EGFRエクソン20変異肺がんに対するポジオチニブの活性は挿入位置に依存
一部の肺がんに対して新たなレベルの高精度医療(Precision Medicine)が必要であることを示唆する研究結果
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らが主導した、上皮成長因子受容体(EGFR)エクソン20変異非小細胞肺がん(NSCLC)に対するポジオチニブ(poziotinib)の第2相臨床試験により、本剤が有意な抗腫瘍活性を有すること、その有効性はエクソン20のループ挿入位置に大きく依存することが明らかになり、今後のEGFRエクソン20の標的療法の臨床試験にも影響する可能性があることがわかった。
本日、Cancer Cell誌に発表されたこの研究では、EGFRエクソン20変異を有する全患者の奏効率は32%であったが、この有効性は変異の位置によって異なった。「ループ近くの」挿入では奏効率が46%、「ループから離れた」挿入では奏効率が0%であった。今回の結果は、研究チームがNature Medicine誌に発表した、EGFRエクソン20変異を有する患者における本剤の活性を裏付ける先行研究結果、およびEGFR変異を構造と機能で分類することによりNSCLC患者をさらに正確に有効な治療法に適合させられることを証明したNature誌の研究結果を踏まえたものである。
「EGFRエクソン20変異肺がんは一般的に、従来のEGFR変異を標的とすることで奏効が高かったチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)ではあまり奏効せず、この患者集団には有効な治療選択肢がほとんどありません」と、上席著者で胸部・頭頸部腫瘍内科部長のJohn Heymach医学博士は述べている。「私たちの研究は、有益な治療選択肢となり得るだけでなく、EGFRエクソン20変異を確実に標的とし、さらに効果的な臨床試験をデザインする新たなレベルの精度への希望をもたらすものです」。
エクソン20変異は、エクソン20がEGFRタンパク質内で折り畳まれているαCヘリックスのC末端後ループに、付加的にアミノ酸が挿入されることを特徴としている。この挿入により、薬物結合ポケットに欠陥が生じ、一部のTKIに対する感受性を低下させる可能性がある。変異の同定に用いられる標準的な塩基配列決定法には、挿入されたアミノ酸の位置が含まれる。本研究では、ループ近くの挿入をアミノ酸A767からP772まで、ループから離れた挿入をP772より先と定義された。
初期の試験結果から、挿入位置の重要性が示唆されていたため、研究チームは、細胞株や分子動力学シミュレーションなどの前臨床モデルを使って、この観察結果を検討した。その結果、第2世代TKIであるポジオチニブは、エクソン20の挿入位置がループ近くの場合、ループから離れている場合と比較して効果的にEGFRタンパク質に結合することを発見した。この知見は、挿入ループの位置に基づいて臨床奏効を分析した際に実証された。
「EGFRエクソン20を標的となる変異として定義したことは大きな一歩でしたが、今回はさらに一歩進んで、エクソン20内でもすべての変異が同じではないことがわかりました」と、筆頭著者で胸部・頭頸部腫瘍内科助教のYasir Elamin医師は述べている。「さらなる研究が必要ですが、これらの知見は他のエクソン20阻害剤にも適用できる可能性があり、今後の臨床試験ではエクソン20の挿入位置を考慮する必要があります」。
本試験は管理可能な安全性プロファイルで主要評価項目を達成
本単一施設試験(NCT03066206)には、EGFRエクソン20に点変異または挿入変異を有する進行NSCLC患者50人が登録された。患者には、Heymach博士のチームがエクソン20変異NSCLCの治療薬として特定し転用したTKIであるポジオチニブを投与した。この治療法におけるポジオチニブの開発は、患者の生命を救う臨床的進歩に向けた科学的発見の開発を加速させるための共同研究であるMDアンダーソンのムーンショットプログラム(Moon Shots Program®)の一環である肺がんムーンショット(Lung Cancer Moon Shot®)の支援を受けて行われた。
臨床試験の登録者は、60%が女性で、年齢の中央値は62歳であった。人種は、白人76%、アジア人16%、アフリカ系アメリカ人8%であった。大半の患者(94%)は、過去に1回以上の全身治療歴を有していた。
本試験では、主要評価項目である30%以上の客観的奏効率(ORR)を達成し、試験医師による評価で32%、盲検独立判定委員会による判定で31%のORRが得られた。また、無増悪生存期間(PFS)中央値は5.5カ月、奏効期間中央値は8.6カ月、全生存期間中央値は19.2カ月であった。
トランスレーショナルな知見から、EGFR阻害剤に対する耐性メカニズムは、既に知られている2つのカテゴリーに分類されることがわかった。すなわち、後天的なT790MおよびC797S変異のようなEGFR依存性のメカニズムと、上皮間葉転換のようなEGFR非依存性のメカニズムである。これらのデータは、EGFR阻害剤に対する既知の耐性メカニズムがエクソン20阻害剤にも適用されることを初めて確認するものである。
ほとんどの患者がグレード1または2の毒性を経験した。特に多く発現した有害事象は、下痢(92%)、発疹(90%)、口腔粘膜炎(68%)、爪周囲炎(68%)および皮膚乾燥(60%)であった。皮膚毒性を管理する治療を開始した後に皮膚科専門医による追跡調査を行った。有害事象により治療を中断した患者は3人(6%)にとどまった。合計36人(72%)の患者が有害事象により投与量を減量したが、PFSの中央値は減量群および全試験集団で同程度であった。
これらの結果に基づき、現在進行中のいくつかの臨床試験では、EGFRエクソン20変異NSCLCに対するポジオチニブをさらに長期にわたる国際コホートで評価し、有効性を維持しながら毒性を低減する代替用量の戦略を検証している。
本研究は、Spectrum Pharmaceuticals社、米国国立衛生研究所および米国国立がん研究所(R01 CA190628、R01 CA234183、 R01 CA247975、P30 CA016672、P50 CA070907、1U54CA224065-01 )、および肺がんムーンショット(Lung Cancer Moon Shot®)から資金提供を受けている。その他の研究支援は、Cancer Prevention and Research Institute of Texas (RP200150)、David Bruton, Jr. Chair、Rexanna’s Foundation for Fighting Lung Cancer、Kopelman Fund for Lung Cancer Research、Exon 20 Group、Lung Cancer Research Fund、 William P. Hallman氏、Lung Cancer Research FoundationおよびASCO Career Development Awardによるものである。
MDアンダーソンは、この研究に関連するSpectrum社と組織的な金銭的利害関係がある。また、Heymach氏は研究支援を受けており、Spectrum社と経済的利害関係がある。MDアンダーソンは、MDアンダーソンのこの研究の実施に関して、組織的な利益相反管理およびモニタリング計画を実施してきた。Heymach氏を含むMD Andersonは、ポジオチニブの使用に関する特許を申請し、Spectrum社にその技術を供与している。Heymach氏を含むMDアンダーソンは、EGFR TKI耐性NSCLCの治療に関する特許を1件、EGFR変異の分類に関する特許を1件、それぞれ出願中である。Heymach氏は、Rexanna’s Foundation for Fighting Lung CancerとEGFR Resistersの科学アドバイザーを務めている。Elamin氏はSpectrum社から研究支援を受けている。共著者と開示情報の全リストは論文に掲載されている。
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日本語記事監修 :稲尾崇(呼吸器内科/神鋼記念病院)
翻訳担当者 会津麻美
原文掲載日
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