非喫煙者の肺がんの起源が 米国国立衛生研究所の研究で明らかに

【米国国立がん研究所(NCI)プレスリリース】

喫煙歴のない人の肺がんをゲノム解析した結果、これらのがんの大部分は体内での自然なプロセスで生じた変異の蓄積によって生じることがわかった。この研究は、米国国立衛生研所(NIH)の一部である米国国立がん研究所(NCI)の研究者を中心とした国際チームによって行われ、喫煙経験のない人に発生する肺がんは、分子特性により3つのタイプに分けられることが初めて明らかとなった。

これらの知見により喫煙歴のない人の肺がんの発生機序が解き明かされ、より正確な治療法の開発へつながる可能性がある。本研究結果は、2021年9月6日付のNature Genetics誌に掲載された。

「喫煙未経験者の肺がんには、分子的特徴や進化過程の異なるいくつかのタイプが存在することがわかってきました。将来的には、これらの分類に応じたそれぞれの治療ができるようになるかもしれません」と、本研究を主導した疫学専門のMaria Teresa Landi医師(米国国立がん研究所がん疫学・遺伝学部、統合腫瘍疫学部門)は述べた。研究は米国環境衛生科学研究所(国立衛生研究所の一部)と他の研究者らと共同で行われた。

肺がんは、世界のがん関連死亡者数の第1位であり、毎年世界で200万人以上の人が肺がんと診断されている。肺がんを発症する人の大半は喫煙歴があるが、肺がんを発症する人の10%~20%は喫煙歴がない。喫煙未経験者の肺がんは女性に多く、喫煙者の肺がんに比べて若い年齢で発症する。

タバコの受動喫煙、ラドン、大気汚染、アスベストなどの環境的危険因子や肺疾患の既往歴が喫煙未経験者の肺がんの原因になることがあるものの、そのような肺がんの大部分は原因不明と考えられている。

今回の大規模な疫学研究では喫煙未経験者232人の患者を対象とし、全ゲノム配列解析を用いて腫瘍組織のゲノム変化を特定して正常組織と比較した。患者は主にヨーロッパ系の人々で非小細胞肺がんの診断を受けていた。肺がんの中で最も多い腺がんが189人、カルチノイドが36人、その他のタイプの腫瘍が7人であった。これらの患者はまだがん治療を受けていなかった。

研究者らは、変異シグネチャー特定のため腫瘍のゲノムを詳しく調査した。この変異シグネチャー(変異の特徴)とは、体内の自然現象による損傷(DNA修復不良や酸化ストレスなど)や発がん物質への曝露など、特定の変異プロセスに関連する変異パターンを指す。変異シグネチャーは、変異の蓄積に至るまでの腫瘍の活動記録簿のような役目を持ち、がんの発生原因を知る手がかりとなる。現在、既知の変異シグネチャーの一覧が存在しているが、中には原因不明のシグネチャーもある。今回の研究では、喫煙未経験者の腫瘍ゲノムの大部分が、内因性プロセス(体内で起こる自然なプロセスによる損傷)に関連する変異シグネチャーを持っていることを発見した。

予想どおり、今回の研究は喫煙未経験者に限定されていたため、タバコの煙を直接吸い込むことに関連すると先行研究で示された変異シグネチャーは見つからなかった。また、受動喫煙にさらされたことのある62人の患者からも、そのような変異シグネチャーは見つからなかった。しかしLandi医師は注意点として、今回はサンプル数が少なく曝露のレベルはばらつきが大きいことを挙げている。

「喫煙経験のない人の肺がん発症に関して受動喫煙の影響を本格的に調査するには、より多くのサンプル数と受動喫煙に関する詳細な情報が必要です」とLandi医師は述べている。

ゲノム解析の結果、喫煙未経験者の肺がんには3つの新たなタイプが存在することも判明した。研究者らはこれらの分類別に、腫瘍内の「雑音」のレベル(つまりゲノム変化の数)に応じて音楽用語をあてた。最も多くみられる「ピアノ(弱い)」タイプは、最も変異が少なく、新たな細胞の生成に関与する前駆細胞の活性化に関連していると考えられた。このタイプの腫瘍は何年にもかけて非常にゆっくり増殖するが、さまざまなドライバー変異を持つ可能性があり治療が困難である。「メゾフォルテ(やや強い)」タイプでは、特定の染色体の変化と、肺がんで変化しやすい成長因子受容体EGFRの遺伝子に変異がみられ、腫瘍の増殖が速いことがわかった。「フォルテ(強い)」タイプでは、喫煙者の肺がんでよくみられるゲノム変化である全ゲノム倍化がみられた。このタイプの腫瘍も増殖が速い。

 「予防や治療のアプローチが異なる可能性のあるタイプを識別できるようになってきました」とLandi医師は言う。たとえば、増殖の遅いピアノタイプでは、臨床医は治療があまり困難とならない段階で、これらの腫瘍を早期発見できる機会が得られるかもしれない。一方メゾフォルテやフォルテのサブタイプでは、主要なドライバー変異はわずかであり1回の生検でこれらの腫瘍を特定できるため、標的治療が有効であることが示唆されているという。

本研究の今後の方向性として、民族的背景や居住地に違いのある人々を対象として、肺がんの危険因子への曝露歴も詳しく調べていく。

「私たちは、これらの腫瘍がどのように進化していくのかを理解し始めたばかりです」とLandi医師は言う。「今回の解析で喫煙未経験者の肺がんには不均一性、つまり多様性があることがわかりました」。

米国国立がん研究所(NCI)がん疫学・遺伝学部部長のStephen J. Chanock医師は語る。「このように、腫瘍のゲノムの特徴を探偵のように調査していけば、複数のがん種に関する新たな発見への道が開かれると期待しています」。

  本研究は、米国国立がん研究所(NCI)の所内研究プログラムおよび米国国立環境衛生科学研究所によって実施された。

翻訳担当者 白濱紀子

監修 稲尾 崇 ( 呼吸器内科/神鋼記念病院 呼吸器内科)

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