加齢黄斑変性の進行抑制に、βカロテン代替サプリメントで肺がんリスクを軽減
加齢黄斑変性(AMD)の進行を抑制する目的で用いられるサプリメントとして、βカロテンに代えてルテインとゼアキサンチンの有用性が確認され、この代替サプリメントの採用によりβカロテンに関連する肺がんのリスクが低減されることが10年間の追跡研究であるAge-Related Eye Disease Study 2 (AREDS2)により明らかになった。
AREDS2のベースとなる試験であるAREDSでは、サプリメントの処方(ビタミンC 500mg、ビタミンE 400IU、銅2mg、亜鉛80mg、βカロテン15mg)により、加齢黄斑変性の中期から後期への病態の進行を有意に抑制する可能性が示されている(https://bit.ly/3xr5sTy)。一方で、βカロテンを摂取した患者のうち喫煙習慣がある人においては、肺がんのリスクが通常の想定を有意に上回るという結果を、他の2つの研究が示している。
「2006年から2012年にかけておこなわれたランダム化臨床試験AREDS2では、AREDSで処方していたサプリメントにルテインとゼアキサンチンを追加し、βカロテンと比較して加齢黄斑変性の進行リスクを評価した。追跡期間平均5年のこの研究では、βカロテン群に無作為に割り付けられた患者では肺がんの発症率がほぼ2倍であり、特に元喫煙者ではその傾向が顕著だった」と、 ベセスダの米国立眼科研究所(US National Eye Institute)のEmily Chew医師はロイター ヘルスに電子メールで語った。
「AREDS2試験終了後に追跡研究を5年間追加し、すべての参加者にルテインとゼアキサンチンを含むAREDS2のサプリメントを処方した。その結果、AREDS2試験でβカロテン群に割り付けた患者において変わらず肺がんのリスクが増加することが示されたが、これはやや意外な結果だった。10年間の追跡期間の後半5年間はβカロテンの投与を中止したにもかかわらず、この結果が示された。ルテイン+ゼアキサンチン群では、肺がん発症リスクの上昇はみられなかった」とChew医師は述べた。
JAMA Ophthalmology誌によると、Chew医師らによるAREDS2試験の多施設共同の疫学的追跡研究では、患者をルテイン+ゼアキサンチン群、オメガ3脂肪酸群、ルテイン+ゼアキサンチン+オメガ3脂肪酸群、プラセボ群の4群に割り付けて比較し、さらに、βカロテンを摂取する群としない群の比較、ならびに亜鉛の低用量群と高用量群の比較評価を行った。
今回追加で行った5年間の追跡研究は、AREDS2試験に参加していた患者のうち3,882人(平均年齢72歳、女性58%)、6,351眼を対象とし、参加者は全員、両眼または片眼の中期加齢黄斑変性を有していた。
上記Chew医師のコメントのとおり、追加された5年間の追跡研究では、すべての参加者がルテインとゼアキサンチンを含むAREDS2のサプリメントを摂取し、βカロテンは摂取しなかった。主要評価項目は自己申告による肺がんと後期加齢黄斑変性で、6カ月ごとに電話確認を行い、これを評価した。
当初のAREDS2の試験開始から10年後、肺がん発症のオッズ比は、βカロテン群に無作為に割り付けた患者において1.82、ルテイン+ゼアキサンチン群で1.15であった。
後期加齢黄斑変性への進行のハザード比(HR)は、ルテイン+ゼアキサンチンを摂取する群としない群の比較では0.91、オメガ3脂肪酸を摂取する群としない群の比較では1.01であった。
ルテイン+ゼアキサンチンの主要評価を、βカロテン群に無作為に割り付けた患者に限定すると、後期加齢黄斑変性への進行のHRは0.80であった。
ルテイン+ゼアキサンチン群とβカロテン群を直接比較すると、後期加齢黄斑変性への進行のHRは0.85であった。
さらに、亜鉛の低用量群と高容量群との比較および、βカロテンを摂取しない群とする群との比較における後期加齢黄斑変性への進行のHRはいずれも1.04であった。
Chew医師は、「ルテインとゼアキサンチンに、βカロテンと同等の加齢黄斑変性の進行抑制効果があることが認められたのは良い結果だ。βカロテンの代替としてルテインとゼアキサンチンを摂取することは適切な判断だと言える」と述べている。
ナッシュビルのヴァンダービルト眼科研究所(Vanderbilt Eye Institute)の眼科・ビジュアルサイエンス科助教のAvni Finn医師は、この研究についてロイター ヘルスへの電子メールで次のように語っている。「どのような研究にも言えることだが、今回の追加研究にも、そのベースとなるAREDS2試験にも限界がある」。
「今回の追加研究で評価された主要評価項目の多くは、自己申告によるものであり、眼検診の結果や画像データがないため、どのタイプの後期加齢黄斑変性に分類されるのか(滲出型と萎縮型(地図状萎縮))を判別することはできない」 。
「さらに、試験に参加した患者集団には一般集団ほどの多様性はないため、今回の知見を一般化することには限界があるかもしれない。最後に、AREDS2終了後の追跡研究ではプラセボ群においても真のプラセボではなく、AREDS2のサプリメントを処方している」。
「AREDS2の処方サプリメント(ビタミン)は、後期加齢黄斑変性への進行を抑制するかもしれない。しかしそのリスクを減らす効果は、相対的にわずか25%にすぎない。滲出型や萎縮型(地図状萎縮)を含む後期加齢黄斑変性へのリスクを減らし、進行を遅らせるためには、もっとやるべきことがたくさんある」と、Avni Finn医師は述べている。
出典:https://bit.ly/3NXLLIy JAMA Ophthalmology, online June 2, 2022.
日本語記事監修 : 大野 智(補完代替医療、免疫療法/島根大学 臨床研究センター)
翻訳担当者 田代両平
原文掲載日
【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。
肺がんに関連する記事
免疫療法薬2剤併用+化学療法はSTK11/KEAP1変異肺がんに有効
2024年11月18日
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、腫瘍抑制遺伝子であるSTK11/KEAP1に...
先住民地域のラドン曝露による肺がんリスクの低減を、地域と学術連携により成功させる
2024年11月7日
「ラドンへの曝露は肺がんのリスクを高めますが、いまだに検査が行われていない住宅が多くあります。...
世界肺癌学会2024で発表されたMDアンダーソン演題(非小細胞肺がん)
2024年10月17日
肺がん手術と腫瘍病理診断の質の向上により術後生存期間が延長
2024年10月16日