-A4を発現する傾向があることがわかりました」と、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのDavid Hong医師は言う。同医師は、アファミセルを評価する最初の臨床試験のひとつを主導した研究者である。

HLAタンパク質はT細胞にMAGE-A4タンパク質の一部を提示し、免疫系にがんの存在を警告する。

完全奏効がみられた患者も

アファミセルは、FDAの迅速承認プロセスにより承認された。承認につながった臨床試験において、参加した滑膜肉腫患者44人のうち多くは、それまでに複数の治療を受けていた。

治療後に腫瘍が縮小した19人のうち、2人では完全奏効がみられた。つまり、腫瘍が消失し、3年間の試験期間中に再発しなかった。

アファミセルに関連してもっとも多くみられた副作用は、吐き気、嘔吐、疲労、感染症であった。参加者の約70%がサイトカイン放出症候群(免疫系過剰反応の一種)を経験した。ほとんどの症例は軽度であり、他の薬剤で対処可能であったと研究者らは報告した。

「この治療法は、副作用が最小限であるとは言え、細胞療法の経験のある大学病院やがんセンターで主に行うべきです」とHong医師は言う。

例えば、患者に細胞を入れる前の準備のために専門家が必要である。骨髄に人工細胞を入れるスペースを確保するために、医師は患者に高用量の化学療法をを行う。このリンパ除去療法には、白血球の減少などの副作用がある。

もう1つの課題として、この治療薬を製造する6週間、がんの進行をいかに抑えるかという問題がある、とHong医師は指摘する。「この期間、腫瘍の増殖を抑えるために化学療法を受ける患者もいるかもしれません」とHong医師は述べた。

この試験では、参加者の約40%が、T細胞受容体療法薬の製造期間中、がんや症状を抑えるために何らかの治療、すなわち「橋渡し療法」を受けなければならなかった。

患者自身の免疫細胞を用いるもう一つの治療法: TIL(腫瘍浸潤リンパ球)

患者自身の免疫細胞である腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を使用する別の治療法が、最近、進行メラノーマ(悪性黒色腫)に対して承認された。TIL療法では、手術で摘出した患者の腫瘍からT細胞を採取し、研究室で増殖させ、再び患者に注入する。

T細胞受容体療法による他の固形がんの治療

アファミセルの第2世代バージョンは、食道がんなどのさまざまながん種の患者を対象とした臨床試験で有望視されている。この治療薬はuza-celと呼ばれ、MAGE-A4も標的とする。

「この研究は、滑膜肉腫のような希少疾患への新たな治療アプローチによる最先端研究の実現可能性を示すものです」と、D'Angelo医師は話す。

T細胞受容体療法で固形がんを治療できることを証明したことは、「科学的に重要な出来事です」とHong医師は述べ、今後数年のうちに、より効果的な新しい細胞療法について患者を対象として治験が行われるであろうと予測した。

「研究者たちは、T細胞の回復力を高め、強力に改変する革新的な方法を開発しています」とHong医師は言う。「がん治療薬の開発において、胸が躍るような今日この頃です」。

  • 監修 遠藤 誠(肉腫、骨軟部腫瘍/九州大学病院)
  • 記事担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2024/08/27

この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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