個別化した血液検査で肺がん再発を予測
肺がんの治療後に各患者に個別化した血液検査を行うことでがんの再発リスクが高い患者を特定できることをケンブリッジ大学の研究者が示した。
キャンサーリサーチUKケンブリッジ研究所の研究者が用いた個別化血液検査はリキッドバイオプシーの1種であり、腫瘍の増殖に伴って血液中に放出されるわずかなDNA断片を検出することができる。
血中循環腫瘍DNA(ctDNA)と呼ばれるこのDNAにより腫瘍の状態、位置、さらにはその弱点を明らかにできる。これは最良の治療法を選択する際に有用である。
キャンサーリサーチUKの助成を受けたこの肺がん血中循環腫瘍DNA(LUCID-DNA)試験の結果は、4月1日にAnnals of Oncology誌に発表された。
「各患者に個別化したモニタリングと治療を提供できれば、最終的により多くの命を救い、より早くがんに打ち克つことができるでしょう」Robert Rintoul教授、ケンブリッジ大学胸部腫瘍科教授、ロイヤルパプワース病院呼吸器科名誉医師
患者にとっての意義
多くの早期非小細胞肺がん患者は手術または放射線療法、場合によっては化学放射線療法で治癒可能である。
肺がん患者は、治療によって腫瘍を除去できたかを確認するために治療後もCTスキャンなどの検査で注意深く追跡される。しかし、スキャンでは新たな腫瘍へと再増殖する可能性がある微小残存病変(MRD)と呼ばれる少量のがん細胞を検出できない。
医師たちは肺がん細胞が治療後にも存在し活動している徴候をリキッドバイオプシーなどの手法を用いて確認することで、より良い治療法を選択し、高リスク患者の生存率を改善したり、低リスク患者の副作用を軽減することができる。
研究者たちが行ったこと
LUCID-DNA試験の目的は、早期肺がんにおいて血中循環DNAの検出が可能かを探求することであった。試験で用いたRaDaR™と呼ばれるリキッドバイオプシーでは、各患者の腫瘍に固有の変異を最大で48個まで分析できる。
RaDaR™は、Nitzan Rosenfeld博士を共同創立者とするバイオテクノロジー企業であるInivata社が開発したもので、元々はキャンサーリサーチUKケンブリッジ研究所の同博士の研究室で開発された技術に基づいている。
Nitzan Rosenfeld博士はキャンサーリサーチUKケンブリッジ研究所のグループリーダーであり、Inivata社の主任研究員である。この試験の共同筆頭著者でもある博士は次のように述べている。
「治療後に体内にがん細胞が残っていると腫瘍が再増殖する可能性があります。再増殖が生じると患者にとっても医師にとっても大きく後退することになります」。
「治療後に残存する少量のがん細胞をリキッドバイオプシーを用いて検出することで、治療で腫瘍を完全に根絶できなかった可能性のある患者を特定できます。医師が追加治療の必要性を判断するのにこの技術が役立って命を救えることを望んでいます」。
MRDを有する肺がん患者をリキッドバイオプシーによって特定できるかを探るために、LUCID-DNA試験チームはロイヤルパプワース病院およびアデンブルックス病院で早期非小細胞肺がん(NSCLC)の治療を受けていた88人の患者を登録した。NSCLCは全肺がん患者の85%以上を占めている。
研究チームは患者の腫瘍検体から抽出したDNAの配列を解析して、各患者の肺がんに固有の変異の組合せを明らかにした。Inivata社はこの遺伝的な「指紋」を用いて各患者の腫瘍に対して個別化した血液検査を開発した。
次にリキッドバイオプシーを用いて、治療前と治療から最大9カ月後までに採取した血液検体中の腫瘍DNAを検出することを試みた。研究者らは、治療後2週間から4カ月の間に腫瘍DNAが検出された患者は肺がんが再発するか肺がんで死亡する可能性がきわめて高いことを発見した。
「リキッドバイオプシーの最良の導入方法を見極めるにはさらに研究する必要がありますが、今回の結果によってリキッドバイオプシーは追加治療が必要な患者を特定するのに有効なツールとなり得ることが明らかになりました」と、この試験の共同筆頭著者であるRintoul教授はコメントした。
ある肺がん患者の例
肺がんは英国では3番目に多いがんである。英国では毎年約48,500人が肺がんと診断され、毎年約35,100人が肺がんで死亡している。
Aart Alders氏は、肺がん手術を受けた後にロイヤルパプワース病院での肺がん血中循環腫瘍DNA(LUCID-DNA)臨床観察試験に参加した。
「5年ほど前に初めて早期肺がんと診断されて、がんの除去手術を受けました。術後に化学療法が必要な人もいますが、私は幸いにも元の肺がんが再発していません」と彼は話した。
「LUCID-DNA臨床試験のお役に立てて嬉しかったです。肺がんが再発するかどうかを予測するのに役立つ血液検査が開発されれば、治る人が増えるでしょう」。
次のステップ
「英国では肺がんは最も多い死因の一つです。発見が早ければ早いほど治療が成功する可能性は高まります」と、キャンサーリサーチUKの最高経営責任者であるMichelle Mitchell氏は話した。
「治療前後に侵襲手術を行うことなくがんの徴候を検出できれば患者にとっても医師にとっても大きな可能性が開けます」。
「リキッドバイオプシーの発展のためにさらなる研究が行われることを望みます。それにより最終的には医師がそれぞれの患者にとって最良の治療を提供することが容易になり、生存率が向上するでしょう」。
原文掲載日
【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。
肺がんに関連する記事
STK11/KEAP1変異肺がんに免疫療法薬2剤+化学療法が有効
2024年11月18日
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、腫瘍抑制遺伝子であるSTK11/KEAP1に...
先住民地域のラドン曝露による肺がんリスクの低減を、地域と学術連携により成功させる
2024年11月7日
「ラドンへの曝露は肺がんのリスクを高めますが、いまだに検査が行われていない住宅が多くあります。...
世界肺癌学会2024で発表されたMDアンダーソン演題(非小細胞肺がん)
2024年10月17日
肺がん手術と腫瘍病理診断の質の向上により術後生存期間が延長
2024年10月16日