進行非小細胞肺癌におけるパラプラチン®/タキソール®に対するイレッサ®の優越性

キャンサーコンサルタンツ
2009年8月

New England Journal of Medicine誌に掲載されたアジアの研究者の試験結果によれば、東アジアの非喫煙もしくは軽度喫煙経験のある進行非小細胞肺癌(NSCLC)患者においてイレッサ®(一般名ゲフィチニブ)を初回治療として用いた場合、パラプラチン®(一般名カルボプラチン)とタキソール®(一般名パクリタキセル)の併用療法に比べ、無増悪生存率が向上することが示された。

イレッサ®は、白金製剤およびタキサン製剤療法がうまくゆかなくなった進行NSCLC患者への単剤治療薬としてアメリカ合衆国で承認されている、経口の上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ選択的阻害剤である。NSCLCを含む多くのヒト固形腫瘍では、EGFRの発現、過剰発現または調節不全が起きている。EGFRが活性化すると、アポトーシス阻害と共に、細胞増殖、接着・浸潤能および運動性の増大が起こり、その結果、腫瘍成長が促進すると考えられている。イレッサに反応性を示す肺腫瘍は、腺癌もしくは細気管支肺胞上皮癌である場合が多く、また非喫煙者、女性、EGFR特異的変異を持つ患者でより多く見られる。

上述の多施設共同第3相試験には、中国、台湾、日本の非喫煙もしくは軽度喫煙歴のある、未治療進行(ステージIIIBまたはIV)NSCLC患者1,217人が参加した。患者は無作為にイレッサ治療群またはパラプラチン/タキソール治療群に割り付けられた。無増悪生存期間の中央値は、イレッサ治療群5.7カ月、パラプラチン/タキソール治療群5.8カ月であった。12カ月無増悪生存率は、イレッサ治療群24.9%、パラプラチン/タキソール治療群6.7%であった。客観的奏効率は、イレッサ治療群が43%であったのに対し、パラプラチン/タキソール治療群では32.2%であった。

本試験に参加した全患者1,217人中、437人のEGFRデータが評価され、内261人がEGFR変異陽性であった。この261人のサブグループにおける無増悪生存期間は、イレッサ治療群の方がパラプラチン/タキソール治療群に比して有意に長かった(ハザード比=0.48)。これに反し、EGFR変異陰性であった患者176人においては、パラプラチン/タキソール治療群の無増悪生存期間の方がイレッサ治療群に比して有意に長かった(ハザード比=2.85)。EGFR変異陽性サブグループの客観的奏効率はイレッサ治療群71.2%、パラプラチン/タキソール治療群47.3%であった。EGFR変異陰性サブグループの客観的奏効率はイレッサ治療群1.1%、パラプラチン/タキソール治療群23.5%であった。

イレッサの副作用は比較的軽度なため、パラプラチン/タキソールよりも患者のQOL(quality of life)が良いとの報告がある。本試験において、イレッサで最も多く見られた副作用が発疹、にきび、下痢であったのに対し、パラプラチン/タキソールでは神経毒性、血球数減少、脱毛であった。

コメント:
本試験の研究者らは、試験対象となった進行NSCLC患者群への初回化学療法として、パラプラチン/タキソールよりもイレッサの方が優れていると結論づけた。EGFR陽性腫瘍はイレッサ治療における強い治療効果予測因子であるが、本試験のデータから、EGFR陽性ではない患者へのイレッサ投与は行うべきではないことが強く示唆された。

参考文献:
Mok TS, Wu YL, Thongprasert S, et al. Gefitinib or carboplatin-paclitaxel in pulmonary adenocarcinoma. New England Journal of Medicine [early online publication]. August 19, 2009.


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翻訳担当者 志村 美奈

監修 久保田 馨(胸部腫瘍医/国立がんセンター中央病院)

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