ROS1陽性肺がんでレポトレクチニブが新たな治療選択肢に
米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ
2023年11月、食品医薬品局(FDA)は、ROS1遺伝子融合と呼ばれる遺伝子変化を有する一部の進行肺がんの治療薬としてrepotrectinib[レポトレクチニブ](Augtyro)を承認した。
このたび、レポトレクチニブの承認につながった臨床試験の全結果が発表された。
この臨床試験で、ROS1標的薬の投与歴のない非小細胞肺がん(NSCLC)患者の約80%で奏効が認められた、つまり腫瘍が縮小したことが、1月11日付のNew England Journal of Medicine誌に報告された。
クリゾチニブ(ザーコリ)やエヌトレクチニブ(ロズリートレク)など、別のROS1標的薬による治療歴のあるNSCLC患者では約40%に奏効が認められた。
ROS1融合遺伝子陽性の進行または転移性NSCLCに対するレポトレクチニブのFDA承認には、初回治療およびROS1標的薬による治療歴のある患者に対する2次治療としての使用が含まれる。
TRIDENT-1と呼ばれるこの試験では、ROS1融合遺伝子陽性の肺がん患者127人を含む進行固形がん患者を対象にレポトレクチニブを評価した。
これらの患者の多くで、レポトレクチニブの効果は数年間持続した。
「レポトレクチニブはROS1融合遺伝子陽性の肺がん患者に長期にわたる奏効をもたらすことが可能で、対象には分子標的療法歴のある患者もない患者も含まれます」と、TRIDENT-1試験を主導したスローンケタリング記念がんセンターのAlexander Drilon医師は述べた。
レポトレクチニブによる治療により、肺がんの転移が多い部位である脳に転移した腫瘍も縮小したと、研究者らは報告した。
レポトレクチニブは薬剤耐性を引き起こす一部のROS1遺伝子変異を克服できる
一部の肺腫瘍ではROS1に遺伝子変異が生じ、クリゾチニブやエヌトレクチニブが効かなくなることがある。レポトレクチニブは、G2032Rと呼ばれる変異など、これらの耐性変異のある腫瘍に効果があるようにデザインされた。
TRIDENT-1試験では、腫瘍にG2032R変異のある17人中10人(59%)でレポトレクチニブの効果が認められた。この試験はレポトレクチニブのメーカーであるブリストル・マイヤーズ スクイブ社から資金提供を受けた。
「レポトレクチニブは他のROS1阻害薬では克服できない耐性変異を克服することができますが、他のROS1標的薬よりも副作用が多いということはなさそうです」と、フロリダのMemorial Cancer Instituteで胸部腫瘍学プログラムを指導し、この試験に関与したLuis Raez医師は述べた。
次のステップとして重要なことは、個々の患者での異なるROS1標的薬の最適な使用法について、医師が決定する際に役立つ研究を行うことであると、複数の専門家は述べた。
ROS1融合遺伝子陽性の進行肺がんの治療選択肢を広げる
ROS1遺伝子の融合は、ROS1遺伝子の一部が切断され、別の遺伝子に結合することで起こる。ROS1融合遺伝子陽性の肺がん細胞では、遺伝子融合の結果として産生されるROS1タンパク質が過剰に活性化し、制御不能な細胞増殖や腫瘍を引き起こす。ROS1融合遺伝子は非小細胞肺がん(NSCLC)と診断された患者の最大2%に認められる。
この融合遺伝子は通常、喫煙歴がほとんどないか、まったくない人に認められるが、ヘビースモーカーでも検出されている。
レポトレクチニブはROS1融合タンパク質の活性を阻害する。クリゾチニブとエヌトレクチニブはROS1融合遺伝子陽性の一部の肺腫瘍を縮小させるが、タンパク質を過剰に活性化させる他の特定のROS1遺伝子変異陽性腫瘍には効果がない。新しい治療法の必要性から、研究者らは次世代のROS1標的治療を開発した。
患者がカプセルとして服用するレポトレクチニブは、この研究から生まれた最初の承認薬である。レポトレクチニブは、ROS1に加えて、ALKや複数種のNTRKタンパク質など、がん細胞の増殖を促進する他のタンパク質も標的とする。
レポトレクチニブの持続する抗腫瘍効果
TRIDENT-1試験では、ROS1標的薬の投与歴のない71人中56人(79%)に少なくとも18カ月間の奏効が認められた。無増悪生存期間(病状が悪化するまでの期間)の中央値は約36カ月であった。
ROS1標的薬の投与歴のある患者では、56人中21人(38%)に奏効が認められた。この群の無増悪生存期間中央値は9カ月であった。
いずれの群の患者にも、少数ではあるが完全奏効(がんの完全消失)が認められた。
レポトレクチニブは脳に転移した肺腫瘍に対しても効果があるようであった。脳転移を有する患者のうち、ROS1標的薬の投与歴のない患者では9人中8人(89%)で脳腫瘍が縮小した。ROS1標的薬の投与歴のある患者では13人中5人(38%)で脳腫瘍が縮小した。
これらの患者の多くで、治療効果は少なくとも1年間持続した。
レポトレクチニブの主な治療に関連した副作用は浮動性めまいであった。この副作用は、薬剤の投与量を減らすか、投与スケジュールを一時的に中断することで管理可能であったと研究者らは記している。
その他の副作用としては、口内に不快な味がする味覚異常、および外部刺激なしに生じる灼熱感やチクチク感などの異常な触覚がみられる感覚異常があった。患者の3%が治療に関連した副作用のためにレポトレクチニブの服用を中止した。
TRIDENT-1臨床試験の限界
TRIDENT-1試験の限界は、レポトレクチニブが第3相ランダム化臨床試験で他のROS1標的薬と直接比較されなかったことであると、Raez医師は述べた。さらに、ROS1 融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんはまれであるため、TRIDENT-1試験の患者数は比較的少なかったと加えた。
利用可能なROS1標的薬を患者で直接比較した試験がない以上、腫瘍内科医は治療法を選択する際に効果の持続性や安全性などの因子を考慮すべきであるとDrilon医師は述べた。
「レポトレクチニブは、承認された3つのROS1標的薬の中で最も無増悪生存期間が長いようです」と同医師は述べた。そして、すでにROS1阻害薬の投与を受けた患者では、レポトレクチニブが現在承認されている唯一の選択肢であると、同医師は付け加えた。
- 監訳 川上正敬(肺癌・分子生物学/東京大学医学部附属病院 呼吸器内科)
- 翻訳担当者 坂下美保子
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- 原文掲載日 2024/2/16
この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】
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