アダグラシブがKRAS変異型非小細胞肺がんに有効

 欧州肺がん会議 2021バーチャルプレスリリース

欧州肺がんバーチャル会議2021で報告されたKRAS(G12C)阻害薬adagrasib[アダグラシブ]を用いた試験の結果によれば、KRAS(G12C)を阻害する薬として二番目となるアダグラシブに臨床的効果が示され、KRAS(G12C)変異を有する進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者の治療標的としての役割を果たすことが確認された。[1]

主著者のGregory Riely氏(スローンケタリング記念がんセンター、米国ニューヨーク州)は、「ますます多くの非小細胞肺がん患者においてがんを起こす原因となる異常を見いだす取り組みが進むにつれて、こうして見つけられた発がん因子を標的とする治療法を開発することが重要になる」と述べている。

「KRAS遺伝子変異は、非小細胞肺がん(NSCLC)患者に最も頻繁にみられる発がん因子であり(*監修 者注:欧米人では記載の通りですが、日本人をはじめとする東アジア人ではKRAS変異ではなくEGFR変異が最多)、KRAS遺伝子変異を有する非小細胞肺がんについては30年前から知られていたが、今、ようやく、このタイプの肺がんを標的にした薬剤が登場した」。

マルチコホートの第1/2相KRYSTAL-1試験では、KRAS(G12C)遺伝子変異を有する進行または転移のある非小細胞肺がん患者79人を対象に、KRAS(G12C)の選択的阻害剤であるアダグラシブを評価した。ほとんどの患者(92%)は、化学療法と抗PD-(L)1剤による治療歴があった。

臨床効果の評価が可能な51人の患者のほぼ半数(45%)がアダグラシブによる治療で部分奏効に至り、26人の患者の病状が安定したという結果が示された。

「奏効率45%は、KRAS(G12C)変異を有する非小細胞肺がん患者には前例のない効果だ」と、Myung-Ju Ahn氏(三星ソウル病院(成均館大学校医学大学)、韓国ソウル)はコメントしている。「治療歴のあるKRAS変異患者に他の化学療法や免疫療法を実施してもこれほど大きな奏効は期待できず、KRAS(G12C)が治療標的であることが示唆された」。長期的な追跡調査のデータが限られているため、なおも研究を必要とするが、今回の結果が実地医療に変化をもたらす可能性があるとAhn氏考えている。

アダグラシブによる結果は、今年の初めに世界肺がん学会2021で発表された別のKRAS(G12C)阻害剤であるsotorasib[ソトラシブ]の結果に匹敵するものである。[2]

「今回、KRAS(G12C)変異NSCLCに対する有望な標的薬が見つかったことは、現在、満たされていない医療ニーズを抱える非小細胞肺がん患者の治療に新たな方向性をもたらすことにつながる」とAhn氏は述べている。

KRAS(G12C)変異は、非小細胞肺がんのうち最も多い肺腺がんの患者の約14%にみられるが、現在、承認されたKRAS標的治療薬はない。

「KRAS(G12C)阻害薬が増えることにより、免疫チェックポイント阻害薬や他の低分子MAPキナーゼ阻害薬などの他の薬剤との併用を検討する機会が増える」とRiely氏は述べている。

「アダグラシブがKRAS(G12C)変異陽性、非小細胞肺がんに果たす役割を確定するために、今回のデータを活用して今後の臨床試験が設定された。そうした試験は、プラチナ製剤を用いた化学療法による治療歴があるKRAS(G12C)変異NSCLC患者に対する本剤の効果を検討する特別の機会になり、規制当局の承認を得るために申請する可能性もある」。Riely氏によれば、承認されれば、「アダグラシブが、KRAS遺伝子変異を有する非小細胞肺がん患者にとって化学療法よりも望ましい二次治療法となるのは明らかである」。

「毒性が低いことから、アダグラシブを化学療法、免疫療法または他の分子療法と併用することによって、KRAS(G12C)変異陽性NSCLC患者の治療効果を高める可能性がある」とAhn氏は述べている。

KRYSTAL-1の追加データから、KRAS(G12C)に加えてSTK11にも変異がある患者の方がアダグラシブによく奏効することが示された。非小細胞肺がんでは、STK11 に変異があると、免疫チェックポイント阻害薬に奏効しにくい。「STK11遺伝子変異のある患者の方が奏効率が高いという結果から示唆されるのは、このグループの患者にチェックポイント阻害薬は有効ではないが、アダグラシブであればよく奏効する可能性があるということだ」とRiely氏は述べている。

参考文献

  1. Abstract 99O_PR ‘KRYSTAL-1: Activity and Preliminary Pharmacodynamic (PD) Analysis of Adagrasib (MRTX849) in Patients (Pts) With Advanced Non–Small- Cell Lung Cancer (NSCLC) Harboring KRASG12C Mutation’ will be presented by Gregory Riely during the Proffered Paper Session on Thursday, 25 March, 14:35-15:55 CET on Channel 1. Journal of Thoracic Oncology, Volume 16, Number 4S, Supplement, April 2021
  2.  Abstract PS01.07. CodeBreaK 100: Registrational phase 2 trial of sotorasib in KRASp.G12C mutated non-small-cell lung cancer. IASLC 2021.

翻訳担当者 渡邉純子

監修 田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

肺がんに関連する記事

STK11/KEAP1変異肺がんに免疫療法薬2剤+化学療法が有効の画像

STK11/KEAP1変異肺がんに免疫療法薬2剤+化学療法が有効

進行非小細胞肺がんでSTK11/KEAP1変異を有する患者への併用療法により転帰が改善

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、腫瘍抑制遺伝子であるSTK11/KEAP1に...
先住民地域のラドン曝露による肺がんリスクの低減を、地域と学術連携により成功させるの画像

先住民地域のラドン曝露による肺がんリスクの低減を、地域と学術連携により成功させる

2024年ASCOクオリティ・ケア・シンポジウム発表の新研究ASCOの見解(引用)
「ラドンへの曝露は肺がんのリスクを高めますが、いまだに検査が行われていない住宅が多くあります。...
世界肺癌学会2024で発表されたMDアンダーソン演題(非小細胞肺がん)の画像

世界肺癌学会2024で発表されたMDアンダーソン演題(非小細胞肺がん)

特集:術前・術後の免疫療法、HER2およびEGFR遺伝子変異を標的とした治療など、肺がん治療における有望な臨床的進歩テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究ハイライトでは...
肺がん手術と腫瘍病理診断の質の向上により術後生存期間が延長の画像

肺がん手術と腫瘍病理診断の質の向上により術後生存期間が延長

2024年ASCOクオリティ・ケア・シンポジウム発表の新研究ASCOの見解「過去15年間にわたり、ミシシッピ・デルタ中心部における質改善の取り組みは、この高リスク集団の...