禁煙は肺がん診断後に開始しても生存を延長

早期の肺がんと診断された後に禁煙すると、より長く生存できる可能性があることが、新たな研究で明らかになった。また、この研究はロシアで500人以上の患者が参加し、禁煙はがんの再発や悪化を遅延させることが明らかになった。

この知見は、早期肺がんと診断された後に禁煙した人としなかった人の生存期間を比較した最大規模の前向き研究から得られたものである。

禁煙した群は、喫煙を続けた群と比較して、中央値で22カ月長く生存した(6.6年対4.8年)と7月27日付のAnnals of Internal Medicine誌で報告された。また、禁煙によりがんが進行するまでの期間が延長した(5.7年対3.9年)。

「がんと診断された時点で、患者の中にはこれを運命と感じ、禁煙しても意味がないと考える人もいるかもしれません」と本研究を共同で主導した国際がん研究機関(IARC)のMahdi Sheikh医学博士は語る。「しかし禁煙は常に非常に有益であり、がんと診断されてから禁煙を始めても決して遅すぎるということはないと、今回の研究で明確に示されました」。

研究ギャップを埋める

がんと診断された喫煙者の多くが診断後も喫煙を続けていることが過去の研究で示唆されており、その約半数は非小細胞肺がん(NSCLC)患者である。

禁煙が肺がんの発症率を低下させるという確固たるエビデンスがあるが、肺がんと診断された後も禁煙が有効であるかどうかについての研究は少ないとSheikh博士は指摘する。

「この新しい研究は重要です」と本研究に関与していないNCIのタバコ規制研究部門(Tobacco Control Research Branch)のStephanie Land博士は語る。今回の結果は「早期肺がん患者の禁煙に伴う全生存期間と無増悪生存期間の具体的な改善について明確で正確な証拠」を提供するものであるとLand博士はさらに語った。

今回の知見は、禁煙治療を全てのがん患者に対する日常医療における標準ケアとする論拠になるとマサチューセッツ総合病院の喫煙研究治療センター(Tobacco Research and Treatment Center)のNancy Rigotti博士は論文の付随論説で述べた。

今回の研究は米国の公衆衛生局長官が2020年に発表した禁煙に関する報告書に続くもので、この研究により既存の知見を裏付けられたと同時に新たな知見も得られたとRigotti医師は指摘する。

Land博士もこの点に同意し、がん患者を対象とした研究で参加者の喫煙状況を経時的に収集したものはほとんどないと指摘している。

「しかし今回の研究は、がん患者の喫煙に関連した最も重要な臨床的疑問について前向きに結果を出したのです。すなわち、診断後の禁煙の意義はなにか?です」とLand博士は語る。

患者への年1回の電話調査

IARCが主催した10年におよぶ研究の間、早期のNSCLCと診断された時点で現在喫煙者であった517人の患者に対し年に1回電話インタビューを実施した。患者の追跡調査は平均7年間行われた。

この調査で患者の喫煙状況、治療法、がんの再発や転移などの事象に関する情報が収集された。

計220人の患者(42.5%)が禁煙し、そのほとんどが診断後すぐに禁煙した。禁煙した患者のうち8人が後に喫煙を再開した。

肺がんと診断されてから3年後と5年後の時点で、禁煙した患者は他の患者よりも生存率が高かったことが明らかになった。

診断から3年後、禁煙した人の75%が生存しているのに対し、喫煙を続けていた人は66%であり、診断から5年後、禁煙した人の61%、喫煙を続けていた人の49%が生存していると推定された。

軽、中、重喫煙者いずれにおいても、禁煙は生存期間を改善した。また、化学療法や放射線療法を受けているかどうかにかかわらず、禁煙により生存期間が向上した。

「これらの研究結果は、腫瘍病期、喫煙強度、治療状況にかかわらず、すべての肺がん患者に診断後の診察時に禁煙を勧めるべきであることを示唆しています」とSheikh博士は語った。

時間と共に治療法が変化して生じる可能性のある差異に加え、患者が禁煙または喫煙を再開したタイミングの違いを説明するために研究らは統計的手法を用いた。

今回の研究では、禁煙した人の生存期間が延長した理由の説明となり得る、参加者の生物学的な違いについて調査していない。しかし、タバコの煙に含まれる発がん物質は正常な細胞や腫瘍細胞のDNAを損傷し、腫瘍の成長や進行を促進する可能性があるとSheikh博士は指摘する。

禁煙治療をがん治療の一環として定着させる

「残念ながら、行動を起こすべきだという強い研究結果があるにもかかわらず、禁煙治療はがん治療の標準ケアになっていません。この目標を実践することが課題であり、取り組みは継続中です」とRigotti医師は付随論説の中で述べている。

このギャップに対処するため、NCIはキャンサー・ムーンショットの一環としてがん治療中の人々の禁煙を支援するための全国的な取り組みを開始した。がんセンター禁煙プログラム(C3I :Cancer Center Cessation Initiative)は、52か所あるNCI指定のがんセンターで治療する患者のための禁煙サービスを開発または改善するための取り組みに資金を提供した。

2018年以降、がん患者5万人以上がC3Iの禁煙治療プログラムを受けている。この取り組みは、禁煙介入を患者の日常治療と一体化させている。

C3Iの目標は、喫煙しているがん患者が通常治療を受ける際にどこにおいても禁煙治療を利用できるようにすることだとNCIでC3Iを主導しているLand博士は語る。

早期の肺がん患者の禁煙を支援するための資源は非常に重要であるとSheikh博士は述べている。

「禁煙しようとしている患者には支援が必要で、励ますだけでは十分ではありません」とSheikh博士は語る。「がん治療の現場で禁煙治療プログラムを実施し、それを日常治療にする必要があります」。

翻訳担当者 松長愛美

監修 久保田 馨(呼吸器内科/日本医科大学付属病院 がん診療センター)

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