EGFR陽性肺がんに術後オシメルチニブが生存率を有意に改善

米国臨床腫瘍学会(ASCO2023)

ASCOの見解

「私たちは、肺がんのすべての患者に対して、画一的な術後補助療法を行ってきた。しかし、10年前から、一部の患者に対する標的治療が進歩し、劇的に良好な治療成績が得られるようになった。肺がん分野では初めて、オシメルチニブを用いた術後補助療法により、切除術後のEGFR変異陽性、非小細胞肺がん(NSCLC)患者の生存率が明確に改善された。これは、このような患者に対する新しい標準治療となるはずだ」と、ASCO専門家のNathan Pennell医学博士(FASCO:ASCOフェロー)は述べている。

ステージIB、II、IIIAのEGFR変異陽性(EGFRm)非小細胞肺がんを完全切除した成人患者において、手術後にオシメルチニブ(販売名:タグリッソ)を投与すると、死亡リスクが大幅に低下することが、国際共同研究により明らかにされた。この研究は、米国臨床腫瘍学会年次総会2023(ASCO2023)で発表される。

試験要旨

目的非小細胞肺がん(NSCLC)
対象者EGFR変異陽性(EGFRm)のステージIB、II、IIIAのNSCLCで、手術により腫瘍が完全に除去された成人患者
結果・手術後にオシメルチニブを投与されたステージIB-IIIA NSCLC患者は、プラセボを投与された患者と比較して、死亡リスクが51%低下した(HR:0.49、p<0.0001)。

  ・ステージIB-IIIAのNSCLC患者において、術後補助療法としてオシメルチニブを投与された群の5年全生存(OS)率は88%、プラセボを投与された群では78%であった。全患者のOSの追跡期間中央値は60.4カ月(オシメルチニブ群)、59.4カ月(プラセボ群)であった。

・また、ステージII-IIIAのNSCLC患者においても、死亡リスクはプラセボと比較してオシメルチニブで51%低下した(HR:0.49、95%CI:0.33-0.73、p=0.0004)。

  ・ステージII-IIIAの患者において、5年OS率はオシメルチニブ群で85%(95%CI:79-89)、プラセボ群で73%(95%CI:66-78)であった。

  ・全患者においてOSの追跡期間中央値は59.9カ月(オシメルチニブ群)、56.2カ月(プラセボ群)であった。

・OS期間中央値は、いずれの集団(ステージIB-IIIAまたはステージII-IIIA)や治療群においても到達しなかった。

・オシメルチニブの術後補助療法によるOSの向上は、IB期、II期、IIIA期を含むすべての定義されたサブグループで一貫して観察され、過去に他の補助療法を受けたかどうかに関係なく観察された。
重要性ステージIB-IIIAのEGFR変異陽性NSCLCに対するオシメルチニブの術後補助療法は、過去の補助療法の有無にかかわらず標準治療に追加した場合に生存率を劇的に改善した。これらの患者における現在の標準治療としてオシメルチニブの術後補助療法を行うことを支持する結果である。

主な知見

ADAURA試験の最終的なOS解析の結果、腫瘍摘出後にオシメルチニブを投与されたIB-IIIA期NSCLC患者の88%が術後5年後も生存していたのに対し、プラセボ投与患者では78%であった。全体として、オシメルチニブを投与された患者は、プラセボを投与された患者と比較して死亡リスクが51%低かった(p < 0.0001)。オシメルチニブの術後補助療法によるこの生存利益は、ステージIB、II、IIIA期のNSCLCを含むすべての試験サブグループにおいて、探索的解析で一貫して観察された。本試験の治療群に割り当てる前に、試験参加者の60%に他の補助化学療法が実施されており、オシメルチニブの生存利益は、過去の補助化学療法の有無にかかわらず認められた。

ADAURA試験は、ステージIB-IIIAのEGFR変異陽性NSCLC患者を対象に、オシメルチニブによる無病生存期間(DFS:治療後にがんの兆候が見られない期間)とOSの統計的に有意な効果を認めた初めての国際共同第3相試験である。

「全生存期間は、これまで術後補助療法のランダム化臨床試験におけるゴールドスタンダードの評価項目とされてきた。ADAURA試験の結果は、EGFR変異陽性非小細胞肺がん患者の治療機会を拡大するものである」と、イェール大学がんセンター副所長およびイェール大学医学部トランスレーショナル・リサーチ担当副部長で、本試験の筆頭著者であるRoy S. Herbst医学博士は述べている。「一次解析で得られた、診療を変えるほどの無病生存率データと合わせて、全生存期間における利益は、切除されたステージIB-IIIAのEGFR変異陽性非小細胞肺がん患者に対する標準治療としてオシメルチニブの術後補助療法が有効であるという確信を与えている。このことは、診断時や治療開始前に、利用可能なバイオマーカーを用いてこれらの患者を特定する必要性をさらに強く示している」。

肺がんは世界のがん死亡原因の第一位であり、毎年約180万人が死亡している。EGFR変異陽性肺がんは、アジアでは肺がんの約30-40%を占め、米国や欧州では肺がんの約10-25%を占めると言われている。手術で腫瘍を取り除いた後に化学療法を行うにもかかわらず、IB-IIIA期のNSCLCの疾患再発率は高く、病期が進むほど高くなる。

オシメルチニブは、中枢神経系(CNS)に作用する第3世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)で、切除されたIB-IIIA期のEGFR変異陽性NSCLCに対する術後補助療法として米国食品医薬品局(FDA)から承認された初めての分子標的薬である。

試験について

ADAURA試験は、欧州、アジア太平洋地域、北米、南米の26カ国で実施された国際共同試験である。本試験では、患者の約3分の2が女性であった。患者の年齢は30歳から86歳で、平均年齢はオシメルチニブ群で64歳、プラセボ群で62歳であった。患者の約3分の2は喫煙歴がなく、患者の約3分の2はアジア人であった。

合計682人の患者を1:1にランダムに割り付け、疾患再発、3年後の治療完了、または中止基準を満たすまでオシメルチニブ(339人)80mgを1日1回投与する群とプラセボ(343人)を投与する群に分けた。主要評価項目はステージII-IIIAのDFS、主な副次評価項目はステージIB-IIIAのDFS、OS、安全性であった。

最近発表されたデータでは、有害事象の大半は重篤ではなく、重症度は軽度または中等度であり、全体的な減量率や治療中止率はオシメルチニブの既存データに基づく予想の通りであった。全体として、オシメルチニブ群の参加者の66%(222人)、プラセボ群の参加者の41%(139人)が、計画された治療期間である3年間を完了した。有害事象により治療が中断されたのは、オシメルチニブ群の13%(43人)、プラセボ群の3%(9人)であった。

次のステップ

ADAURA試験による今後の解析が進行中であり、最小残存病変に関する腫瘍および血中循環腫瘍DNAの分子プロファイリングなど、より多くの情報が得られるかもしれない。また、オシメルチニブは現在、手術前を含む他のステージのNSCLCで評価されている。

本試験はアストラゼネカ社から資金提供を受けた。

  • 監訳 川上正敬(肺癌・分子生物学/東京大学医学部附属病院 呼吸器内科)
  • 翻訳担当者 河合加奈
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  • 原文掲載日 2023/06/04

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