プラルセチニブはRET遺伝子異常の甲状腺がん、肺がんの治療薬として安全かつ有効
選択性の高いRET阻害薬プラルセチニブ(販売名:GAVRETO、Blueprint Medicines Corporation社)(1日1回投与)は、RET融合遺伝子陽性進行非小細胞肺がん(NSCLC)およびRET遺伝子異常甲状腺がんの治療薬として、安全かつ有効であることが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターが実施したマルチコホート第1/2相臨床試験「ARROW」で明らかになった。両群について得られた知見はそれぞれ、6月9日発行のLancet Oncology誌およびLancet Diabetes & Endocrinology誌に掲載された。
「標的療法は、がん遺伝子により生じた非小細胞肺がん(NSCLC)や甲状腺がんの治療を劇的に改善してきました。選択的RET阻害薬プラルセチニブの効果が速やかに臨床試験で示されたことは、精密医療の進展にとって大きな節目となるでしょう」と試験責任医師であるVivek Subbiah医師(Investigational Cancer Therapeutics准教授)はいう。
米国食品医薬品局(FDA)は、転移性のRET融合遺伝子陽性非小細胞肺がん(NSCLC)について2020年9月に、進行性のRET遺伝子異常甲状腺がんについて2020年12月に、プラルセチニブを承認した。
RET融合遺伝子は、RET遺伝子を含むDNAの断片が別の遺伝子と結合して生じ、この融合によりキナーゼ酵素が活性化し、継続的にがん細胞に増殖シグナルを送ってがんの進行を促進する。RET遺伝子の異常はDNA配列の変異によって起こり、さまざまなタイプの腫瘍においてがん化の原因となる。RET遺伝子変異は、甲状腺髄様がんに最もよく認められ(進行症例の約90%)、それ以外には甲状腺乳頭がん(症例の約10~20%)、および非小細胞肺がん(NSCLC)(症例の約1~2%)に認められる。
RET融合遺伝子陽性固形がんにおいて、外科手術、放射線、化学療法、免疫療法などの標準的ながん治療では限定的な効果しか得られないことから、新しい治療法の標的としてRET融合遺伝子が浮上してきた。
「RET遺伝子異常陽性のがんの患者は個別化治療を必要としています」とSubbiah医師はいう。「今回のデータによると、プラルセチニブは、RET遺伝子に異常がある非小細胞肺がん(NSCLC)および甲状腺がんについて、治療歴のない患者と治療抵抗性の患者の両方で持続的奏効を示し、この薬剤が新たにこのような希少がんの標準治療となりえることを証明しています」。
非小細胞肺がん(NSCLC)群では、2020年5月22日のデータ固定時点で、RET融合遺伝子陽性非小細胞がん(NSCLC)患者233人を対象として解析が行われた。このうち92人はプラチナ製剤を含む化学療法を受けたことがあり、29人は全身治療を受けたことがなかった。試験の結果、プラルセチニブは、全身治療歴のない患者において奏効率(ORR)70%、完全奏効率11%を達成し、プラチナ併用の化学療法を受けたことのある患者では、奏効率(ORR)61%、完全奏効率6%を達成した。
甲状腺がん患者では、2020年5月22日のデータ固定時点で、RET変異甲状腺髄様がん患者122人とRET融合遺伝子陽性甲状腺がんの患者20人を含む、RET遺伝子に異常がある局所進行/転移性固形がん患者が登録された。奏効率(ORR)は、治療歴のないRET変異甲状腺髄様がん患者で71%、カボザンチニブおよび/またはバンデタニブによる治療歴のある患者で60%、RET融合遺伝子陽性甲状腺がん患者で89%だった。
「2020年まで、進行甲状腺がんの標準的な治療薬としてマルチキナーゼ阻害薬が承認されていましたが、有効性は認められるものの、様々な重篤な有害事象のおそれがありました」と、本試験の試験分担医師であるMimi Hu医師(Endocrine Neoplasia and Hormonal Disorders教授)はいう。「プラルセチニブのような極めて強力なRET阻害薬は高い奏効率を示し、かつ副作用の忍容性もより高いので、患者の満足度が向上します。新しい精密治療の開発は、このような希少疾患の患者にとって不可欠です」。
甲状腺がん患者5人(4%)が治療関連有害事象(TRAE)により治療を中止し、1人の患者がTRAEにより死亡し、非小細胞肺がん(NSCLC)患者14人(6%)がTRAEにより治療を中止した。最終的に、プラルセチニブは、RET融合遺伝子陽性非小細胞肺がん(NSCLC)およびRET遺伝子異常陽性の甲状腺がんに対して、強力でありながら忍容性の高い治療薬であるとの結果が示された。
「これらのデータから改めてわかったことは、今後も臨床の場でゲノム検査を行い、RET遺伝子異常など、治療標的となりうる(actionable)発がん異常を同定することが重要だということです」とSubbiah医師はいう。
「ARROW」試験は、Blueprint Medicines Corporation社から資金提供を受けた。共著者およびその情報は、The Lancet Oncology誌およびThe Lancet Diabetes & Endocrinology誌に掲載されている。
原文掲載日
【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。
肺がんに関連する記事
肺がん患者は病気や治療を肯定的に捉えると転帰が改善する可能性
2024年12月21日
欧州臨床腫瘍学会(ESMOアジア2024)ハイライト
2024年12月20日
米FDAが、非小細胞肺がんと膵臓腺がんにzenocutuzumab-zbcoを迅速承認
2024年12月17日
STK11/KEAP1変異肺がんに免疫療法薬2剤+化学療法が有効
2024年11月18日
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、腫瘍抑制遺伝子であるSTK11/KEAP1に...