切除可能早期非小細胞肺がんにも定位放射線の長期有益性が示される

手術可能な早期非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対する定位放射線治療(SABR)は長期的に外科手術と同等の効果をもたらし、副作用は少ないことがテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究グループによる新しい研究で示された。これは手術可能な早期NSCLC患者の長期的な転帰を、外科治療とSABRで比較した初めての研究である。

この非ランダム化単群試験(revised STARS試験)は、放射線腫瘍科教授であるJoe Chang医学博士および胸部心臓血管外科教授であるJack Roth医師の主導で行われ、2021年9月13日にThe Lancet Oncology誌に発表された。

定位放射線治療(SABR)は、高線量の放射線を特定の腫瘍部位に集中して照射するもので、周囲の正常な組織に損傷を与えない。この治療法は手術不能な早期非小細胞肺がん(NSCLC)に対する標準治療として用いられているが、その有効性と利便性そして非侵襲性から、手術可能な患者の治療法として関心が高まっている。

「外科的に肺を切除した場合、回復に時間がかかるだけでなく、切除した部分の大きさによっては肺機能が著しく低下することがあります」とChang医学博士は言う。「一方、SABRは非侵襲的な『ナイフ』にたとえられるように、少ない副作用でがんを除去します。治療は外来で受けることができて、所要時間は30分程度です。治療後は、その日のうちに帰宅できますし、仕事をすることもできます。肺機能も維持されます」。

本研究は、2015年に発表された2つのランダム化試験(STARS試験およびROSEL試験)のプール解析を基に、SABRの有益性を、ビデオ補助胸腔鏡下肺葉切除および縦隔リンパ節郭清術(VATS L-MLND)と呼ばれる外科手術との比較によって調査したものである。

今回の研究では、新たに早期NSCLCと診断され、腫瘍の大きさが3cm以下だった患者をSABR群として登録した。2015年9月1日から2017年1月31日までの期間に登録された患者80人と、同期間に外科手術を受け、傾向スコアマッチングした患者とを比較した。最終追跡調査は2020年9月30日、追跡期間の中央値は5.1年だった。

結果として、全生存(OS)率について、SABR群と外科手術群の間に有意差はなかった。3年生存率はSABR群、外科手術群ともに91%であり、5年生存率はSABR群が87%、外科手術群は84%だった。

無増悪生存(PFS)率も同様で、3年後の無増悪生存率はSABR群80%、外科手術群88%、5年後の無増悪生存率はそれぞれ77%と80%だった。SABRの忍容性は良好で、グレード4~5の毒性は認められず、グレード3の呼吸困難1件だけが報告された(1.3%)。

この結果は、治療法がSABR、VATS L-MLND手術のいずれであっても治療効果は同様であることを示している、とChang医学博士は言う。どちらの治療法も全生存期間と無増悪生存期間の延長に有効だったが、患者によっては低侵襲なSABRの方がより有益かもしれない。

「外科手術では縦隔リンパ節転移に関する追加情報を得ることができます。しかし一方で、重大な副作用や合併症も付随するのです」とChang医学博士は言う。「手術に比べて治療関連の副作用や合併症がはるかに少ないことを考えると、とくに高齢の患者や併存疾患のある患者に対して、非侵襲的なSABRはより良い生活の質を提供することができるでしょう」。

手術可能な早期NSCLC患者にとって、SABRは治療の有望な選択肢であることに変わりはないが、同時に集学的な管理もまた強く推奨される。

「早期肺がんの場合、局所制御はどちらの治療法でも可能です。したがって、どのような患者に対して外科手術あるいはSABRが最も有益であるか、その理解を深めるにはさらなる研究が必要でしょう」とChang医学博士は言う。「どうすればリンパ節転移や遠隔部位での再発をさらに減らすことができるかが今後の課題です」。

Chang医学博士らの研究チームは現在、より大きな腫瘍や孤立性再発または多重肺がんの患者を特に対象として、SABR単独療法と抗PD-1免疫療法薬併用療法とを比較するランダム化試験(I-SABR試験)に取り組んでいる。

本研究は、Varian Medial Systems社および米国国立衛生研究所からの助成金により実施された。共著者の全リストと著者に関する情報は論文に記載されている。

翻訳担当者 岩佐薫子

監修 小宮武文(肺癌、頭頸部癌、臨床試験)

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