ニロガセスタットはデスモイド腫瘍に有望な可能性
米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ
非常にまれで消耗性の軟部腫瘍であるデスモイド腫瘍は、新たな臨床試験の結果に基づき、まもなく承認された治療選択肢を得るだろう。この疾患は、現時点では標準治療の選択肢がない。
試験薬nirogacestat(ニロガセスタット)の投与開始から2年後の時点で、試験参加者の4分の3が、疾患が悪化することなく生存していたのに対し、プラセボを投与された患者では半数未満であった。
さらに、ニロガセスタットの投与により、約40%の患者で腫瘍が一部または完全に縮小したのに対し、プラセボを投与された患者では8%しか腫瘍が縮小しなかった。また、ニロガセスタットを投与された患者からは、疼痛や身体機能の改善も報告された。
ニロガセスタットの副作用は、ほとんどの場合軽度で、下痢や発疹などであった。
妊娠可能な年齢の女性の4分の3に卵巣機能不全が認められたが、治療を中止するとほとんどの場合、回復した。
本試験結果は、3月9日付けNew England Journal of Medicine誌に掲載された。
本試験を主導したスローンケタリング記念がんセンターのMrinal M. Gounder医師は、「この試験は、デスモイド腫瘍に関するこれまでの試験の中で最大規模のものの1つです」と述べている。本結果は、「この超希少疾患に対して初めて承認される新薬につながる可能性がある」という。
ニロガセスタットの製造元であるSpringWorks Therapeutics社は、成人のデスモイド腫瘍の治療薬として、ニロガセスタットの承認申請を米国食品医薬品局(FDA)に提出した。今夏までに決定が下される見込みである。
デスモイド腫瘍研究財団の共同設立者であるJeanne Whiting氏は、ニロガセスタットの承認はデスモイド腫瘍の患者にとって「大きな前進」であると述べている。「デスモイド腫瘍の道のりは、長く、困難で、非常に苦痛を伴う場合があります。もし、副作用が少ない治療法があれば、患者さんの道のりは本当に楽になるのです」。
標準治療がない辛い疾患
米国では、年間推定1,650人がデスモイド腫瘍と診断されている。このまれな疾患であるデスモイド腫瘍は、侵襲性線維腫症としても知られ、主に若年者に発症するが、年齢に関係なく発症する可能性がある。家族性大腸腺腫症という遺伝性疾患のある患者は、特にデスモイド腫瘍を発症するリスクが高い。
デスモイド腫瘍は転移しないためがん性ではないが、急速に増大して局所に浸潤し、激しい痛みや醜形を引き起こす場合がある。極端な場合、デスモイド腫瘍は、神経損傷、腸穿孔、肢切断、その他重度の合併症を引き起こす可能性がある。また、治療後に腫瘍が再発しやすく、デスモイド腫瘍の患者は鎮痛剤中毒になる可能性がある。
この疾患には、標準治療がない。手術や化学療法が用いられることが多いが、一般的にこの疾患を長期間抑えることはできない。
デスモイド腫瘍研究財団の共同設立者であるMarlene Portnoy氏は、「これまで、デスモイド腫瘍患者のための治療法はほとんどありませんでした」と述べている。「要するに、標的はあるけれど暗闇の中で射撃するようなものでした。医師は、『これを試してみよう、あれを試してみよう』と言うのです。「デスモイド腫瘍に関する」研究はほとんどなく、治療プロトコルもなかったのです」。
しかし、過去10年間で、デスモイド腫瘍に対する標的療法の開発に一定の進展があった。
2018年、Gounder氏らは、NCIの資金提供による大規模臨床試験の結果を発表したが、それによれば、進行腎臓がん、肝臓がん、甲状腺がんの治療に承認されている標的治療薬ソラフェニブ(ネクサバール)が、デスモイド腫瘍の増大を止めることがわかった。
大規模ランダム化試験を実施できたことで、ニロガセスタットの第3相試験への道が開かれたと、Gounder氏は指摘した。
「この試験は、この疾患を対象とした第3相試験を行うことができることを示したのです」と同氏は述べた。
ニロガセスタットは、ノッチと呼ばれるシグナル伝達タンパク質を活性化させるガンマセクレターゼと呼ばれる酵素の活性を阻害することで効果を発揮する。デスモイド腫瘍がノッチタンパク質を大量に産生し、それが腫瘍の増大を促進すると考えられている。
ニロガセスタットは、当初アルツハイマー病の治療薬として開発されたが、この疾患には効果がないことが判明した。しかし、複数の臨床試験において、ニロガセスタットはデスモイド腫瘍患者に対し活性の徴候を示した。
このため、米国国立がん研究所(NCI)は、デスモイド腫瘍を特異的に対象としたニロガセスタットの第2相試験を開始した。この試験では、ニロガセスタットによる4年間の治療後、試験に参加した17人の患者のいずれも疾患が進行していないことが示された。
SpringWorksのニュースリリースによると、この試験の成功により、SpringWorks Therapeutics(「十分な医療を受けられていない患者にとって大きな期待が持てる」治療法を開発するために2017年にファイザーが設立)は、デスモイド腫瘍の成人を対象としたニロガセスタットの第3相臨床試験を開始した。
ニロガセスタットがデスモイド腫瘍の縮小に有効性を示す
DeFi(デスモイド線維腫症の略)と呼ばれるこの第3相試験には、18歳から76歳の成人142人が参加した。参加者は、過去に腫瘍の治療を受けたことがないか、化学療法、放射線療法、手術などの治療を1回以上受けた後に腫瘍が再発したかのどちらかであった。
参加者は、ニロガセスタットまたはプラセボのいずれかを1日2回経口投与するよう無作為に割り付けられた。28日サイクルで継続的に薬剤を服用した。
中央値16カ月後、ニロガセスタットで治療を受けた患者は、プラセボで治療を受けた患者と比較して、死亡または疾患の悪化が71%少なかった。2年後、腫瘍悪化のエビデンスが示されなかったのは、ニロガセスタット投与患者で76%であったのに対し、プラセボ投与患者では44%であった。
さらに、ニロガセスタット投与患者の41%に腫瘍の縮小が認められたのに対し、プラセボ投与患者では8%であった。腫瘍の縮小が認められた患者のうち、ニロガセスタット投与患者の7%で腫瘍が完全に消失したのに対し、プラセボ投与群では消失した患者はいなかった。
また、ニロガセスタット投与患者では、疼痛の緩和、身体機能の改善、健康関連QOLの向上が報告された。
副作用は軽度で、悪心や疲労などであった。ニロガセスタット投与患者の約20%は、薬剤の服用を完全に中止した。重篤な副作用は、卵巣機能不全と早発閉経であった。しかし、参加者が薬剤の服用を中止すると、どちらも軽快した。
Gounder氏によれば、研究者らは現在、ガンマセクレターゼ阻害剤では珍しくない卵巣機能不全のリスクが最も高いのはどの患者なのかをより詳しく調査している。
有望な結果だが、疑問も残る
NCIがん治療・診断部門のAlice Chen医師(ニロガセスタットの第2相試験を主導したが、第3相試験には関与していない)は、今回の結果は「非常に重要」であるが、いくつかの疑問が残されていると述べた。
例えば、ニロガセスタットの至適用量はまだ不明であり、また、患者は無期限に治療を続ける必要があるのか、あるいは病状が安定したら治療を中断することができるのかについても明らかになっていない、とChen氏は述べている。
「この腫瘍は転移しないため、一定期間治療を中断し、腫瘍が再び増大し始めたら治療の再開を検討することができる可能性があります」と、Chen氏は述べた。
例えば、この若年成人集団では、治療を中断することで妊娠を望んでいる若い女性も利益を得られる可能性があると、同氏は付け加えた。
「(この薬剤が)妊娠にどのような影響を与えるかはわかりません」と同氏は述べた。
Gounder氏は、ニロガセスタットが承認され、デスモイド腫瘍患者の標準治療となったとしても、この薬剤がすべての患者に適切であるとは限らないことを指摘した。
腫瘍が安定し、疼痛やその他の問題が起きていない患者には、経過観察が必要な場合がある、と同氏は述べた。その他の患者には、ソラフェニブ、化学療法、アブレーション、または手術がより良い選択肢となる場合がある。
また、すでに臨床試験が行われているデスモイド腫瘍に対する他の治療法が出てくる可能性もある。例えば、別のガンマセクレターゼ阻害剤であるAL102のランダム化試験において、進行デスモイド腫瘍の患者を登録中である。
- 監訳 遠藤 誠(肉腫、骨軟部腫瘍/九州大学病院)
- 翻訳担当者 生田亜以子
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- 原文掲載日 2023年5月1日
【この翻訳は、米国国立がん研究所 (NCI) が正式に認めたものではなく、またNCI は翻訳に対していかなる承認も行いません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】"
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