免疫療法薬アテゾリズマブは早期非小細胞肺がん切除患者の再発を遅らせる

米国臨床腫瘍学会(ASCO)の見解
「早期肺がんの治療に免疫療法が有効であることが初めて確認されました。IMpower010試験は、特定の患者において、アテゾリズマブ(販売名:テセントリク)が進行がんへの進行を遅らせ、より積極的な治療の必要性も遅らせる可能性があることを示しています。これは、免疫療法に対するわれわれの理解の大きな進展であり、多くの肺がん患者にとって前進となるでしょう」と、米国臨床腫瘍学会(ASCO)副会長および最高医学責任者Julie R. Gralow医師(FACP(米国内科学会フェロー)、FASCO(米国臨床腫瘍学会フェロー)述べている。

2021年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される新たな研究によると、早期非小細胞肺がん(NSCLC)切除患者、特に免疫チェックポイントタンパク質PD-L1が陽性の患者で、免疫療法薬のアテゾリズマブ(テセントリク)を用いた治療により無病生存期間(DFS)が延長した。この研究結果は、早期がん患者の再発遅延に道を開く。

試験の概要
注目点進行期NSCLCで有効性が実証されているアテゾリズマブが、術後再発リスクのある早期がん患者にも有効であるかどうかを調べる。

対象:完全切除されたステージIB~IIIAの非小細胞肺がん(NSCLC)患者1,280人が登録され、シスプラチンベース化学療法の後、1,005人の患者がアテゾリズマブ群またはベストサポーティブケア群に無作為に割り付けられた。

結果:
・ステージII~IIIAで免疫チェックポイントタンパク質PD-L1のレベルが1%以上の患者のうち、アテゾリズマブ群の無病生存期間(DFS)中央値はデータカットオフ時点で未達であり、ベストサポーティブケア群のDFS中央値は35.3カ月であった。

・ステージII~IIIAのすべてのNSCLC患者のうち、アテゾリズマブ群のDFS中央値は42.3カ月で、ベストサポーティブケア群では35.3カ月であった。

・すべてのグレードの有害事象および重篤な有害事象は、アテゾリズマブ群でより多くみられた。

意義NSCLCの治療の進歩は、主に進行がんにおけるものであった。本試験は、早期肺がん患者において、手術および化学療法後の免疫療法が再発を有意に遅延させ得ることを示した初めての第3相試験である。

主な知見
免疫療法は、進行NSCLC患者の生存を改善することが示されているが、IMpower010試験は、ステージII~IIIAのNSCLC切除患者において、術後免疫療法が無病生存期間(DFS)を有意に延長できることを明らかにした初の第3相試験である。

アテゾリズマブは、チェックポイント阻害薬として知られる治療薬の部類に属する免疫療法薬の一種であり、腫瘍細胞表面上のタンパク質(PD-L1)を阻害することで腫瘍細胞に対する免疫系応答を改善する。早期NSCLCと診断された患者の約半数は、腫瘍細胞上にPD-L1が発現している。

ステージII~IIIAで免疫チェックポイントタンパク質PD-L1のレベルが1%以上の患者のうち、アテゾリズマブ群の患者は、ベストサポーティブケア群の患者と比較して再発または死亡のリスクが34%低下した。アテゾリズマブ群は、データカットオフ時点でDFS中央値が未達であったのに対し、ベストサポーティブケア群のDFS中央値は35.3カ月であった。

ステージ II~IIIAのすべてのNSCLC患者のうち、アテゾリズマブ群の患者は、ベストサポーティブケア群の患者と比較して再発または死亡のリスクが21%低下した。アテゾリズマブ群のDFSは42.3カ月であったのに対し、ベストサポーティブケア群では35.3カ月であった。今回の中間DFS解析の時点で、ステージIB~IIIAのNSCLC患者のコホート全体において、アテゾリズマブ群のDFSは、ベストサポーティブケア群と比較して有意性に達しなかった。全生存期間データ(OS)は解析にはデータがまだ不十分であった。

すべてのグレードの有害事象が、アテゾリズマブ群とベストサポーティブケア群でそれぞれ92.7%および70.7%に発生した。免疫療法群は、ベストサポーティブケア群と比較してグレード3/4の有害事象が多く見られ、それぞれ21.8%および11.5%であった。また、アテゾリズマブ群の患者の20%近くが、治療中断を余儀なくされる副作用を経験した。

筆頭著者のHeather Wakelee医学博士(胸部専門医でスタンフォード大学医療センターの内科教授兼腫瘍学部長)は、「早期肺がん患者の一部は手術によって治癒が可能ですが、再発するのが非常に一般的です。この試験が行われるまでは、大部分の患者で再発リスクを低下させる効果のあることが知られていた治療は、化学療法(またはEGFR変異のある腫瘍を有する少数の患者に対してはオシメルチニブ)だけでした」と述べている。「これらのデータは、バイオマーカーのPD-L1を発現している腫瘍の患者で、アテゾリズマブを用いた個別化医療が術後のNSCLC再発の可能性を低減できることを示しています」。

試験について
合計1,280人の患者が登録された。シスプラチンベース化学療法の後、1,005人の患者をアテゾリズマブ群またはベストサポーティブケア群に1対1で無作為に割り付けた。主要評価項目は無病生存期間(DFS)であり、ステージII~IIIAでPD-L1レベルが1%以上のNSCLC患者、ステージII~IIIAのすべてのNSCLC患者、ステージIB~IIIAのNSCLC患者で評価された。副次評価項目は全生存期間(OS)であった。

アテゾリズマブを少なくとも1回投与されたすべての患者、またはベストサポーティブケア群に無作為に割り付けられた場合は、ベースライン後の安全性評価を少なくとも1回受けたすべての患者で安全性が評価された。

次のステップ

試験は継続中であり、アテゾリズマブ群のDFS中央値は未達である。患者のOSについても引き続き追跡が行われている。

翻訳担当者 工藤章子

監修 川上正敬(肺癌・分子生物学/東京大学医学部附属病院 呼吸器内科)

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