EGFR変異の構造・機能別分類により非小細胞肺がんに最適な治療を予測

薬剤の効果を予測できる4つの新たなサブグループが判明

上皮成長因子受容体(EGFR)変異をその構造と機能で分類すると、非小細胞肺がん(NSCLC)患者を適切な薬剤に結びつける的確な枠組みを構築できることをテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究グループが明らかにした。2021年9月15日にNature誌に発表されたこの研究では、変異を4つのサブグループに分類し、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)を試験する新たな戦略とともに、承認済みの分子標的薬をすぐに臨床導入できる可能性があることが報告された。

「70種類を超えるEGFR変異が患者から同定されているが、そのほんの一握りに対してしか承認薬がない。今回の研究から直ちに言えることの1つは、今すでに使える治療薬がこれらの多くの変異に有効かもしれないとわかったことである。ある変異に対しては長く使われている薬が有効かもしれないし、別の変異には新薬の方が有効かもしれない」と、胸部頭頸部腫瘍内科長でこの研究の上級著者であるJohn Heymach医学博士は語った。「現在ガイダンスがないため、医師はすべてのEGFR変異に対して新薬を使うことが多い。このモデルを使えば、患者に適した治療薬をすぐに選ぶことができ、特定の変異のサブグループに有効な薬剤の開発も期待できる」。

第1世代、第2世代、第3世代のチロシンキナーゼ阻害薬は、それぞれ異なるメカニズムでEGFRタンパク質を標的としている。Heymach博士らは、サブグループ内の変異がタンパク質上にある薬物結合ポケットの機能に与える変化によって、薬剤がそのサブグループに対して発揮する効果が高くなることを発見した。

この研究チームが明らかにした4つのEGFR変異陽性非小細胞肺がんサブグループは以下のとおりである。

古典様変異:薬物結合にほとんどまたは全く影響を与えない
 ・T790M様変異:疎水性間隙に1つ以上の変異を有し、第1世代分子標的薬に対する抵抗性が生じた後に獲得されることが多い
 ・エクソン20ループ挿入変異:エクソン20のαCヘリックスのC末端後ループにアミノ酸が付加的に挿入される
 ・PループαCヘリックス圧縮(PACC)変異:ATP結合ポケットの内部表面またはαCヘリックスのC末端にある

EGFR変異陽性非小細胞肺がんに対する新薬は、現在、エクソン番号をもとに試験が行われている。この番号は、DNAの直線部分のどこに変異があるかを示している。変異をエクソンで分類すると、臨床研究や実験モデルで得られる結果の大半が不均一で、エクソン番号と薬物の感受性や抵抗性の間には相関がほとんどないようにみえると著者らはいう。

「1つのエクソンの中にさまざまな変異が含まれている。そこで私たちは、上皮成長因子受容体の構造と薬物結合に変異が与える影響に基づいて、変異を整理した。そうすることで、ある薬物の試験を、構造が類似する変異グループ全体に同時に行うことができる」とHeymach博士は述べた。「これは、変異を分類して記述し、適切な薬剤に結びつけるための新しい標準方法になると考えている」。

非定型変異の多様性がビッグデータで明らかに

EGFRタンパク質の変異は、北米では非小細胞肺がんの約15%、アジアでは約30~40%に認められる。全体的に、70種類を超えるEGFR変異が存在する。「古典的」変異に対しては、米国食品医薬品局(FDA)が承認した分子標的薬が奏効しやすいが、その他の「非定型」変異に対する有効な治療法や指針は少ない。

本研究では、5つの患者データベースに登録されたEGFR変異陽性非小細胞肺がん患者16,175人のデータを解析した。11,619人に主要変異および同時変異が記録されていた。このうち、67.1%が古典的EGFR変異、30.8%が非定型変異、2.2%が同時変異であった。

本研究のための詳細な分子情報およびアウトカム情報を提供した主要なデータベースの1つが、Genomic Marker-Guided Therapy Initiative(GEMINI)であった。これは、肺がんムーンショット(Lung Cancer Moon Shot®)のビッグデータプロジェクトで、患者の生命を救う臨床の進歩のための科学的発見の進展を促進するためにデザインされた共同活動であるMDアンダーソンのムーンショットプログラム(Moon Shots Program®)の一環である。

この研究チームは、古典的および非定型EGFR変異のいずれについても、がんがどれだけの期間で治療抵抗性になるかを示す治療成功期間(TTF)について解析した。すると、治療タイプにかかわらず、非定型変異をもつ患者は治療成功期間が短く全生存が低い傾向にあった。第1世代および第3世代チロシンキナーゼ阻害薬の治療を受けた古典的変異患者は治療成功期間がより長かった。

そこで、EGFR変異を有する76細胞株のパネルを作り、それらの細胞株を18種類のEGFR阻害薬に対してふるい分けしたところ、4つのサブグループに分かれた。サブグループごとの薬物感受性との相関をエクソンとの相関と比較したところ、構造のサブグループの方がエクソンのグループよりも予測性が高かった。サブグループを用いた方法について、機械学習で分類ツリーおよび回帰ツリーによるデータ解析を行い、さらに詳しく検証した。

古典様変異は全種類のチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)に対して感受性があり、中でも第3世代TKIに対して感受性が高かった。エクソン20ループ挿入変異は最も不均一なサブグループで、一部の変異に対しては第2世代TKIが最も奏効した。T790M様変異はALKおよびPKC阻害薬に対して感受性があり、一部の変異は第3世代TKIに対しても感受性が認められた。PACC変異は第2世代TKIに対して感受性が最も高かった。

「適切な薬剤を患者の変異に適切に結びつける方法を考え始めたとき、タンパク質は直線ではないのでエクソンによる変異の分類は私にはピンとこなかった」と、胸部頭頸部腫瘍内科研究科の助教でこの研究の筆頭著者であるJacqulyne Robichaux博士は語った。「タンパク質は三次元なので、変異したときに薬物感受性と相関するタンパク質領域があるかどうかを調べることにした。その結果、私たちはその領域を発見した。こうしたサブグループは、構造上その機能に直接関連する共通の特徴をもっており、患者アウトカムの予測は、後ろ向き解析の結果ではあるが従来の方法よりも優れていた」。

次世代シーケンシングの役割のさらなる重要性と今後の研究

この研究は、非小細胞肺がんの新規診断患者や再発患者全員にバイオマーカー検査をすることの重要性も強く訴えている。現在の次世代シーケンシング法は、既知の発がんドライバーであるEGFR変異を全範囲にわたって検出することができる。つまりそうした変異は実質的に、構造で分類した4つのサブグループのいずれかに該当する。これはまれな変異には特に重要である。なぜなら、個別の変異に基づいた従来の臨床試験の方法では試験が難しいからである。今後、前向き試験が実施されれば、このサブグループの枠組み構造はさらに改良されていくだろう。

「これは患者にとって重要な進歩だ。なぜなら、現在、大多数のEGFR変異に対して米国食品医薬品局が承認した分子標的薬がないので、医師はどの変異に対してどの薬を使えばいいのかわからないからだ」とHeymach博士は述べた。「変異が属する構造グループがわかれば、その変異に対して最良の薬剤を選択しやすくなる。今後は、薬剤の試験を個別の変異に対して行うのではなく、構造が似ている変異のグループ全体に対して実施すれば、この方法は薬剤開発にも役に立つ可能性がある」。

翻訳担当者 粟木瑞穂

監修 田中謙太郎(呼吸器内科、腫瘍内科、免疫/九州大学病院 呼吸器科)

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