分子標的薬ソトラシブがKRAS G12C変異肺がんの生存期間を延長

KRAS阻害薬は安全であり長期的な臨床効果をもたらすことが第2相試験から明らかになった。MDアンダーソンの研究者がASCOで発表した。

アブストラクト #9003

CodeBreaK 100試験の第2相コホートの結果から、KRAS G12C阻害薬ソトラシブ(販売名:Lumakras、Amgen, Inc.社)が、KRAS G12C変異を有する非小細胞肺がん(NSCLC)既治療患者において客観的奏効率37.1%、全生存期間中央値12.5カ月を達成したことが明らかになったと、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究グループが報告した。この成果は、2021年6月4日に、2021年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表され、New England Journal of Medicine誌に掲載された。

この試験結果から、複数の治療歴を有する患者集団に対してこの分子標的療法が安全で忍容性があることを示された。この研究報告によって、ソトラシブは、承認申請を目的とする第2相臨床試験で全生存期間の延長が証明された初のKRAS G12C阻害薬となる。

ソトラシブは、CodeBreaK 100試験の既報の結果に基づいて、2021年5月28日に米国食品医薬品局に承認された。この薬剤は、規制当局に承認された初の直接KRAS阻害薬である。

「KRASは、30年以上、治療標的としてとらえどころがなく、新薬の開発対象にはならない(undruggable)と考えられてきました。この試験では、KRAS変異をうまく特異的に標的化することができ、生活の質を落とすことなく有意な生存延長が得られることを示す説得力あるエビデンスが得られました」と、この研究の筆頭著者で胸部・頭頚部腫瘍内科の助教であるFerdinandos Skoulidis医学博士は語った。「KRAS G12C変異陽性肺がん患者にとって、こうした結果が得られたことは、ソトラシブの承認とともに非常に画期的な出来事です。とうとう承認済みの標的療法の選択肢が現れたのです」。

KRASは非小細胞肺がんにおいて最もよくある発がんドライバーで、患者の25~30%に変異が認められる。ソトラシブ(AMG 510)は、肺腺がん全体の約13%に認められるKRAS G12Cという変異KRASタンパク質の一種を標的とする、非可逆的かつ選択的な小分子阻害薬である。

迅速かつ長期的な臨床効果と忍容可能な副作用が明らかに

この単群多施設試験には、免疫チェックポイント阻害薬やプラチナ製剤化学療法による治療後に進行した局所進行または転移性KRAS G12C変異陽性の非小細胞肺がん患者126人が登録された。ソトラシブは1日1回投与の経口薬である。主要評価項目は、独立中央機関が評価した客観的奏効であった。

この試験から、患者46人に客観的奏効(37.1%)が認められ、そのうち完全奏効が4人(3.2%)および部分奏効が42人(33.9%)であることが明らかになった。100人(80.6%)に病勢コントロールが認められ、腫瘍縮小または安定の状態であった。全生存期間中央値は12.5カ月、奏効期間中央値は11.1カ月、無増悪生存期間中央値は6.8カ月であった。

毒性はコントロール可能で、主に低グレードであり、治療関連有害事象で治療を中止したのは9人(7.1%)のみであった。治療関連有害事象を呈した患者88人において、25件(19.8%)がグレード3、1件(0.8%)がグレード4の事象であった。

参加者の年齢中央値は63.5歳で男女比は1:1(50%)であった。患者の大多数(81.7%)は白人で、次いでアジア人(15.1%)、黒人(1.6%)、およびその他の人種(1.6%)であった。患者は、過去に最大3種類の治療を受けており、96.8%に転移があった。全体で81%の患者にプラチナ製剤化学療法および免疫チェックポイント阻害薬の両方の治療歴があった。

「患者10人中8人に腫瘍縮小または安定が認められ、こうした患者は症状に改善が見られることが多かった」とSkoulidis博士は語った。「この分子標的療法には患者の生活の質に悪影響を与えるような重大な毒性がないため、こうした患者は長く活動的な生活を送ることが可能である」。

ソトラシブは困難なサブグループにも有効であり、さらなる研究が進行中

この試験はさらに、分子サブグループ別に効果を解析しており、KEAP1に同時変異がないSTK11共変異を有する患者で特に有望な結果が明らかになった。STK11変異腫瘍は免疫療法や化学療法などの標準治療に対する効果が低い傾向にあるため、このグループの客観的奏効率50%、無増悪生存期間中央値11カ月は注目に値する。

他の分子サブグループでもソトラシブの効果が認められた。ソトラシブは、年齢、前治療歴、およびその他の患者背景に関連するさまざまな基本特性をもつ患者に対して、幅広く一貫した効果を示した。

「これらの試験結果は診療を変えるものですが、この研究はまだ終わっていません」とSkoulidis博士は述べた。「ソトラシブに対する反応の決定因子を解明し、考えられるあらゆる抵抗性の機序を特定するための研究が幅広く行われているところです。これらの結果は、KRAS変異腫瘍に対する進歩の基礎となる一歩であり、さらに有効な併用レジメンへの足がかりとなる可能性が高いでしょう。前途有望です」。

Skoulidis博士は、Amgen Inc.社からの研究支援を報告している。全共著者のリストおよび開示は論文に記載されている。この研究は、Amgen Inc.社、および一部はMemorial Sloan Kettering Cancer CenterでのNational Institutes of Health Cancer Center Support Grant (P30 CA008748)の支援を受けた。

翻訳担当者 粟木瑞穂

監修 稲尾崇(呼吸器内科/神鋼記念病院 呼吸器内科)

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