2009/06/02号◆癌研究ハイライト~米国臨床腫瘍学会(ASCO)報告~
同号原文|
NCI Cancer Bulletin2009年06月02日号(Volume 6 / Number 11)
~日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~
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◇◆◇癌研究ハイライト◇◆◇
・肺癌検診では偽陽性と判定される割合が高い
・併用療法により胆道癌患者の生存期間が延長
・乳癌治療薬が胃癌患者を救う
・HPVの状態から中咽頭癌の予後が予測可能
・ベバシズマブは大腸癌の再発予防にならない
・DNA修復阻害剤に、進行性乳癌を治療できる可能性
肺癌検診では偽陽性と判定される割合が高い
コンピューター断層撮影(CT)を使用した肺癌検診では、偽陽性判定となる割合が高く、しばしば追跡検査や侵襲的な検査まで行うことになると、ASCO年次総会で報告された。CTを用いた肺癌検診のリスクと利点はこれまでにも取り上げられていたが、今回の報告は偽陽性の結果が出されるリスクを定量化した初めての研究である。
米国立衛生研究所(NIH)のOffice of Medical Applications of Research(医学応用研究オフィス)のDr.Jennifer M.Croswell氏らは肺癌検診研究(LSS)のデータを解析した。これは55才から74才の現在喫煙している人および喫煙経験者3000人以上を対象としてCTおよび胸部エックス線という二つの検査を比較したものである。LSSは、NCI主導で実施中の全米肺癌検診試験(NLST)の予備的試験であり、CT検査群で偽陽性が有意に多かった。
CT群の参加者は、偽陽性のリスクが1回のスキャンで21%、2回で33%であった。それに対して、X線検査群では1回検査で9%、2回検査で15%であった。LSSは2回の検査のみであることから、ここで得られた知見は、CTを用いた通常の肺癌検診に対して控えめな見積もりしかしていないと、Croswell氏は述べた。
偽陽性の結果となった被験者のうち、60%が1回以上の追加画像検査を、2%弱が手術を受けた。これらの手術の合併症率は低いものの、数人の患者では虚脱肺または肺出血がみられたため入院が必要であった(1%未満)。また、他の1%の被験者は感染症で治療を受けたと研究者は述べている。追加の画像検査および侵襲的治療は、胸部X線検査が偽陽性の場合とも関連していた。
検査を含むすべての医学介入は利点と同じように危険性も持っている可能性があると研究者らは述べている。偽陽性は心理的ストレスを生み、医療制度に負荷を与える可能性がある。
併用療法により胆道癌患者の生存期間が延長
シスプラチン(プラチノール)とゲムシタビン(ジェムザール)の併用療法は、ゲムシタビン単独投与に比べて、進行・手術不能の胆道(胆嚢、胆管)癌患者の生存期間を数カ月延長させる(8.2カ月対11.7カ月)との知見がASCO年次総会で発表された。この併用療法は、この稀で難治性の癌患者にとっての新たな標準治療になる可能性があると研究者らは予測した。
「シスプラチンとゲムシタビンの併用は、今や進行胆道癌患者に対する世界標準治療であり、今後の研究の中心になると考えます」と、主任研究者であるマンチェスター大学(英国)のDr. Juan Valle氏は会議に先立つ記者会見で述べた。ASCO会長のDr. Richard Schilsky氏は、同会見で、この研究を「決定的なもの」と評し、「これらの患者を治療する医師の1人として、患者に提示出来る明らかな標準治療があることは非常な励みとなります」と付け加えた。
最終段階にあるABC-02試験は、進行した胆管癌、胆嚢癌、あるいは乳頭部癌の患者410人を対象とした。全生存率の改善に加えて、併用療法により病状の進行が2カ月遅くなった(8.5カ月対6.5カ月)。併用群には好中球減少患者をわずかに多く認めたが両群の副作用は同程度であったと、研究者らは述べた。
次の段階は、より新しい標的薬のいくつかをこの併用療法に加えることと、どの患者がこれらの治療により最も恩恵を得るかを特定することであるとValle氏は記した。彼は、他の化学療法剤を加えることは、患者に対して利益をもたらすことなく毒性を増す可能性があると警告した。
乳癌治療薬が胃癌患者を救う
乳癌治療薬であるトラスツズマブ(ハーセプチン)により、進行胃癌患者の生存期間が延長したことが示された。標準的化学療法にトラスツズマブを加えた治療を受けた患者は、化学療法のみの患者と比較してより長期間生存するとの知見が、研究者らによりASCO年次総会で発表された。
第3相ToGA試験は、トラスツズマブの標的であるHER2タンパクが過剰発現している594人に対して2つの治療法を比較するものであった。化学療法にトラスツズマブを加えた群の患者は13.8カ月生存したのに対して、化学療法単独群の患者の生存期間は11.1カ月であったと、主任研究者であるガストゥイ スベルク大学附属病院(ベルギー ルーベン)のDr. Eric Van Cutsem氏は述べた。この結果は、死亡リスクが26%低下することを意味する。
トラスツズマブは、第3相試験において胃癌患者の全生存率を改善した初めての分子標的薬であるとVan Cutsem氏は述べた。そして、延命効果は少ないが、この知見は胃癌治療における稀なる進歩であると付け加えた。
この併用療法は認容性があり、トラスツズマブ群の患者には予期せぬ副作用は起きなかったとVan Cutsem氏は述べた。トラスツズマブ投与試験で通常モニターされているうっ血性心不全の発生率は両群とも同じであった。駆出率(心臓のポンプ機能の目安)低下の発生率は、化学療法単独群が1.1%であったのに対し、トラスツズマブ併用群は5.9%であった。心機能に対する影響が少ない理由は、乳癌患者にトラスツズマブを投与する際にしばしば併用されるアントラサイクリン系の化学療法剤と併用しなかったためかもしれないと彼は述べた。
HPVの状態から中咽頭癌の予後が予測可能
喉頭上部域に進行性腫瘍のある患者は、腫瘍がヒトパピローマウィルス (HPV)陽性の場合、良好な治療結果が得られている。これは、ASCO年次総会で発表された第3相臨床試験の新たな結果によるものである。 中咽頭癌患者のHPVの状態と治療結果の関連性は他の試験でも示唆されているが、今回得られた新たな結果はもっとも明確なエビデンスの提示となると、試験責任者であるオハイオ州立大学のDr.Maura Gillison氏は記者会見で述べた。
中咽頭癌は、長期間の喫煙や飲酒に関連するものおよびHPVに関連するものに現在では分類できると氏は述べている。さらに、HPVの状態を決定することはいまや通常の治療行為の一部となる可能性があり、これはこれらの患者でその予後を予想できるためであると続けた。
このような知見は放射線治療腫瘍学グループ(RTOG)実施の0129臨床試験における相関性研究から得られたものである。これは第3相臨床試験であり、ステージ3または4の中咽頭癌患者が放射線治療、化学療法剤シスプラチンの複数のレジメンに無作為に割り付けられた。ほぼ2/3の腫瘍検体がHPV陽性という結果であったとGillison氏は述べた。治療2年後の現在も生存しているのは、HPV陽性患者88%、HPV陰性患者は66%であった。生存率の絶対的差は経時的に増加していた。
さらに分析したところ,年齢、PS、治療法などの因子の影響を除外してもHPV陽性腫瘍患者の予後は良好であることがわかった。
治療成績の顕著な差により、この時点以降、RTOGとECOG臨床試験グループは実施中の全ての臨床試験をHPVの状態によって層別化し、HPV陽性または陰性患者に対して特異的に臨床試験をデザインすることになると、Gillison氏は述べた。
ベバシズマブは大腸癌の再発予防にならない
早期大腸癌治療で術後標準治療に分子標的薬であるベバシズマブ(アバスチン)を1年間追加投与した群と標準療法群とを3年間追跡調査したところ、ベバシズマブ追加投与群の無病生存期間(再発が生じない期間)を改善することはできなかったとの結果がASCO年次総会で発表された。
NCIがサポートし、米国乳癌・消化器癌術後補助療法プロジェクト(NSABP:National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project)が実施したC-08試験は、早期癌に対する術後補助化学療法に血管新生阻害剤を用いた結果を報告する初の第3相試験であった。腫瘍への血流を阻害するベバシズマブは、進行した大腸癌、乳癌、肺癌の治療にはすでに使用が認可されている。
腫瘍を外科的に切除したステージ2とステージ3の大腸癌患者2,700人以上を、6カ月間の標準術後補助化学療法群か、ベバシズマブ併用化学療法とその後6カ月間ベバシズマブ単独投与群に無作為に割り付けた。3年後の無病生存率は75.5%対77.4%であり、両群に有意差は認められなかった。
観察期間1年目までの無病生存率は、ベバシズマブ投与群が統計的有意であったと、この試験の指導者であるアレゲニー総合病院(ピッツバーグ)のDr. Norman Wolmark氏は強調した。事実、その有意差はこの試験を早期に終了させるに十分な数字であったが、「その効果は、ベバシズマブの投与を止めると消失した」と彼は述べた。
最近行われた複数の動物試験では、特定の状況下で、血管新生阻害剤が初期に腫瘍を縮小させた後、腫瘍の増殖性および転移の可能性を高めることがあると示していた。研究者らはこの点を注意深く検討した結果、「弊害となるリバウンドの兆しはまったく認めなかった」とWolmark氏は述べた。
メ イヨークリニックのDr. Axel Grothey氏は、ベバシズマブは治療中のみ効果を示すが、再発が遅くなるだけで再発を防止しているようには思われないことに同意した。現時点では、彼は、ベバシズマブは臨床試験以外の術後補助療法として使用すべきではないと強調した。
NBABPは、術後補助療法としてベバシズマブを2年間投与する同様の第3相臨床試験が開始されることを望んでいると、Wolmark氏は述べた。
DNA修復阻害剤に、進行性乳癌を治療できる可能性
ASCO年次総会で発表された2つの小規模な臨床試験から得られた知見によると、腫瘍細胞が有する、損傷を受けたDNAを修復する能力を阻害する新しいタイプの標的薬が、治療の困難なタイプの乳癌女性で有益である可能性がある。
腫瘍細胞中のPARPとよばれる重要なDNA修復酵素を阻害する複数の薬剤が第2相臨床試験で検証された。2つの試験のうち大規模な試験は、ダラスのベイラー・チャールズ・A・サモンズがんセンターのDr.Joyce O’Shaughnessy氏が主導した試験であり、BSI-201というPARP阻害剤を用いた。転移性トリプルネガティブ乳癌(HER2タンパク、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体が陰性の腫瘍)で、それまでの治療にも関わらず病勢が進行している116人の女性が、ゲムシタビンおよびカルボプラチンによる化学療法にBSI-201を加える群と加えない群に無作為に割り付けられた。
BSI-201と化学療法の併用治療を受けた女性は、病勢進行するまでの期間が6.9カ月、化学療法のみを受けた女性は3.3カ月、全生存期間は9.2カ月に対して5.7カ月と、双方ともにBSI-201併用群のほうが有意に長かった。この試験では全生存期間は副次的評価項目であり、さらに、本薬は非常に認容性が高く、追加毒性が見られることはなかったと、O’Shaughnessy氏は述べている。
2つめの試験はロンドンのキングスカレッジのDr.Andrew Tutt氏らが率いたもので、BRCA1またはBRCA2遺伝子変異をもち、それまでの治療に抵抗性である進行した乳癌女性に対して、単剤のオラパリブ(olaparib)という経口PARP阻害剤の試験が行われた。
登録患者が多かったため、本臨床試験は2つの異なる投与量で試験を行うよう拡大されたとTutt氏は述べた。高用量はより有効であり、40%の女性で腫瘍の縮小がみられ、低用量の女性で22%だったのと比べて高かった。本薬剤の副作用はわずかであり、最も多い副作用は軽度の嘔気および倦怠感であった。
BSI-201を製造するBipar Science社は、本薬剤の同様の第3相臨床試験を本年夏に開始する予定である。Tutt氏は、オラパリブを製造するアストラゼネカ社と、本薬剤を用いてさらに大規模な臨床試験を行うことを検討していると述べた。
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Nogawa、関屋 昇(薬学) 訳
鵜川 邦夫(消化器・内科医/鵜川病院)、
原 文堅(乳腺腫瘍医/四国がんセンター)監修
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