肺がん患者は、他のがんリスクを高める遺伝的変異を継承している場合がある
遺伝子検査は、患者、家族のリスクを見つけ出し、治療選択肢を決定するのに役立つ
ASCOエキスパートの見解:「肺がんのほとんどは喫煙やその他の環境的要因に起因する可能性がありますが、肺がんを発症する遺伝的素因は何千人もの患者に影響を及ぼしています。これらの病原性生殖細胞系変異は、肺がんが若年で発症する場合、または他の危険因子なしに発症する場合の発症の原因となるだけでなく、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がんなど、他のがんの発症リスクも高め、治療の選択肢に影響を及ぼす可能性があります。また、遺伝的変異の知識を持つことで、親族にもがんのリスクを警告することもできます」 – Jyoti D. Patel医師、ASCO、ASCO肺がん専門医
病原性生殖細胞系変異(PGV:遺伝的に継承された、受胎時から存在する遺伝子変化の検査)は、遺伝性がんのリスクを持つ患者を特定するのに役立つ。肺がんは喫煙などの環境要因に起因するところが大きいと考えられていることから、肺がんにおけるPGVの役割はこれまで十分に認識されていなかった。しかしながら、肺がん患者を対象とした新しい研究では、15% 近くが 病原性生殖細胞系変異(PGV)を有していることがわかった。これは、彼らとその家族が他の種類のがんにかかるリスクが高いことを意味している。本研究の結果は、2022年8月16日午後3時 (東部時間) に開催されるASCO プレナリーシリーズのセッションで発表される。
細胞中の生殖細胞系の変化は、喫煙、日光暴露、加齢などの要因により、生涯を通じて起こる体細胞変化 (後天性変化)とは異なるものである。体細胞変化はがんの最も一般的な原因であるが、生殖細胞系変化に関する知識は、がんの予防や早期発見、最適な治療方針の決定に有益になることがある。
本研究で、研究者らは肺がん患者 7,788 人を対象に生殖細胞系のDNA塩基配列決定法を実施し、1,161人(14.9%)の患者に、既知の81のがんリスク遺伝子のうち合計1,503の病原性生殖細胞系変異(PGV)が特定されたことを発見した。これらの患者のうち、1,104人(95.1%)は、承認された薬剤による治療または臨床試験のいずれかで治療できる可能性のある PGV、または予防と早期発見で治療できる可能性のある PGVを有していた。
さらに、712 人(61.3%)はDDR/HRR遺伝子に病原性生殖細胞系変異(PGV)を特異的に有しているので、彼らは乳がん、膵臓がん、前立腺がん、卵巣がんなどの同一変異体を有する他のがんで使用されている標的療法の治療対象となる可能性がある。
研究者らによると、これらの発見には多くの意味がある。
遺伝性がん症候群と診断された場合、患者は肺がんに加えて他の種類のがんのリスクも高いことを意味する。
遺伝性がんを示す病原性生殖細胞系変異(PGV)を有する患者の血縁者は、同一PGVを有するリスクがある。同一PGVを有する家族を特定し、彼らの監視と予防を強化することによって、彼らのリスクを軽減することが可能になるだろう。
「家族歴や他のがんの既往歴に関係なく、肺がん患者におけるPGVの実質的頻度は、現在検査が推奨されている他の全ての一般的な固形腫瘍に見られる頻度と同様です」とVCU Masseyがんセンターの血液学・腫瘍学・緩和ケアの学部長であり、本研究の発表著者である Renato Martins医師(公衆衛生学修士)は述べている。
「これらの他のがんの検査が推奨される理由により、肺がん患者は他のがんのリスクを知る機会を奪われるべきではありません。なぜなら、家族が自分のリスクを見つけ出すことに役立ち、DNA修復経路における病原性生殖細胞系変異(PGV)を発見することの意義を自ら理解し、有力な治療手段として活用することで利益を得ることができるからです」
著者らは、本研究の潜在的限界として、遺伝子検査紹介患者の選択バイアスと、検査対象遺伝子選択のばらつきが含まれる可能性があると述べている。
アブストラクトとプレゼンテーションは、2022年8 月16日午後 3:00(東部時間)から以下で閲覧可能:ASCO Plenary Series Program | ASCO
監訳:田中 謙太郎(呼吸器内科、腫瘍内科、免疫/九州大学病院 呼吸器科)
翻訳担当者 畔柳 祐子
原文掲載日
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