イングランド国民保健サービス(NHS)がソトラシブを肺がんに早期提供

英国医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は、特定の肺がんの治療を目的として、最も悪性度の高いがんを引き起こす遺伝子変異を標的とする、これまでにないがん治療薬を承認した。

今回の承認は、長らく「創薬不能(undruggable)」とされてきた遺伝子変異に対処できる薬剤を40年にわたって探し続けた結果の画期的な決定である。

「ソトラシブは、この20年で最も革新的な肺がん治療薬のひとつです」
  –キャンサーリサーチUK臨床責任者Charles Swanton教授

イングランドの国民保健サービス(NHS)は、製薬会社との間で国内提供に関する合意に達した後、数週間以内に、要件を満たす肺がん患者に対してこの薬の提供を開始する。

飛躍的に進歩した肺がん治療薬

ソトラシブ(販売名:Lumakras)は、特定の遺伝子異常(KRAS G12C変異)を有する成人非小細胞肺がんの治療薬として認可された。本薬は、腫瘍の転移があり、プラチナ製剤を用いた化学療法や免疫療法での治療歴がある患者の選択肢となる。

イングランドでは、国民保健サービスの下で年間約600人の患者がこの錠剤による治療を受ける見込みである。

「ソトラシブは、これまで標的にできなかったがん遺伝子を標的とする、この20年で最も革新的な肺がん治療薬のひとつです。数十年にわたってがんの内部で起こっている謎を解明してきた実験室での研究の賜物です」と、キャンサーリサーチUKの臨床責任者であるCharles Swanton教授はいう。

がんの約4分の1は、異常なRASタンパク質によって生じる。この異常は、膵臓、肺、腸の腫瘍など、治療が困難ながんによく見られる。

研究者らは何十年もかけて、KRASがどのようにしてがんを増殖させるのかを解明してきた。例えば、キャンサーリサーチUKが資金を提供した研究では、細胞外からのシグナルでKRASが活性化すると、細胞内シグナル伝達が次々と生じて、細胞の挙動に変化をもたらすことが明らかになった。

このような知見があってもKRASを阻害する方法の開発は困難であったため、長い間このタンパク質は「創薬不能」な標的であると考えられてきた。

しかし、粘り強い研究によってついにKRAS(G12C)異常を標的とする方法が見つかり、ソトラシブのような薬剤の開発への道が開かれた。The New England Journal of Medicine誌に掲載された第2相臨床試験では、124人の患者のうち46人でソトラシブになんらかの効果がみられた。

本薬を投与した患者は、平均して7カ月間、腫瘍が増大することなく生存した。この試験では本薬と現在行われている治療との比較は行われなかったが、他の試験において、標準治療(化学療法)によって腫瘍増大なしに生存した期間は平均4カ月未満だった、との指摘がある。

治療関連の有害事象は88人に生じ、最も多かったのは下痢、吐き気、倦怠感だった。

「この治療は肺がんに対する効果的な精密治療のひとつに加えられ、選択肢の限られた患者の生存向上に貢献するでしょう。イングランドの患者がこの新しい治療を受けられることになって本当によかったです」とSwanton教授はいう。

早期提供

40年にわたる科学研究の末、ソトラシブは「がん治療を飛躍的に進歩させるでしょう。それゆえに、国民保健サービスは、要件を満たす多くの肺がん患者に対し本薬を迅速に提供すべく取り組んできました」と、国民保健サービスの商務責任者代理であるBlake Dark氏はいう。

ソトラシブは、米国食品医薬品局(FDA)が有望ながん治療薬の審査・承認に向けて調整したプログラムであるProject Orbisによって承認された。本薬は、カナダ、オーストラリア、スイス、シンガポール、ブラジル、そして英国(2021年1月〜)の各規制当局が参加するProject Orbisによって承認された2番目の薬剤である。

現在、英国国立医療技術評価機構(NICE)が行っている評価が完了し、またイングランド国民保健サービス(NHS)、英国国立医療技術評価機構、および製造元Amgen社の3者間で、国民保健サービスの予算に影響を与えることなく、イングランド内の要件を満たす肺がん患者に対して本薬を早期に提供できるよう合意した後、数週間以内に、国民保健サービスが本薬の使用を開始する。

英国国立医療技術評価機構(NICE)ガイダンスは2022年3月に完成する予定である。英国医療技術評価機構の決定事項は、通常ウェールズと北アイルランドで採用されるが、スコットランドでは医薬品審査に別のプロセスが設けられている。

一連の研究

まもなく、KRAS G12C変異を有する非小細胞肺がんの成人患者を対象に、ソトラシブとドセタキセル(販売名:タキソテール)を比較する後期臨床試験が始まる。また、このKRAS遺伝子変異を有する進行がん患者を対象に、ソトラシブと他の治療との併用可能性も研究されている。

研究者たちは、このKRAS遺伝子変異を標的とする別の方法にも目を向けている。2019年、グラスゴーのキャンサーリサーチUK Beatson Instituteは、主導した研究に基づいて新たにKRAS阻害薬を開発するために、ノバルティス社と複数年にわたるパートナーシップを締結した。

さらに、今年はこれまでに、キャンサーリサーチUKから資金援助を受けた研究者たちが、実験室において、開発中の薬剤(CCT3833)を使って、KRAS変異を持つ膵臓、腸および肺のがん細胞の成長を抑制することに成功している。

翻訳担当者 奥山浩子

監修 田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

肺がんに関連する記事

【ASCO2024年次総会】進行肺がんの早期緩和治療で遠隔医療と対面ケアの有効性は同等の画像

【ASCO2024年次総会】進行肺がんの早期緩和治療で遠隔医療と対面ケアの有効性は同等

ASCOの見解(引用)「進行非小細胞肺がん患者において、早期の緩和ケアは生存期間を含む患者の転帰を改善することが研究で示されています。この大規模ランダム化試験で、遠隔医療による...
【ASCO2024年次総会】進行肺がん(NSCLC)、ロルラチニブで無増悪生存期間が最長にの画像

【ASCO2024年次総会】進行肺がん(NSCLC)、ロルラチニブで無増悪生存期間が最長に

ASCOの見解(引用)「これらの長期データの結果は並外れて良く、この研究でALK陽性非小細胞肺がん患者に対する一次治療薬としてのロルラチニブ(販売名:ローブレナ)の優れた持続的...
【ASCO2024年次総会】オシメルチニブは局所進行EGFR変異NSCLCの標準治療を変える可能性の画像

【ASCO2024年次総会】オシメルチニブは局所進行EGFR変異NSCLCの標準治療を変える可能性

ASCOの見解(引用)「LAURA試験は、切除不能なステージIII疾患におけるEGFR標的療法の役割を明確にした最初の試験である。本試験ではオシメルチニブと現在の標準治療である...
周術期ニボルマブ+化学療法が肺がんの転帰を改善の画像

周術期ニボルマブ+化学療法が肺がんの転帰を改善

周術期におけるニボルマブ+化学療法併用により、化学療法単独と比較して疾患の再発、進行、または死亡の確率が有意に低下することが第3相試験で明らかに

テキサス大学MDアンダーソンがんセンター...