甲状腺手術には、年間25件以上執刀している外科医を探すべき

デューク大学医療センター

甲状腺の摘出が必要な患者が合併症リスクを最小限にするためには、年間25件以上甲状腺切除術を執刀する外科医による手術を受けるべきであることがDuke Healthの新しい研究からわかった。

甲状腺はのどの付け根に位置し、代謝を調節するホルモンを分泌するのだが、甲状腺切除術は、甲状腺のがん、機能亢進症、甲状腺の肥大に対し、米国で最もよく行われる手術方法の一つである。しかし、 多くの患者は驚くであろうが、Annals of Surgery誌によれば、甲状腺切除術を行う外科医の約半数(51%)は年1件しか甲状腺の切除を行っていない。

統括著者であり、デューク大学医療センター内分泌外科部長であるJulie A. Sosa医師は、「甲状腺切除術はかなりの技術を要する手術であり、患者は医師が毎年平均何件の執刀をこなしているのかを尋ねる権利があります」と話す。「外科医には執刀件数を答える倫理的な責任があります。このことが、好結果を保証するわけではありませんが、より経験を積んだ外科医を選択することで患者が元気でいられる可能性は確実に高まります」。

甲状腺全摘術は一般に安全な手術であるが、今回の研究対象患者の一部でも認められたように生活を変えてしまう合併症を伴う可能性がある。たとえば、出血、副甲状腺の問題、そして、咽頭神経の損傷により引き起こされうる発声・呼吸・嚥下の問題などである。合併症があると、より多くのケアが必要となり、患者の医療費は増加し、生活の質が低下することもある。

今回の研究は、1998~2009年に甲状腺切除術を受け、Health Care Utilization Projectの全米データベースに登録された患者16,954人のデータから評価された。

研究者らは、外科医4,627人の執刀件数を解析し、年間執刀件数と合併症発症率との関連を調査した。特に、1年間の甲状腺切除術が25件未満の医師の患者は、25件以上の医師の患者と比較して1.5倍以上多く合併症が発症する傾向があった。

医師の平均執刀件数が増えるほど、患者の合併症リスクは確実に減少した。1年に平均25件以上執刀する医師によるリスクは横ばいだった。

執刀件数の多さが術後のよりよい転帰につながる
執刀件数の少ない医師(甲状腺切除術の執刀件数が年間25件以下)が担当する患者は執刀件数の多い医師(執刀件数が年間26件以上)が担当する患者と比較して合併症のリスクが高い。

医師の年間甲状腺切除術件数 合併症発症リスク
1件            87%上昇
2~5件          68%上昇
6~10件           42%上昇
11~15件          22%上昇
16~20件         10%上昇
21~25件            3%上昇
Duke Healthより

「結節性甲状腺腫は甲状腺がんを起こす可能性があり、健康問題として重要度が高まりつつあります。その要因の一つとして、画像診断技術の向上により、以前より容易に発見できるようになったことがあります」とSosa医師は述べた。さらに「米国では、健康成人の68%もの人々が結節性甲状腺腫を有し、このことが、生検や手術の実施件数の大幅増加の要因の一つとなっています。

外科医の執刀件数は、医師と患者がバリューベース・ヘルスケア(患者の選好・価値観に基づく医療)について話し合う際に、考慮すべき要素の一つとなります。それによって、患者は最適の医療費で、合併症がより少ない適切な治療を受けることができるようになります」と述べた。

Sosa医師の他の共著者は以下の通りである。Mohamed Abdelgadir Adam, M.D.; Samantha Thomas; Linda Youngwirth, M.D.; Terry Hyslop, Ph.D.; Shelby D. Reed, Ph.D.; Randall P. Scheri, M.D.; and Sanziana A. Roman, M.D.

翻訳担当者 廣瀬千代加

監修 東 光久(総合診療、腫瘍内科、緩和ケア/福島県立医科大学白河総合診療アカデミー)

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