限局型非小細胞肺がんに対する術前がん免疫療法は安全で有効な選択肢
がん免疫療法薬であるアテゾリズマブ(販売名:テセントリク)は、肺がん手術を受ける前のステージIB~IIIBの非小細胞肺がん(NSCLC)患者に安全かつ有効な治療であることが、新たな研究結果から明らかになった。この研究は、オハイオ州立大学総合がんセンターのアーサー・G・ジェームズがん病院およびリチャード・J・ソロブ研究所(OSUCCC – James)の研究者が主導し、全米肺がん遺伝子変異コンソーシアムの3つの研究の一環として実施された。
この新たな研究における患者の生存率は、治療後3年で約80%、すなわち手術と化学療法のみの場合に予測される生存率の約2倍であり、非常に良好であることがわかった。また、この研究では、治療前の血液中で、免疫細胞の一種であるナチュラルキラー(NK)細胞の数が多いことが、免疫療法薬の治療効果の低さと関連していることを示すデータも報告されている。この細胞が多い患者には、NK細胞に特異的な治療法を追加することで利益が得られる可能性がある。
この研究成果は、2022年9月12日発行の「Nature Medicine」誌に掲載された。
OSUCCC – JamesのDavid Carbone博士が主導したこの全米規模の臨床試験には、米国内のがんセンター15施設から集められた181人の患者が参加した。ステージIB~IIIBの非小細胞肺がん患者を対象として、術前に化学療法を行わずにがん免疫療法薬を投与したときの有用性を評価した、これまでで最も大規模な臨床試験となる。
米国食品医薬品局(FDA)はごく最近、非小細胞肺がんの治療に対する術前の化学療法と免疫療法薬の併用を承認しているが、この研究は、患者によっては化学療法併用による毒性を被る必要がない場合があることを示している。ただし、肺がん手術の前にがん免疫療法を単独で行うことは、まだ実験的な段階にあると考えられる。
「がん免疫療法薬によって、転移性肺がんの治療成績が大きく変わってきていますが、早期ステージのがんにおけるその影響や最適な使用方法は、まだ明確にされていません」とCarbone博士は述べている。
Carbone博士によれば、術前のがん免疫療法と化学療法の併用を評価した大規模な研究が1件報告されており、その他にもいくつかの研究が進行中である。これらの研究は、この併用療法が術後の再発を抑えるのに有効であることを示唆しているが、化学療法と免疫療法薬の全生存期間に対する効果はまだ証明されていないと、Carbone博士は指摘する。
研究の方法と結果
この研究では、術前/術後の病理学的検体と末梢血検体を採取し、臨床的有用性と相関のある免疫細胞プロファイルを測定することで、がん免疫療法の直接的な有用性について明確な実情を把握しようと努めた。
「NK細胞の多さと治療成績の悪さに相関があることを発見して驚きました。この新たな血中バイオマーカーは、治療効果を予測する興味深い新たな手段を提供し、NK細胞を特異的に標的とする効果的な免疫系薬剤の新しい標的となる可能性があります」と、Carbone博士は述べた。
この研究では、術前にアテゾリズマブを2サイクル投与した非小細胞肺がん患者の20%で、手術前に主要病理学的奏効(MPR)が認められたことが報告されている。この研究におけるMPRの定義は、生きたがん細胞が手術時に腫瘍の10%未満であることとした。これは、腫瘍組織内のほとんどのがん細胞が術前の免疫療法薬によって破壊されたことを示している。さらに、術前(ネオアジュバント)免疫療法薬の投与を2回行っただけで、患者の約7%で病理学的完全奏効が認められた。
「これらは、臨床ケアに大きな影響を与えるほどの非常に心強い結果です。さらに特筆すべきは、治療前の血液中に治療結果を予測する特異的な所見を見つけ出し、相関させることができたこと、また新たな治療標的の可能性を明らかにできたことです」と、この研究の著者かつ米国内の臨床試験の責任者であり、オハイオ州立大学総合がんセンター、ジェームズ胸部腫瘍センターの統括者であるCarbone博士は述べている。
この研究の共著者は以下のとおり:Jamie Chaft, Filiz Oezkan, Mark Kris, Paul Bunn, Ignacio Wistuba, David Kwiatkowski, Dwight Owen, Yan Thang, Bruce Johnson, Jay Lee, Gerard Lozanski, Marciej Piertzak, Michal Seweryn, Woo Yul Bun, Katja Schulze, Alan Nicholas, Ann Johnson, Jessica Grindheim, Stephanie Hilz, David Shames, Chris Rivard, Eric Haura, Ciaran McNamee, G. Alexander Patterson, Saiama Wagar, Valerie Rusch。
この研究は、OSUCCC – Jamesにおける臨床試験の費用と免疫細胞分析について、Genetech社からスポンサーシップの支援を受けている。Carbone博士は、この研究で使用されたがん免疫療法薬であるTecentriq(テセントリク)の製造元であるGenetech社のコンサルタントを務めている。
監訳:川上正敬(肺癌・分子生物学/東京大学医学部附属病院 呼吸器内科)
翻訳担当者 瀧井希純
原文掲載日
【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。
肺がんに関連する記事
免疫療法薬2剤併用+化学療法はSTK11/KEAP1変異肺がんに有効
2024年11月18日
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、腫瘍抑制遺伝子であるSTK11/KEAP1に...
先住民地域のラドン曝露による肺がんリスクの低減を、地域と学術連携により成功させる
2024年11月7日
「ラドンへの曝露は肺がんのリスクを高めますが、いまだに検査が行われていない住宅が多くあります。...
世界肺癌学会2024で発表されたMDアンダーソン演題(非小細胞肺がん)
2024年10月17日
肺がん手術と腫瘍病理診断の質の向上により術後生存期間が延長
2024年10月16日